07. レクリエーション2
そのあとはルームメイト達と一緒に、いくつもの音楽にのせて踊らされた。
中年の小山も、内気な安藤我為も、とてつもなく不愛想だった奈路も、全員が上田に歯向かうことなく必死に踊っているのは、きっと同じように上田に脅されているからだろう。
歯の浮くような恥ずかしい指示に少しでも刃向かえば、今後の人生に関わるような黒歴史がネットの海に放出される。
しかも、こうして素直に言うことを聞くたびに黒歴史はさらに増えていくのだ。ますます抵抗できなくなる。
「はい、これで終了。お疲れ様」
途中休憩をはさみ二時間近くも踊らされたあと、僕らはようやく解放された。
体育館の重い鉄扉を開けて歩いていると、背中から、小山に声を掛けられた。
「お疲れ。疲れたろう。ダンスなんて普段しないからな」
僕はその言葉を無視し、小山を睨みつけたあと、速足で移動した。
「おい、待てよ」
小山とほかのルームメイト達が追いかける足音が聞こえるが、構わずに急いだ。
宿泊室に着いてドアを開ける。部屋に入るとすぐに、僕は追いかけてきた小山を睨みつけた。
「おい、なんだよ」
小山が震えた声で言った。
「小山さん、俺をハメたでしょう」
「ハメてねえよ」
小山は即座に言い返した。
「とぼけないでください。小山さんがあの女に逆らうなっていったせいで、とんでもないものを撮られたんじゃないですか」
奈路が吹き出した。「とんでもないものを撮られた」というワードがツボに入ったらしかった。
一人が笑ったおかげで空気が弛緩し、年上の余裕を取り戻した小山が言い返す。
「なんだよ、ノリノリだったじゃねえか」
僕はかっとなり拳を握りしめたが、すんでのところで冷静になった。
「そうだな、暴力は不味い。確実に刑期が延びるからな。賢い選択だ」
小山が言った。
僕が舌打ちをしてにらみつけると、小山はすぐに目を逸らした。目を逸らしたまま早口で続ける。
「まあ落ち着けよ。まずハメたっていうのは勘違いだ。あのまま踊らなかったらどうなってたと思う?」
僕は首を傾げる。そのあとになんとなく部屋にいる全員を見渡した。
引きこもり中年の小山と、コミュ障ロン毛の安藤。隅っこ無言読書の奈路。
ここに居るひねくれものたちが全員、彼女に言われるがまま踊っているのは確かに違和感があった。
映像で脅されるのならともかく、一番最初の、何も撮影されていない状態で、彼らはなぜ踊ったのか。
そのときまた、黒板に書かれた「冷笑禁止」の文字が目に入った。
「まさか刑期を延ばされるんですか?」
「ご名答」
小山は今度は僕に目を合わせて言った。
「実際、延ばせるもんなら延ばしてみろって言って、本当に収容期間を延ばされた奴もいる。だから従うしかないんだよ。規則のなかにも、レクリエーションに非協力的な場合は、冷笑罪の反省が認められないとして、期間を延ばされるって、はっきり書いてあるしな」
バッグを乱暴に開け、リーフレットを引きずり出して確認すると、確かに規則の中にその記載があった。
「じゃあ結局、このまま収容期間までずっと痴態を曝し続けなきゃいけないんですか?」
僕がそこまで言うと、小山はにやりと笑った。
「一つだけ手段がある。とはいっても、もしこれを聞くなら、絶対に協力してもらうことになるが」
僕は少し考えた後に言った。
「協力するかは保証できないです。もし、リスクのある手段で余計に刑期が延びる可能性があるならやりたくない」
それを聞くと、小山は頷いた。
「協力といっても、最低限口を割らなければいい。そもそもここにいる三人だけでやる予定だったしな」
「それなら問題ないです。知らなかったふりをすればいいだけなら」
とはいっても、勿論同室であるため、知らなかったと言い切るのが難しい可能性もあるだろう。しかし僕は上田のレクリエーションに対してかなり反感を覚えていて、細かいことは気にせずに同意した。
「まあ簡単に言うとだな、スマホを壊すんだよ」
小山は再びにやりと笑いながら言った。
どうやら協力はできなさそうだ。




