↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄、銀の咆哮を穿つ ~舞踏装甲姫ミステイル~  作者: 東出八附子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/28

6話 機密の少女


 尻尾付きの少女——ラッテに巻き込まれる形で統治者(ラーガルド)に拘束されたマヒロを待っていたのは、将校たちによる事情聴取であった。

 名前、住所、仕事など、ごく基本的な個人情報。そしてラッテと出会った経緯。出された質問に対し、マヒロはできる限りの情報提供で対応した。

 ぞんざいな扱いを受けたとはいえ、彼らと敵対する理由も無い。そのうえ、マヒロも現状を把握しきれていない。たとえ不利な結果になろうとも、今は従順が最善の策であった。


「——よろしい。協力、ご苦労」


 オリーブグリーン色の軍服を着た壮年の将校は、淡々とした口調で聴取を締めくくった。ホッと胸をなで下ろすマヒロ。歩兵輸送用の軍事トラックの幌の中、後ろ手でベンチシートに拘束されたままの質問攻めは、いくつもの荒事を乗り越えてきたマヒロでも慣れないシチュエーションだ。


「君の立場はおおよそ理解した——つまり、我々の騒動に巻き込まれただけ、と。災難だったな」

 

 ようやくの解放を期待するマヒロだったが、その様子は全く見られない。幌の出入り口でマヒロを監視する女兵士や、将校の横で調書を取るもうひとりの女兵士もまた、マヒロを絶対に逃さないとばかりに視線を向けている。

 将校は、萎縮するマヒロの近くにパイプ椅子を置き、座った。大仰な動作で足を組む。


「無関係と分かっていただけたなら、拘束を解いていただけると——」

「拘束を解いたら、君は牢屋や処刑場まで大人しく歩いてくれるかね?」

「………………」

「もはや後戻りできない立場なのだよ、今の君は。我々への従順(じゅうじゅん)か、反抗した末の無様な犬死(いぬじに)か。選べるのはそれだけだ」


 心を縛り上げるかのように張り詰めた声で返答する将校。その返答に対し、マヒロは咄嗟に上手い返しを思いつかなかった。


「君は我が軍で拘束させてもらう。だが理由も無しでは大人しくもできまい」

 

 バリトン歌手のような低い声は、簡易取調室と化した軍用トラックの幌内によく響く。マヒロは、その威圧的な声をただ受け入れるしかない。

 将校による状況説明が始まった。


「我々統治者(ラーガルド)の目的は、君と接触した化(・)け(・)物(・)の捕縛だ。あ(・)れ(・)は脱走兵でな。確実に捕らえるため、我々が派遣されたのだ」


 マヒロは心がざわつくのを感じた。ラッテを全く人間扱いしていない。その露骨すぎる嫌悪が、マヒロには受け入れがたかった。

 

「たったひとりの女の子を連れ戻すのに、随分と大所帯じゃないですか。それも特殊部隊が直々に」

「あ(・)れ(・)自(・)身(・)が(・)国(・)家(・)機(・)密(・)でなければ、我々の出番ではなかったのだがね」

「国家機密……」

「君に話せるのはここまでだ」


 思わず邪険になってしまったマヒロの指摘に対し、将校はうんざりした面持ちで言った。

 人間の少女に生えたマーキュリアの尻尾——そんなインパクトの強いビジュアルを目にしている以上、将校の説明に納得せざるを得ない。


「その機密、随分とバレてるんじゃないですか? 随分と歩き回っているように見えましたけど」

「心配無用。あれは自分がどれだけ危険な立場なのかを弁えている。そのように躾(・)け(・)て(・)い(・)た(・)からな。だから他人との接触には万全の注意を払っていたのは、調査で既に把握している」


 将校はニヤリと笑いながら、得意げに語った。

 

「だが君はその国家機密を知った。一般国民の誰もがまだ知らない秘密を、一介の無国籍(ステイトレス)である君が、だ。つまり君は機密保持のために拘束される」

「……いつまでですか」

「我々が良しとするまで、未来永劫」

「そんな!」


 無慈悲な宣告を聞き、マヒロは一瞬、めまいを催した。『先導者(ヴァンガルド)』を目指すどころではない。もっともっと前段階で躓いている。

 ラッテが撃たれた直後の言葉を思い出す。マヒロに「ごめん」と謝った理由は、マヒロが拘束されるか、口封じされることに対してだったのだ。

 

「私としては、拘束で済ませているだけでも穏便な判断と思っているがね。なにせ君には感謝しているのだから」

「感謝だって?」

「あれはたいそう敏感でな。気付かれずに接近する手立てがなかなか見つからなかった」


 将校は立ち上がり、マヒロの傍までゆっくりと歩み寄ると、肩に手を乗せた。

 

「そんな折に、君という存在が現れた。あれの関心を引き、足を止め、隙を晒させたのだ。おかげで楽に包囲網が敷けた。任務もスムーズに達成できたよ。ゆえの拘束止まり、ゆえの状況説明——私なりの温情だ。いますぐ殺(・)処(・)分(・)されないだけでも、ありがたいと思ってほしいものだが」

「この……何様のつもりだっ!」


 自分すら人間扱いしない態度に我慢ならず、マヒロは声を荒くして叫んだ。立ち上がろうとするが、ベンチシートと繋がれた手錠がギシリと音を立て、マヒロの手首に食い込む。

 マヒロの無意味な抵抗を鼻で笑いながら、将校は腰のホルスターからリボルバー拳銃をゆっくりと引き抜き、マヒロの頭に狙いをつけた瞬間、マヒロは冷静になった。もちろん、女兵士たちの銃口も、しっかりとマヒロに向けられている。 


「神様を気取るつもりはないがね。だが、他人の生殺与奪を握れる程度には偉大だと思っているよ。権力こそ正義——それがこの時代の真理だ」


 リボルバーの撃鉄が起こされる。マヒロの頭を躊躇いなく撃ち抜くことが予感できる、きわめて冷徹な瞳だった。

 その瞳を、マヒロが睨み返す、その最中。


「何事ですか、大佐!」

 

 一触即発の緊張感の中で、少尉と呼ばれた男性の兵士が怒号と共に割り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。