24:文化祭に向けて
始業式や服装検査が終わってホームルームの時間に入ると、来月行われる文化祭の出し物を決めることになった。
まずはリーダー役、文化祭実行委員の選出。
でも、私が所属する二年二組も多くのクラスの例に漏れず「私、やります!」なんて意欲に満ちた人はいなかったため、教室の左右に男女でわかれて話し合う運びとなった。
「塾で忙しいからパス」
「私だって部活があるからさぁ……」
「私、みーこを推薦したいんだけどな」
なかなかすんなりとは決まらない中、私は隣にいるみーこを見た。
「へっ? 私!?」
何やら考え事をしていたみーこはハッとしたように顔をあげ、大げさにたじろいだ。
「あー、やっぱりみもっちもそう思った?」
私を『みもっち』なんて妙なあだ名で呼ぶほど仲の良い女子、佐藤五十鈴が笑う。
ショートカットで、バレー部の部長をしながら成績も上位という文武両道の才女だ。
「あたしもみーこが適任だと思った。むしろあんたがやらなくて誰がやるって感じだよねえ」
五十鈴は後ずさったみーこの肩を後ろから掴んだ。
「えー、やだよ実行委員なんて面倒くさい!」
「いやいや、なんだかんだ言ったって、与えられた仕事は完璧にやり遂げてくれるじゃない。中学のときは生徒会長として全校生徒を導いてくれたでしょ? 黄色い腕章つけて部下たちを引き連れ、廊下を颯爽と歩く姿、格好良かったよ? 文化祭のときだって、校内に紛れ込んだならず者たちを一人でやっつけてくれたじゃない! あのときの豪快な一本背負い、いまでもあたしの目に焼きついてるよ?」
さらに同じ中学出身の別の女子が言う。
「ああああれは黒歴史! 高校では淑やかな女子になるって決めたんだから! それに、副会長たちは私の部下でもなんでもないわよ!」
「リーダーシップもあるし、頼りがいもある最高の女!」
「お願いしますっ、お姉さま!」
みーこは四月二日生まれで、クラスの女子の中で一番誕生日が早いからふざけて「お姉さま」などと呼ばれている。
「ぐううー」
ノリの良い複数の女子たちに取り囲まれ、手を合わせて頭を下げられたらさすがに断りづらいらしい。
みーこは眉根を寄せて唸り、元凶である私をジト目で見た。
あ、怒ってるかも。
「……ちょっと来て」
みーこはふと真顔になって私の手を引いた。
なんだなんだ、という顔をしている女子たちを置き去りに、教室の片隅へと移動する。
「どしたの、みーこ。怒ってる?」
しかし、推薦しただけで本気で怒るほど、彼女の器は狭くないはずだ。
嫌ならきっぱり断るだろうし。
必然、私の頭上には疑問符が浮かぶ。
「あのさ……」
ぶすっとした顔で、彼女は言いづらそうに切り出した。
「私が実行委員引き受けたら、ちょっとは許してくれる?」
具体的に何のことかは言わなくても、すぐにぴんと来た。
……あ。そういうことか。
これまでの短い休憩時間中、私は言葉を尽くし、彼女が抱いていた漣里くんに対する偏見と誤解を解いた。
最初は半信半疑だったみーこも最終的には理解を示し、酷いこと言っちゃったから謝りたい、と言ってくれた。
私はすぐに漣里くんにラインし、昼休憩中に会いたい旨を伝えた。
学校では他人を装うと言っていた漣里くんも、人気のない場所なら会っても良いと答えてくれたから、後は昼休憩を待つだけだ。
私としては、みーこが暴言を吐いたのは先にそうと教えなかった私のせいでもあるし、漣里くんにちゃんと謝ってくれたらそれで良いと思ってた。
でも、みーこは彼女である私にも罪悪感を抱いていたらしい。
さっき考え込んでいたのも、もしかして私のことだったのかな。
どうやって謝ればいいのかって、ずっと考えてくれてたのかな?




