01_日常の欠片
一瞬の間だった。
目の前が暗転する
その時に彼に分かった事は自分の命が失われていくのだと言う事。
「ああ、まだ死にたくねぇな……俺。」
呟きは闇に消えた。
-日常の欠片-
その日は珍しく雲ひとつ無い晴天であった。
日差しは初夏を知らせ、気づけば蝉の声が聞こえる
アスファルトは熱を帯び、陽炎の様に揺らいでいた。
「ああっちぃ………」
冷房の効いたマンションの入り口から出ると、ビルの壁面から照り返す強い日差しを受ける。
「なんでこんなに暑いんだよ……」
「それはお主が黒尽くめの格好をしてるからじゃろ?ナーハフォルガー。」
からからと笑いながらかけられる声に、青年は顔を顰めて足を止める。
振り返った先にはさらに暑そうな和服美人-しかも黒髪お姫様カットをしている-が立っていた。
「……千早」
「ま、暑いのはどうしようもないからのう、お茶でもどうじゃ?」
千早と呼ばれた彼女は近くの喫茶店を指差す。
だが、ソレを拒否する様に首を振り、別の方向へと彼は歩き出した。
「ワリィ。……今日は仕事があんだよ」
「仕事?」
「ああ、ちいと呼ばれててな。」
「なるほどのう」
ユーリ・ナーハフォルガー・四月一日
ソレが彼の名前であり、カメラマンという職業に就いている。
彼は、首から黒を基調としたデジカメを手にファインダーを覗く。
そのまま目の前に居る少女へとピントを合わせ、シャッターを切る。
「だからな、今日はお前に付き合ってる暇は、ない。」
ピシリと指を突きつけ、再び歩き出す。
「そうか、では次に合うときは面白い話を楽しみにしておるぞ?」
少女はぱたぱたと手を振りながら彼を見送った。
-Lambda Journal 編集部-
「おはよーございまーす」
「ああ、来たね四月一日」
「遅くなりました。…で、編集長、今日のお仕事は?」
「まずはコレを見てくれ。」
何か事件でも起きたのだろうか、いつも以上にざわついている編集部内の様子に気を取られながらも、編集長の机の前へと進み、差し出された書類の見出しを読み上げる。
「連続死体灰化事件……コレが一体?」
「…記事に起こす為、お前に事件現場の撮影及び、状況確認をせよっていうお達しが上からあってな。」
「……上から?」
「ああ、上からだ。詳しいことは聞いてないがお前が一番適任ってことらしい。」
編集長が渡してくる記事の詳細を確認していく。
「状況確認っていうのが良くわかりませんけど、とりあえず行ってみます。」
「ああ、頼む。」
自分のロッカーへカメラを取りに向かおうとしたその時。
「四月一日。この事件を追っていたライターやらカメラマンが失踪してるっていう噂もある。
……気を付けろよ?」
「え?……ああ、はい」
神妙な顔をした編集長に念を押され、一瞬呆気に取られるが、すぐに表情を戻す。
「なんとかなりますよ。ほら俺、臆病だから。」
「臆病者は長生きする、ってやつか」
うっす。と頷いてそのままカメラの入ったロッカーへ向かい、カメラケースを取り出す。
チャリとケースについたストラップを手に取り、軽く握りしめ手を開くと
「じゃ、行ってきます。」
彼はのんびりと編集部を出て行った。