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冷笑罪  作者: airmokugyo


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04. 入所2

「おはようございます」

 廊下を移動している途中で、一人の女性職員に声をかけられた。


「ああ、おはよう」

 三河が、苦笑しながら挨拶を返す。

 

「新しい入所者さんですか?」

 僕に目を合わせていった。


「はい。そうです」

 目をそらしながら返事をする。

 こういう刑務所のような施設には似つかわしくない、若い女性だった。

 三河がだらっとしたジャージを着ているのに対して、女性は上下スーツを着込んでいる。

 

「どのくらい入る予定なんですかー?」

 微笑みながら近づいてくる。


「や、あの、まだわからなくて」

 思わず後ずさりしながら答えた。


「へー。本当に入りたてだ」


「今さっき入所してきたところだよ。なに。そっちは暇なの?」

 三河が尋ねる。


「これから、明日のレクリエーションの準備があるので忙しいですよ」

 上田がぷんぷんと腕をふりながら答えた。

 ああ、この人なんて言うかあれだな。あざといというか。かわい子ぶっているというか。


 いやそれよりも、「レクリエーションの準備がある」ということは、ではこの女性が例の、ネットでいくら調べても詳細が全く出てこなかった、レクリエーションとやらを担当するのか。

 胸元には名札が付けられていて、そこには「レクリエーション担当 上田」とある。


 レクリエーションの中身について秘密保持契約があるというのは本当のようで、前日に警察署で配られたリーフレットにも、さっき記名した契約書にも、その旨は記載されていた。

 

「ああそう。じゃあ、頑張ってね」

 じゃあ、僕らはここでというふうに、三河が無理やり会話を終わらせると、上田は「つめたーい」といって、頬を膨らませた。

 それも無視してスタスタと歩き去る三河の背を追いかける。途中で視線を感じ振り返ると、こちらをずっと見ていた上田と再度目が合い、笑いかけられたため、軽く会釈した。


「あの人苦手なんですよ」

 廊下の角を曲がると、三河はわかりやすくため息を吐いたあとに言った。

「そうですか」

「別に、ああいう雰囲気がってわけじゃないですよ」


 僕は少し怪訝そうな顔をして首をかしげた。なんだか意味ありげな言葉だった。

「まあ明日分かると思います」

「はあ」


 施設のフロアマップを渡され、食堂を案内された。

 調理場につながったカウンターがあり、40席ほどが並んでいたが、15時を回った中途半端な時間のせいか、席には誰も座っていなかった。

 奥の調理場からは換気扇と皿が重なる音が聞こえる。


「朝は8時にここに集合して、朝食を取ってもらいます」

「小学校なのに、食堂があるなんて珍しいですね」

「あとから改装したんですよ。確か二、三部屋ぶち抜いてるはずです。ほら」

 そう言って三河は天井をさした。確かにいくつかコンクリートの梁が残っている。


「他にも色々施設はあるんですが、一先ず最初に集合する食堂だけわかってもらえれば、あとは他の人に付いていけば大丈夫だと思うので。あ、一応パンフレットにも施設内の地図と一日の予定表があるので」

「了解です」

 食堂の壁には歴代の校長の写真や、恐らく学校が作られた当時に撮影された白黒の集合写真が飾られている。

 校門にあった二宮金次郎像しかり、こういうものを残しているのはあえてなのだろうか。


 少しの間食堂を眺めていたが、三河がそれに構わず食堂の外へ出たため、慌ててあとをついていった。

 廊下に出て、すぐ近くにある階段を登ると、教室が並んでいる。


「今日から早速泊まってもらうんですが、部屋は四人一組になります」

 三河はそう言って、一番手前の教室のドアをガラガラと開けた。


 部屋は、一つの教室をパーティションで半分に区切って出来ていた。部屋は、区切った二つのうち、前側らしい。パーティションの壁の反対側には授業に使うような大きな黒板が据え付けられていて、汚い文字で、「冷笑禁止」と書かれている。

 白いパイプベッドが四床並べられていて、その内の一床にはビニールの中に入った寝具が置かれている。ここが僕のベッドだろう。残りの三床はすでに使われている様子だ。

 シリンダー錠付きのロッカーが四つ。おそらく持ってきた荷物はここに入れるのだろう。ほかには本棚が一つと学校机と椅子のセットが四つあるだけだ。


「矯正期間中は、ずっとこの部屋で過ごしてもらいます」

 三河が言った。

 期間の話が出たので、聞くことにした。

「あの、僕はどのくらいで出られるんですか」

 今後のためにもゴールを知っておきたかったし、いつまで休むかというのは、職場にも早めに連絡しておきたい。


「基本的には、どの方も一週間居てもらうことになります」

「基本的には?」


 尋ねると、三河はしばらく部屋を眺めた跡、ちょうどいいものを見つけたとばかりに、黒板に書かれた文字を指さした。

 冷笑禁止。黒板にはそう書かれている。


「まさか、一回冷笑をするたびに期間が延びたりするんですか?」

 おびえながら尋ねると、三河は笑った。


「そこまで厳しくはないですよ。ただ、更生の意思が見られれば短くなりしますし、反対にそれが見られない場合は、厳しい処置がとられることになります。ああ、とはいっても、これまで収容期間が伸びた例は殆どないです」

 殆ど。というからには、伸びた例もあるということだ。

 冷笑禁止というのも冗談ではないだろう。明日からどんなレクリエーションが催されるのかは不明だが、僕は黒板に汚い字で書かれたこの施設でのルールを、心の中に深く刻みつけた。

 そのとき、廊下から複数の足音が近づいてきて、教室、もとい宿泊室のドアがガラリと開かれた。


読んでいただきありがとうございます。

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