↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深淵紀行  作者: 梓UU
3/54

序章:第三話:偽善への鉄槌

霧が立ち込める早朝、空気にはひんやりとした湿り気が満ちていた、広大な辺境平原は深い霧に覆われ、何も見通せない。


馬車は終始安定した走りを続け、一夜の休息と整備を経て、皆はより一層元気を取り戻していた。


馬蹄が地面を叩き澄んだ音を響かせる、しかしその調和の取れたリズムの中、一人の少女の泣き声が周囲の空気を打ち破った。


タロムは護衛たちに一旦停止を合図し、馬を駆って音の発生源へとゆっくりと向かった。


視界の中に、傷だらけの少女がゆっくりと現れる、体は薄汚れ、どうやら村から逃げ出してきた生存者の一人らしい、タロムは目の前の少女を見つめ、その瞳には信じられないほどの衝撃が宿っていた。


彼は慌てて馬の背から飛び降り、少しの迷いもなく素早く少女の前に駆け寄り、顔には複雑な表情が浮かんでいた。


彼はゆっくりと腰をかがめ、片手からは温和な生命の柔光が溢れ出る、これこそが治療魔法だった、タロムの口調には言葉にできない悲愴が込められていた。


彼は少女の頭を撫でながら、彼女の汚れた姿を微塵も気にしていなかった。


「もう大丈夫だ、泣かなくていい、俺たちが助けに来た。」


少女は不思議な柔光が自分の体に降り注ぐのを感じ、全身の傷の痛みがすべて消え去り、ただ暖かい大きな手が頭頂に置かれている感触だけが残っていた。


彼女は本能的に顔を上げて来た者を見つめる、目に飛び込んできたのは、穏やかな笑みを浮かべた中年の男性だった。


「どうしたんだ、タロム?」


背後からレオンの問いかけが響く、タロムは振り返ってレオンを見つめ、ジャスミンが静かにその後ろに立っていた、その口調にはどこか複雑な色が混じっていた。


「レオン様、辺境の村の生存者を発見しました、どうやら逃げ出してきたようです、この子はかなりの辛い目に遭っています。」


レオンはタロムのそばに歩み寄り、体を微かに震わせて自分を見つめる少女を見つめ、その口調にはいくらかの優しさが込められていた。


「君は……名前は何というんだ?」


少女は目の前の華やかな服を身にまとった少年と、その顔に浮かぶ優しい笑みを見つめ、無意識のうちにゆっくりと答えた。


「ドル……」


「ドル? 実に良い名前だな、君は一人で村から逃げてきたのか?」


少女はうなずいた、レオンはそれ以上追及しなかった、彼女は村の災難から逃げ延びたばかりで、すでに大きな衝撃を受けており、この場で問い詰めれば、彼女はますます不安になるだけだ。


「ジャスミン、彼女に綺麗な服を着せてやってくれ、食事と水も十分に与えてくれ。」


「承知しました。」


ジャスミンはうなずき、その口調は限りなく柔和だった、彼女はただ静かにそこに立っているだけで、少女に最も親しみやすい感覚を与えた、彼女はあまりにも美しく、少女の目には、ジャスミンはまるで童話の中のお姫様のように映った。


ジャスミンは少女を導いて馬車に乗せた、少女は最初から最後まで従順で、ジャスミンの善意に対して何の抵抗も不安も感じなかった、しばらくして、ドルは清潔で整った服を身につけていた。


彼女は手にした柔らかいパンを大口かじり、何かを思い出したように、また抑えきれずに泣き出した。


しかしその場にいた誰もが少女の泣き声に嫌悪感を抱くことはなく、むしろ彼女が受けた仕打ちを思ってより一層胸を痛めた。


ジャスミンは彼女をそっと腕に抱き寄せ、赤い瞳には不憫さが揺らめいていた、彼女はドルの背中をゆっくりと叩きながら、何も言葉を発しなかった。


長い時間が経って、少女はようやく泣き止み、次第に落ち着きを取り戻した、最初の孤立無援の頃と比べれば、今の彼女には頼れる者がいた。


ドルはしばらく落ち着いた後、自分が見たこと、知っていることのすべてを詳しく話し始めた、彼女が住んでいた村は、今いる場所から丸半日ほどの距離にあった。


あの夜、すべてはただ普通で穏やかなものだった、母は暖炉のそばに座り、彼女と兄の服を縫っていた、父は家計を計算していた、彼女は兄から最近の村の噂話を聞きながら素直に耳を傾けていた、家の中の雰囲気は限りなく温かく幸せだった。


しかしその時、一声の悲鳴が村全体の静寂を突き破った、ドルの兄が真っ先に扉を開けて外の様子を窺う、凄まじい絶叫と慌てふためく叫び声が絶え間なく響き渡り、家の中の温かな雰囲気は跡形もなく消え去った。


両親は瞬く間に慌てふためき、頭の中では何も考える暇もなく、無意識に幼いドルをベッドの下へ押し込み、声を潜めて、何を聞いても絶対に声を出すな、絶対に出てくるなと告げた。


