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てのひらは君のため〜クールな年下男子と始める、甘い恋〜  作者: 星名柚花


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34/54

34:食堂デート

 事態の改善に乗り出して、五日が経った。


 みーこや友達が私に協力し、違う学年の子まで真実を広めてくれたおかげで、漣里くんに関する悪評は消えるまではいかないまでも、鎮静化はしてくれた。


 漣里くんが庇った相手が小金井くんだと知ったみーこは「なんで最初から事実を話さないのよ」と小金井くんに突っかかったけど、彼は「あいつが勝手にやったことだ」と突っぱねた。


 漣里くんに一言の感謝も述べないその傲慢な態度に、みーこは憤慨していた。


 でも、小金井くんのことなんて正直、どうでもいい。


 大事なのは、皆が漣里くんを見る目が緩和されつつあること。

 昨日はクラスの子に突撃され、噂の真相について根掘り葉掘り聞かれたそうだ。


 漣里くんが全ての質問に対して正直に答えると、その子は同情を示した。

 その子に引っ張られる形で、昨日は設営班のクラスメイトと一緒にペンキ塗りをしたらしい。


 屋上で独り寂しく読書していた漣里くんが!

 皆と一緒に文化祭準備を!


 昨日の夜、電話越しにその報告を受けて、本当に泣きそうになったと伝えると、漣里くんは大げさだと言っていた。


 でも、漣里くんだって絶対に嬉しかったはず。

 喜びついでに、お互い毎日お弁当だし、たまには一緒に学食なんてどう、と誘ってみると、漣里くんもすぐに同意してくれた。

 というわけで、私は学校の昼休憩時間、漣里くんと食堂前で待ち合わせしていた。


 わかってくれた子もいるけれど、まだ誤解は完全に解けていない。

 それなら学年問わず、多くの生徒が集まる食堂で、私と漣里くんが仲良くご飯を食べる現場を見てくれたら、なんだ、漣里くんも普通の人間なんだなって認識を改めてくれる人もいるかなと思ったんだ。


 ……というのは建前で、本音は私が漣里くんの彼女だって皆にアピールしたいだけだったりもする。


 何より、彼氏とお昼に学食デートっていうのは心躍るもんね!


 食堂前でそわそわしていると、漣里くんの姿が見えた。


「漣里くん」

 手を振ると、漣里くんも私に気づき、歩み寄ってきた。


「待った?」

「ううん、私もさっき来たところ」

「そう」

 そうだよこれだよ!

 学生カップルとして、一度はやってみたかったんだよ!!


 幸せを噛み締めつつ、笑顔で合流し、開きっぱなしのガラス扉を通って食堂へ。


「今日のA定食は野菜炒めで、B定食は焼肉みたいだよ」

 メニュー表を確認して、振り返る。


「俺はBにしよう。真白はどうする?」

「私は野菜炒めにするよ。最近ちょっと体重がね……」

 私は遠い目をした。


 夏休みに漣里くんと甘いものめぐりしすぎた代償プラス、食欲の秋のせいかと思われます。


「そんなの気にしなくても、食べたいものを食べればいいのに」

「いいえ、これは女子のプライドの問題です」

「そういうもんなのか?」

「ええ、そういうものなんです」

 私はしたり顔で頷いてみせた。


「ふーん」

 漣里くんは適当に返事をして、他に興味を惹かれるものがあったのか、ふいっと顔を逸らした。


 長いまつ毛に縁どられた大きな目が、メニュー表を眺めている。

 自覚はないらしいけど、漣里くんはとっても格好良い。この場にいる誰よりも。


 私はみーこのような美人じゃないけど、せめて体重面だけでもコントロールして、漣里くんにふさわしい女子でいたいんだよ。


 談笑しながら、漣里くんとカウンターへ向かう。

 ただそれだけで、満たされた気分。


 一週間ずっと他人のふりを強いられてきた分、いま隣にいられることが、何よりも嬉しくて、幸せ。


 彼が私の名前を呼んで、きちんと私を見てくれることが――。


 それぞれ頼んだメニューが載ったトレーを持ち、食堂に並ぶ長方形の白いテーブルのうち、空いている席に向かい合って座る。


 次々と生徒が押し寄せ、席は埋まっていったけれど、私と漣里くんが座った窓際の六人掛けテーブルには誰も来ない。


 ……うーん、やっぱりまだ敬遠されてるみたいだなぁ。


 遠くのほうからちらちら見てくる人もいるし。


 でも、夏休み明けのような零下の眼差しじゃないだけ良しとするべきか。

 気にしないようにしよう、と自己暗示をかけ、漣里くんと談笑していると。


 急に食堂内がざわついた。

 主に女子たちが。


 ん?

 気になって、私は食堂の入り口を見た。

 無数の視線の交差点にいるのは葵先輩だった。


 葵先輩はカウンターで学食を注文しているけれど、その姿は決して生徒の中に埋没したりはしない。

 むしろ同じ服を着た群衆の中にいるからこそ、異彩を放って見える。


 私の後ろの席にいた女子が、ほう、とため息をつく音が聞こえた。


 ……凄いなぁ、葵先輩。

 わかめうどんが載ったトレーを持って歩いてるだけなのに、皆、釘づけだよ。

 葵先輩を中心に、きらきらと光の粒子がまき散らされて見えるのは目の錯覚なのかな。


 葵先輩が持っていると、ただのわかめうどんが高級料理に見えてしまうマジック。


 そしてお決まりのように、彼の元には女子が群がった。


「一緒に食べましょう」「いや私と」以下略。

 その光景は、さながら美しい花に集う蝶の群れ。


 葵先輩は控えめな笑顔を浮かべて女子たちと会話し、不意にこちらを見た。

 眼鏡の奥の目が私と合う。


 彼は面白いものを見たかのように笑って、やんわりと女子たちの誘いを断り、こちらへやってきた。


「同席しても良いかな? 深森さん、漣里」

「あ、はい。私は構いませんけれども」

 向かいの漣里くんの顔色を窺う。


「……。なんでわざわざこっちに来るんだよ」

 漣里くんは微妙に不機嫌顔。

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