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てのひらは君のため〜クールな年下男子と始める、甘い恋〜  作者: 星名柚花


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10:ストロベリーケーキ

 電車から降りて、暑さに耐えながら十分ほど歩くとそのお店がある。

 主に若い女性に大人気のお洒落なお店、ストロベリーケーキ。

 幸いにも行列はできていなくて、待ち時間なくすんなりお店に入ることができた。


「いらっしゃいませ」

 女性の店員さんはにこやかに挨拶してくれた。

 クーラーの利いた店内は楽園のように涼しい。


 音楽が流れているお店の内装は白がベース。

 入り口やカウンターには観葉植物が飾られている。

 天井には花のようなデザインの照明が吊り下げられ、壁には絵画。


 店内には家族連れやカップルもいるけど、ほとんどは女性客だった。

 

 私たちが案内されたのは、壁際の二人用の席。

 壁際の席はソファで、向かいの席は木製の椅子が用意されている。


「ソファとどっちがいい?」

「どっちでも……」

 言いかけて、はたと止まる。

 この答えが一番困るよね!


「ソファで!」

「そう」

 すぐに訂正すると、漣里くんは椅子を引いて座った。

 私も鞄を隣に置いて、向かいのソファに座る。


「何にしようか」

 テーブルに置かれているメニュー表を二人で見て、悩む。

 パンケーキもいいけど、ワッフルもいいな。

 それともケーキにしようかな……。


「あれが標準なのか」

 漣里くんの呟く声が聞こえた。

 なんのことかと顔を上げ、漣里くんの視線を追う。

 漣里くんが見ているのは隣の席だった。


 私たちの隣は大学生らしきカップルが座っている。

 二人が仲良く分けて食べているのはパンケーキ。


 標準、というのは、ケーキに載っているホイップクリームの量のことなのだろう。


 ネットにも書いてあったけど、ここのパンケーキはちょっとびっくりするくらい、クリームが多い。


「うん。多分、あの赤い服の女性が食べてるのがダブルクリーム」

 私は斜め前の席に座っている女性を視線で示した。

 彼女の前には山のようにクリームが載ったケーキがある。


「でも、ダブルは止めたほうがいいと思う。ネットに書いてあったの。最初はホイップクリームが白い天使に思えたけど、だんだん悪魔に変わっていったって」

「なら標準にしよう。俺はミックスフルーツパンケーキにする。先輩は?」

「私はシナモンロールにする。これもおいしいって書いてあったから」

 私はボタンを押して、店員を呼んだ。


 やってきた店員に注文して、水を飲む。

 パンケーキが届くまでの間、 私はスマホの待ち受け画面について尋ねた。


 すると、漣里くんはもちまるの写真や動画を見せてくれた。


「お待たせしました」

 話が途切れたタイミングで、注文していたパンケーキとシナモンロールが届いた。

 私が注文したシナモンロールは丸いお皿に載っていて、他のお店で出されるものと見た目に大きな違いはない。


 けれど、パンケーキは衝撃的。

 漣里くんの前に置かれた正方形のお皿には、四枚のパンケーキと、フルーツとホイップクリームがこれでもかと盛られている。


 店員さんは四つのシロップを持ってきた。

 二種類のメープルシロップと、ストロベリーとブルーベリーのシロップ。


「……確かにこれは凄いボリュームだな」

 店員さんが立ち去った後で、漣里くんが呟いた。


「写真撮る?」

「いや、いい。インスタとかやってないし、写真を撮る趣味もない」

「私も。シナモンロールの味見してみない? このお店はシナモンロールも絶品なんだって」

「……食べる。パンケーキも切るから、味見して」

「うん」

 私はシナモンロールを切り分け、漣里くんのお皿にのせた。

 お返しとばかりに、漣里くんも小さく切ったパンケーキを私のお皿にのせた。


「おいしい」

 漣里くんはシナモンロールを一口食べて、小さく笑った。


「そっか、良かった」

「…………」

 漣里くんは何故か、じっと私を見つめた。


「どうかしたの?」

「先輩は俺が喜ぶと笑うな」

「? それって普通のことじゃないの?」


 誰かが喜んでいるのを見ると、嬉しくなって自然に笑顔が浮かぶものじゃないんだろうか。

 好意を抱いている相手ならなおさら――あ、いや、特別な『好き』という意味じゃなくて、あくまで友人として、ね。


 漣里くんはシロップを見た。

 どれにしようか迷った様子の後で、色が濃いほうのメープルシロップを手に取ってクリームにかけた。


 ナイフとフォークを使ってパンケーキを切り、クリームをつけて一口。

 うん、というように軽く頷いて、また食べる。


「………………」

 やばい、何この人、可愛い。

 無表情なのに、背後に花が咲いているのがわかって、私は必死で笑いをこらえた。


 会話の合間にシナモンロールを口に運ぶ。

 それからしばらくして、片手に水を持ったウェイトレスさんがやってきた。


「お水のお代わりはいかがでしょうか?」

「あ、お願いします。漣里くんは?」

「いい」

 私の水を注ぎ足した後、ウェイトレスさんは私たちを交互に見て笑った。


「羨ましいですねぇ。夏休みにカップルでデートなんて」

「そんな……」

「カップルじゃないです。俺たちはただの知り合いなので」

 頭を思いっきり殴られたようなショックを受けた。


 ただの知り合い。

 彼ははっきりとそう言った。


「あ、そう……なんですか」

 私はいまどんな表情をしているんだろう。

 わからないけれど、ウェイトレスさんは私を見て、困ったような愛想笑いを浮かべた。


「それでは、何かありましたらお呼びください」

 ウェイトレスさんはそそくさと退散していった。

 漣里くんは何事もなかったように、再びパンケーキを食べ始めた。

 私もシナモンロールを口に運ぶ。


「…………」

 どうしてだろう。

 おいしいはずなのに、味を感じなかった。

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