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英雄、銀の咆哮を穿つ ~舞踏装甲姫ミステイル~  作者: 東出八附子


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17話 パラドクス・クリエイター



『戦(Battle)場(field)、接続(engage)。起床せよ(Wake up)』


 シミュレーター起動を告げる、女性の機械音声が耳に入る。マヒロは瞼を開いた。

 瞬時に飛び起きて状況を確認する。眠っていた場所は、樹木が生い茂る山肌に建てられた名も知らぬ廃屋の中。自分の体調は良好。携帯している武装は、歩兵用のアサルトライフル・ハンドガン・折りたたみナイフ・電衝榴弾(プラズマ・グレネード)。マヒロの隣には救急キットなどのサバイバルグッズがリュックに詰められていた。周囲を見渡すと、<クラストー>が、標準武装と共に鎮座していた。いつもの装備構成だ。


「……今日は随分と優しいな」

 

 〝ドクター〟らしからぬ詰めの甘さに対し、マヒロは驚いていた。サディスト気質の彼女が、交戦前の安全圏で、しかもフル装備で開始させるなんて。腹にナイフが刺さったまま、マーキュリアに襲われる5秒前の状況に放り出される――訓練開始前はそんな過酷なシチュエーションも想定していたのだが。マヒロは肩透かしを食らった気分であった。

 それでも、きっと〝ドクター〟は何かしらの意地悪を仕掛けてくるだろう。激動の一日を過ごした後は、困難なミッションをねじ込んでくるのが彼女のやり口なのだ。


(そう簡単には殺されてやらないからな)


 自分をモニターしているであろう〝ドクター〟に対して心の中で告げてから、マヒロは<クラストー>に乗り込み、起動した。


【おかえり(Welcome)なさい(back)! HERO(ヒロ)! 】


 自分の認識コードを呼ぶ機械音声。マヒロの『ヒロ』を取って『HERO』と付けられたこのコード名は〝ドクター〟による命名だ。自己主張が強すぎて、聞く度に恥ずかしさを覚えるので、マヒロはこの名前があまり好きではなかった。

 コンソールを操作して本日のノルマや戦況を確認していく。シミュレーターが独自に追加している情報である。ディスプレイには『生存日数:963日』『敵の根絶まで残り10億32万4553』『本日の撃破ノルマ:20』『達成推奨ミッション:なし』『救援要請:なし』など、遊び目的のビデオゲームでしか見られないような表示がずらりと並ぶ。すでにレーダーは敵影を捉えており、はやく戦場へ行けと暗に急かしていた。


「毎日10匹20匹やっつけても焼け石に水なんだよなあ……」

 

 一向に減らないどころか、むしろ増え続ける敵の数にぼやきながら、指定された目的地までのルートを策定し、マヒロは進軍を開始した。2本の足を交互に動かし、人間のように走る<クラストー>の姿は、レイドラ(・)ン(・)ナ(・)ー(・)の総称通りの駆動を実現していた。マヒロが出している速度は、およそ時速50km。自動車が公道を走る程度である。しかし舗装されていない悪路を疾走するには十分な速度であった。

 戦場は投棄された軍事基地。5km四方程度の敷地内に、敵となる中小型混成のマーキュリア、その数およそ40程度。小型が7割ほどを占めていた。

 やがてマヒロは難なく戦場に突入し、戦闘行動を開始した。


 <クラストー>の基本的な戦い方は泥臭く、地味である。センサーやレーダーで敵を探知しつつ、遮蔽物で安全を確保しながら銃で撃つ。これに尽きる。今朝おこなったアクロバティックなアクションは、敵を倒すための時短にすぎないのだ。

 だからこそマヒロは地味に、無難に、安全に立ち回る。素早い小型は距離を取って実弾で狙撃。RR(レイドランナー)と同程度のサイズとなる中型は電撃弾と実弾を織り交ぜて遊撃。こんな調子で、包囲されないよう位置取りに気をつけながら、着実にマーキュリア達を撃破していく。今日のノルマは楽に達成できそうだ。


 だからこその違和感。

 

「ぜったい何かイベント起こるでしょ、これ……!」


 マヒロは直感に従って素直にぼやいた。作り手の心を読むようなご都合(メタ)思考を訓練に持ち込むのは良くないと分かっていても、これまでの経験がそれを許してくれない。

 そして、マヒロの直感が正しいことは、すぐに証明されることとなる。ノルマまで残り1匹となった段階で、突如としてレーダーが正体不明(UNKNOWN)な物体を捉えたからだ。予想が的中したマヒロは呆れて溜め息をつく。

 

「ほら見たことか」


 出現したものは、反応的にRR(レイドランナー)で、かつ今は味方のようだ。そいつが現れた途端に周囲から戦闘音が聞こえてきた。どんどん敵の反応が消失していく。


「……うん?」

 

 マヒロは思わず声を上げた。敵の減るスピードが早すぎる。交戦時間が異常に少ない。<クラストー>に乗ったマヒロが1匹を仕留めるにあたり、かかる時間は早くて10秒ほど。数分かかる場合もある。しかし、そいつは交戦から1秒足らずで2匹3匹を連続撃破するような、圧倒的なペースで攻め立てていた。


「何だ!? 何が起こってるの!?」


 想定外の事態に驚き、直接カメラで捉えるため<クラストー>を遮蔽物から離した直後。前方に建っていた宿舎が爆発したかのように弾け飛び、その瓦礫の中から2機のRR(レイドランナー)が取っ組み合った状態で飛び出してきた。


「うわぁ!?」


 突然の轟音に仰天するマヒロ。既に決着は付いており、上に馬乗りとなっているほうのRR(レイドランナー)が、下敷きになっているRR(レイドランナー)型(タイプ)の中型マーキュリア――その腹部に放電ナイフを突き立てている。そいつが最後のマーキュリアであった。

 勝利したRR(レイドランナー)は、感電して露出した敗者の脳核(コア)をハンドガンで素早く撃ち抜くと、ゆっくりと立ち上がった。100mほど離れた位置までこちらに歩み寄り、マヒロの正面に対峙する。

 そして更に驚愕した。見覚えのある、鋭角の多いフォルム。黒光りの装甲。洗練されたシルエット。


「……<残影>?」

 

 マヒロが目にしている機体は、紛れもなく彼が組み立てた<残影>であった。



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