小さな体は暗く冷たいベッドの下で縮こまり、ドルは自分の口を塞ぎ、震えを必死に抑えながら、板の狭い隙間を通して、恐怖の目で外を見つめていた。


一団の黒衣の者たちが家の中に押し入った、彼女は目の前で、いつも自分を可愛がってくれた父と母、そしてついさっきまで自分と話し合っていた兄が、すべて血の海に倒れるのをじっと見つめるしかなかった。


彼女はそのまま見つめ続けた、家族の体を、彼らが温かかった状態から冷たくなっていく様を、すべての出来事があまりにも突然で、彼女は泣き叫ぶことも、小さな物音を立てることさえできず、温かい涙が音もなくこぼれ落ち、一滴一滴が地面に落ちていった。


ついさっきまで温かく幸せだった家は、瞬く間に彼女が恐れる煉獄へと変わり果てた、幼い彼女はそれでもベッドの下に縮こまり、無力なまま肉親たちがすべて去っていくのを目の当たりにしていた。


この惨烈な場面の一つ一つは、永遠に忘れることのできない光景となり、彼女の心の中に深く刻まれた。


すべての経緯を話し終えると、彼女の体は軽く震え、目の端の涙はとうに乾き、ただ劫火を生き延びた後の虚ろさと冷たさだけが残っていた。


長い告白は彼女のすべての力を消耗させ、心の奥に積み重なり、振り返ることすら恐れていた恐怖と絶望が、ようやく初めてすべて吐き出された。


ジャスミンは相変わらずそっと彼女を抱きしめ、掌は優しく少女の薄い背中に添えられ、追及もせず、何の言葉もなく、ただ最も無言の包容で、ドルの壊れかけた過去を慰めていた。


周囲は静まり返り、誰も急かさず、誰も邪魔しなかった、しばらくして、ドルはそっと顔を上げた、幼い顔は依然として青白いが、もはや最初の孤立無援の姿ではなかった。


「ジャスミン、ドルを連れて行け、タロム、我々は残っている村へ向かう。」


レオンは長い沈黙の後、手を上げて少女の頭を撫でた、その目の中の殺意はますます濃くなっていった、ただ眼底の最も深い場所に、言い表せない一筋の弧光が走り、誰の目にも留まることはなかった。


馬車は進み続け、馬蹄の音は依然として澄んでいた、しかしすべての雰囲気は重く沈み込んでいた、これは怒りでもなく、忍耐でもなく、すべてを洗い清める必然の結果だった。


道のりは遠くなく、やっと残された村へとゆっくり踏み入った、一行は皆呆然とし、胸に切なさが溢れた、かつて賑やかで温かな集落はもう存在せず、烈火が家屋をすべて焼き払い、残ったのは荒れ果てた廃墟だけだった。


さまよう子供たちは身を寄せ合い、肉親を失った老人たちは声を潜めて泣いていた、昔日の美しい故郷は、見えない暗雲に完全に覆い尽くされていた。


護衛たちはうつむき沈黙を守り、普段は明るいタロムでさえ、この時ばかりはいつもの笑みを消し、何も語ろうとしなかった、馬車がゆっくりと停止し、レオン、ジャスミン、ドルの三人が扉を押し開けて、村の広場へと歩いていった。


満目傷痕の破滅的な光景を目の当たりにして、ジャスミンの心臓は突然締め付けられるように痛んだ、重い圧迫感で息をするのも困難だった、これは何という悲劇だろうか。


袖が誰かにそっと引かれた、ジャスミンは我に返り、うつむいて目の前の腰の曲がった老人を見つめた、乾いて荒れた手が彼女の袖を握り、白く清潔な服にうっすらと指の跡を残していた。


しかしジャスミンはそれを微塵も気にせず、しわだらけの顔をしたこの老人を、卑屈で無助の極みにあるこの老人を見つめ、涙で潤んだ目で、弱々しくも切実な祈りを込めた声で言った。


「ジャスミン様……どうか食べ物を恵んでください、私の孫が……飢え死にしそうです……」


伯爵府の領地内では、ジャスミンの優しさと思いやりはすでに広く知られていた、彼女は常に人に親しみやすく接し、何度も困窮した人々に手を差し伸べてきた。


ジャスミンは目の前の老人の卑屈な姿を見て、心の中は不憫さでいっぱいだった、無意識にレオンの方を見て、勝手に食べ物を取り出すことはせず、静かに彼の態度を待った。


レオンはそっとうなずいて許可を与えた、少年の許しを得た後、ジャスミンはすぐに空間魔法ポケットから様々な食べ物を取り出した。


老人は何度も礼を言い、そっと涙を拭い、欲張って多く取ることはせず、普通のパンを二つ選んだだけですぐに村の広場を離れていった。


老人の佇まいのまま遠ざかる背中を見つめ、ジャスミンは軽く下唇を噛み、心の中は葛藤と迷いで満ちていた、最終的に彼女は埃と汚れにまみれた地面に片膝をつき、レオンを見上げ、切実な祈りを込めた口調で言った。


