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てのひらは君のため〜クールな年下男子と始める、甘い恋〜  作者: 星名柚花


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50/54

50:お礼はパフェで

 ハムスターのゆきと遊んだ後、私は手を洗って階下に降りた。


「お帰り。漣里は?」

 変わらずリビングにいた葵先輩はテレビを切り、尋ねてきた。


「トイレです」

 葵先輩と向かい合って座り、空席に残された漣里くんのコーヒーを眺める。

 漣里くんのコーヒーは糖度120%。葵先輩のブラックのそれとは色が全然違う。


「そっか。後夜祭は漣里と踊るの?」

 葵先輩の視線は私のヘアピンにあった。

 でも、葵先輩はヘアピンについては何も言わず、別のことを質問してきた。


「……誘ったんですけど、断られちゃいました。うるさいのは苦手だ、踊るのも興味ないって」

 本当はいまでも漣里くんと一緒に踊りたいと思ってる。

 けど、無理強いはできないもんね……嫌々付き合ってもらったって、ちっとも嬉しくない。


「……残念そうだね?」

「えっ。いえ、……はい」

 見透かすような葵先輩の眼差しの前では意地を張ることもできず、私は観念して俯いた。


「じゃあ僕に任せておいて」

「え?」

 顔を上げると、葵先輩は優しく微笑んだ。

「真白ちゃんは漣里の状況を変えてくれた恩人だからね。僕がなんとかしてあげる。ドレスは持ってる?」

「いえ、持ってませんけども……」

 一年の時は制服で参加したし、漣里くんにダンスを断られたから、買う気にもなれなかった。


「じゃあ踊るとなったら、用意できる? 無理ならいいんだ。お互いに制服でも――」

「いえ、もし漣里くんが踊ってくれて、特別な格好をしてくれるっていうんだったら、買います!」

 私は勢い込んで言った。


「そう。とびっきり可愛いドレスを用意しておいて」

 え、本当に、思い描いていた夢のダンスが実現するのかな!?


「はい!」

 私は大喜びで頷き、それからふと気になって尋ねた。


「葵先輩は、誰かと踊る予定はあるんですか?」

 この問いは興味本位でもあり、みーこのためでもあった。

 みーこ、ずっと葵先輩が踊る相手のことを気にしてたもんね。

 多分、みーこだけじゃなく、時海に通うほとんどの女子が気にしていると思う。


「お誘いはたくさん受けてるんだけどね。特定の誰かと踊ったら、その誰かに迷惑をかけてしまいそうだから」

 葵先輩は苦笑した。


「葵先輩はアイドルですからね……」

 誰かをひいきしたら、その誰かがファンから嫌がらせを受けそう。


「……じゃあ、葵先輩も講堂で待機する予定ですか?」

 葵先輩が踊らず講堂に行くとなると、今度は講堂に人が殺到しそうだ。


「ううん、特別棟の屋上にでも行こうかなって思ってる。あそこなら人が来ないでしょう?」

 自分の存在が大きな混乱を招いたりしないように、後夜祭が終わるまで、夜の屋上で一人でいるのだろうか。


 そんなの、寂しすぎる……葵先輩は今年で卒業しちゃうのに。

 中学最後の文化祭が独りだなんて、そんなの、あんまりだ。


「あの、じゃあ、私の友達を話し相手にするのはどうでしょう?」

「え?」

 思ってもみなかった言葉だったのだろう、葵先輩は目を瞬いた。


「ああ、中村さん?」

「はい。彼女、葵先輩と二人で話がしたいみたいで。よろしければ是非!」

 身を乗り出す勢いで言うと、葵先輩は不思議そうな顔をしながらも頷いた。


「よくわからないけど、構わないよ」

 よしっ!

 私は座卓の下で拳を握った。

 賑やかし役にもなれるみーこがいれば、夜の屋上であろうと葵先輩が寂しさを感じることはないよね。


 きっと報告すれば、みーこからは大いに感謝されることだろう。

 それでもしも、万が一、二人がうまくいけば――お礼はパフェでいいよ、みーこ。

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