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てのひらは君のため〜クールな年下男子と始める、甘い恋〜  作者: 星名柚花


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19/54

19:これからもよろしくね

「真白は重いな」

「……ごめんね」

「謝ってほしいわけじゃない。事実を言っただけ」

「そっか。ダイエット頑張る」

「それは必要ないと思う。痩せてるほうだと思うし」

「でも、重いんでしょう?」

「誰だって背負えば重いと感じる。軽い人間なんていない」

「なにそれ。結局、私はどうすればいいの」

 私は漣里くんの背中で、小さく笑った。


「何もしなくていいよ」

「…………」

「そのままでいい」

「……うん」

 ぎゅっと、腕に力を込める。


「ねえ、漣里くん」

 耳元で囁く。


「ありがとう」

 好きだとは言わない。

 だって、私たちは友達だもの。


 気持ちを伝えるのは、漣里くんに恩を返してからだ。

 受けた恩が大きすぎて、いつになるかわからないけれど。


「どういたしまして」

 漣里くんは少し苦しそうな呼吸の狭間で、そう言った。


 思いがけないほど、柔らかい声だった。


「お礼はどうしたらいい?」

「いらない。もう十分もらってる」

「嘘だ。私、何もしてない」

「そう言えるのが、真白の凄いとこ」

「?」

「あ、一つ思いついた。してほしいこと」

 漣里くんはふと思いついたような口調で言った。


「何? 私にできることなら、なんでもする」

 私は身を乗り出すようにして尋ねた。


「じゃあ、彼女になって」


「…………」

 全身から力が抜けた。


「え、それって」

 頭が混乱する。


 ……彼女?

 聞き間違いかと思ったけど、漣里くんの横顔は暗闇でもそうとわかるほど赤い。

 冗談……じゃない、みたいだ。


 え、嘘。

 友達だからと、たったいま、自分の気持ちにセーブをかけたばかりなのに。


 セーブしなくてもいいの?

 その先を望んでいいの?


 私が漣里くんの彼女になって、いいの?


 まさか、こんなこと――信じられない。


「…………」

 どうしよう。何て返せばいいんだろう。

 突然すぎて頭が働かない。

 夢でも見ているんだろうか。


 やっぱりこの漣里くんは、都合の良い私の妄想なんじゃないだろうかとすら思い始めた。

 現実の私は滑って転んで、そのまま頭でも打って気絶してるんじゃないんだろうか。


 ああ、でも、それでもいい。

 夢なら永遠に覚めなくたって構わない。

 むしろどうか覚めないで。


「わ、私で良ければ……喜んで」

 ぎゅうっと抱きしめる。


「…………」

 何故か、漣里くんは少しの間、動きを止めた。

 足すら止まっている。


「漣里くん?」

「……あんまり抱きしめると胸が当たる、から」

 漣里くんは顔を真っ赤にして、声を絞り出すように言った。


「!!! すみませんっ!!」

「暴れるな落ちる!」

 私は初めて、漣里くんの慌てた声を聞いた。




 コンクリートの土手に二人並んで、夜空を見上げる。

 土手には私たちの他にもたくさんの人が座っていた。


 本格的なカメラを構えて写真を撮っている人もいる。

 夜空に打ちあがる花火は、本当に美しい。


「……綺麗だな」

 漣里くんは呟くように言った。


「うん」

「諦めなくて正解だっただろう」

「……うん。こんなに綺麗な花火が見られたのは、漣里くんのおかげだよ。私一人じゃ諦めるしかなかったもの」

 漣里くんの隣で私は微笑んだ。

 花火が見れたことも嬉しいけど。

 漣里くんが傍にいる現実が、何よりも嬉しい。


「……ねえ、漣里くん」

 肩を並べて夜空を見上げながら、私は呼びかけた。


「何」

「手を繋いでもいい?」

 漣里くんは考えるように黙った。


「やっぱりダメだよね」

 えへへ、と苦笑する。


「ごめん、忘れ」

 て、と言うよりも先に、私の手に漣里くんのそれが重なっていた。

 驚いて、漣里くんの横顔を見る。


 彼の頬は、夜でもわかるくらい、赤くなっている。


「…………」

 私は手をくるりと半回転させて、彼の指に自分の指を絡めた。

 さすがにこれは拒否されるかなと思ったけど、彼は振り解こうとはしなかった。


「……手のひらには相手の心に訴える力があるんだよな」

「? うん」

「なら、俺が考えてることもわかる?」

「……これからもよろしく?」

 私は花火を視界の端に捉えながら、首を傾げた。


「……。まあ、それでもいいや。これからは彼氏彼女として、改めてよろしく」

「こちらこそ」

 連続で花火が上がり、私は正面に向き直った。

 終わりに差し掛かり、次々と花開く花火に目が奪われる。


 ぎゅっと、繋いだ指先に力をこめる。

 綺麗だね。それを伝えるために。


 彼は手を握り返してきた。

 言葉なんていらない。

 私の手を握り返してくる温もりがあれば、それだけでいいと、そう思った。

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