「レオン様……どうか……どうかこの苦しみの中にいる村人たちをお救いください……」


ドルは怯えてタロムの後ろに縮こまり、少年の決断を静かに待っていた、レオンはゆっくりとジャスミンの前に歩み寄り、疑いの余地のない威厳を帯びた口調で言った。


「ジャスミン、立て、そんなことをする必要はない、タロム、護衛を率いてすべての村人を広場に集めろ。」


「ジャスミン、以降の対応は君に任せる。」


ジャスミンの唇の端には淡い笑みが浮かんでいた、馬車のそばに寄りかかって静かに書物をめくるレオンを見つめる、彼はいつものように穏やかで落ち着いていた。


ジャスミンはしばしば、少年の心の奥底に隠された孤独をかすかに見抜くことができたが、それでも彼女は一貫して、レオンこそが自分にとって最も善良で頼れる指導者だと信じていた。


時は静かに流れ、広場には次第に多くの老人や子供たちが集まってきた、多くの人々はジャスミンがここにいると聞いて安心して駆けつけた、皆、心からこの優しい少女を信頼していた。


食べ物は整然と配られ、村の雰囲気も次第に和らいでいった、タロムは護衛たちを率いて生命魔法で負傷した村人たちを治療した。


続いて皆は村人の家屋修繕を手伝い、レオンはジャスミンを連れて馬車に乗り、周辺の状況を視察に出かけた。


二人は道中次々と村を通りかかったが、目にするものはすべて荒廃した光景ばかりだった、乱世に安寧はなく、誰もが不安の中で生きており、世の中の悲劇はこれ以上ないほど深かった、五つ目の村に到着した時、レオンは鋭く異変を察知した。


周囲の村々がすべて盗賊に荒らされているにもかかわらず、この地域だけが無傷で残っていた、村人たちは談笑し、穏やかで幸せそうな様子を見せており、外部の惨状とはまるで相容れない、これ自体が極めて異常なことであった。


馬車が止まり、レオンとジャスミンは村に入って状況を探った、村人たちは次々と無意識に彼の視線を避け、先ほどまでの和やかな雰囲気は一瞬で氷点下に落ち込み、誰も一言も発しなくなった。


「なぜ私の目を見ない?」


レオンの口調は平穏で、どんな感情も読み取れなかった、村人たちは無理やり硬直した歪な笑みを引きつらせ、両手は微かに震えていた。


これらの細かな異変は、すべてレオンとジャスミンの目に収められた、二人は視線を交わし、すでにすべての真実を見抜いていた。


「いつまで隠し立てするつもりだ?」


「そんな稚拙な偽装は、我々には通用しない、続けざまにいくつもの村が滅ぼされた……」


「それなのに、なぜお前たちだけが無事なんだ? 盗賊をかくまっているのか、それとも最初から彼らと共犯だったのか?」


「実に見事だ。」


村人たちは顔を見合わせ、どうすればいいのか分からずにいた、しかしその時、一道の拍手が静かで重苦しい雰囲気を打ち破った。


二人が一軒の家の後ろを見やると、悪鬼の仮面をかぶった黒衣の男がゆっくりと現れ、続いて数十人がジャスミンとレオンを取り囲んだ。


村人たちは相変わらず反応を示さず、黙って遠くへ後退し、二人が盗賊に殺されるのを眺めようとしていた。


空気には殺伐とした気配が満ちていた、この重圧は人数と実力によるものだった、レオンの顔色は沈み込んでいたが、それは決して恐怖ではなかった、彼はゆっくりと目を伏せ、感情を一切込めずに言った。


「ジャスミン、やれ。」


次の瞬間、地面が一瞬で踏み砕かれ、ジャスミンの影は奇怪かつ素早い稲妻のように動き、誰も反応する間もなく、空中で優雅な一回転を決めた。


その間に慣性の力を利用し、一人の盗賊の頭を軽く押し下げた、ほんの一瞬の接触で、盗賊の頭は地面に激しく叩きつけられ、バン! 盗賊の頭はその場で炸裂した。


しかしこれで終わりではなかった、回転の後には即座に回し蹴りが続き、その速さは捉えることすらできないほどで、もう一人はそのまま蹴り飛ばされ、体は数十メートルも吹き飛ばされた。


頭部は何の保護もなく木に激突し、ドン! 激しい衝突の衝撃で、その盗賊の頭部はその場で砕け、即死した。


その木もろとも真っ二つに折れ、バタンと音を立てて地面に倒れ込み、周囲の空気に多くの埃を舞い上げた。


ジャスミンの顔には笑みもなく、表情もなく、ただ敗類に対する極度の嫌悪だけがあった、赤い瞳の光は暗く沈み、これが彼女によるこの盗賊たちへの処刑だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。