表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
てのひらは君のため〜クールな年下男子と始める、甘い恋〜  作者: 星名柚花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/54

01:窮地に現れたヒーロー

「あづい……」

 高校が夏休みに入った七月末。

 私はふらつきながら、真夏の太陽が照りつける路上を歩いていた。


 いまは図書館からの帰り道。

 予約した本が入ったって連絡がきたから、受け取りに行ったの。


 午前中に行けば暑さもマシかなって思ったんだけど……甘かった。

 こんなに暑いなら、夕方に行けば良かったよー!!


 嘆いても、現実は変わらない。

 まだ図書館を出て十分しか歩いてないのに、汗がとめどなく噴き出す。

 髪やシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。


 息が荒れる。

 何より暑い――ううん、暑いなんて単語じゃ生温い。

 この異常な熱気は『暑い』を通り越して、もはや『熱い』という表現が正しい。


 ちゃんと帽子は被ってるのに、顔は発火したように熱く、汗が顎を伝い落ちていく。

 夏に備えて髪をボブにしたのも間違いだった。

 友達はさっぱりしたねって言ってくれたけど、括れる程度には残しておけばよかった。


 セミの声が耳の中でわんわん鳴り響いて、頭がグラグラする。

 ああ、駄目だ。

 このままだと倒れそう。


 ちょっと休もう。

 私はふらふらと歩いて、建物の日陰に入った。


 建物の隅っこでうずくまっている間、数人が私の前を通り過ぎて行った。

 ぼうっと住宅街を眺めていると、足音が聞こえた。

 これまでと違って、その足音は近づいてくる。


「大丈夫?」

 声に顔を上げると、美少年が立っていた。


 長い睫毛に整った顔立ち。

 せっかくの美少年なのに、その眼光が刃物のように鋭く見えてしまうのは、彼が感情を表に出さないからだろう。

 少なくとも、私は彼が笑っているところを見たことがない。


 そう――私は彼を知っている。

 時海ときみ高校一年三組、成瀬漣里なるせれんりくんだ。


 彼には(あおい)という、高校三年生のお兄さんがいる。

 彼らは時海高校を代表する美形兄弟として有名だった。

 私の親友もお兄さんのファンなんだよね。


 でも、成瀬くんは絶大な人気を誇る葵先輩とは違って、周りの生徒から敬遠されている。


 彼が入学早々、上級生――私と同じ学年の、野田という不良を殴ったからだ。


『顔はいいけど中身は最悪』『成瀬先輩が天使なら彼は悪魔』――一部の生徒からそんな酷いことを言われている彼は、じっと私を見下ろしている。


 彼の左腕にはビニール袋が下がっていた。

 中から牛乳パックが覗いている。

 どうやら買い物帰りらしい。


「水があればいいんだけどな。あいにく、今日は牛乳しか買ってない。一リットルの牛乳渡されても困るだろうし……」

 ビニール袋を見下ろして、成瀬くんはブツブツ呟いている。


 彼の言動が予想外すぎて、私はぽかんとしてしまった。

 え、あれ?

 成瀬くんって、怖い人……じゃなかったの?


「いえ、いいです。大丈夫です。心配してくれてありがとう、成瀬くん」

「なんで俺の名前知ってるんだ? もしかして、同じ高校の人?」

 成瀬くんは無表情で尋ねてきた。


「はい、そうです。時海高校二年二組の深森真白みもりましろといいます」

 私は立ち眩みを起こさないようにゆっくりと立ち上がり、自己紹介した。


「じゃあ、深森先輩。うち、すぐそこだから、涼んでいく? 両親はいま仕事でいないけど、兄貴がいる。兄貴のこと知ってる? 成瀬葵っていって、時海の生徒会長なんだけど」

「うん、知ってる」

 というより、知らない生徒などいない。


 だって、彼は全校生徒の憧れの的。

 頭脳明晰にしてスポーツ万能。


 男の人なのに『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』なんて讃えられてる、超イケメンだもの。


「俺が信用できなくても、兄貴なら信用できるんじゃないか。兄貴は紳士だから、女子に変なことはしない。心配ならスマホを握り締めてたらいい。いざというときは通報すればいい」

「えっと……」

 これは、女子である私に気を遣ってくれてる、んだよね。

 不器用でも精一杯、言葉を尽くして私を助けようとしてくれているのが伝わってきて、胸の奥がじんわりと温かくなった。


「俺の家、クーラー利いてて涼しいし。冷凍庫にアイスもあるけど。食べる?」

「……食べたいです」

「そう」

 成瀬くんは屈んで私の鞄を拾い上げ、自分の肩にかけた。

 まるで、当たり前のことのように。


「え」

「持つよ。しんどいんだろ。ついてきて」

 そう言って、成瀬くんは歩き出した。

読んでいただき、誠にありがとうございます。

★やブックマーク等、評価していただけましたら大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
流れるような文章ですね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