表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/35

08 違和感

 場所:二年三組

 語り:遠野陽葵

 *************




「ええ。今朝よりずっと軽いので、たぶん食べ終わってると思います」


「それって、もしかして、黎真の姿は見てないってことかな?」



 澪さんのどこか自信のなさげな口調が気になって、私は思わず首を傾げた。



「はい。お弁当は、朝から彼の机の上に置いてたんですが、気が付くと無くなっていて……。さっき席を外して戻ったら、机に戻されていたんです」


「え? もしかして黎真、朝から授業に出てないとか……?」


「えぇ。少なくとも私は、見かけてません」


「そ、そっか。教えてくれてありがとう」



――えーーー!?


――黎真のやつ、授業サボってお弁当だけ食べたの? 呆れた!



 私が思わず顔を引きつらせると、彼女は少し心配そうに私の顔を見てきた。



「お姉さん、朝からずっと遠野君を探してるんですね」


「うん。でもお弁当は食べたみたいだし、一応学校には来てるのかな……?」


「もし遠野君を見かけたら、お姉さんに連絡するように言っておきますね!」


「あ、うん。ありがとう!」


「こんなに優しいお姉さんがいるなんて、遠野君は幸せですね」


「え? そんなんじゃないよ? 黎真がバカすぎてほっとけないだけで……」


「いいなぁ。私にもこんなお姉さんがいたらよかったのに。うちの兄とは大違いで……羨ましいです」



 澪さんは、少し寂しそうに視線を落とす。お兄さんと喧嘩でもしたのか、なんだか急に目元に影が落ちたような……。



「兄弟って、うまくいかないときもあるよね。うちもよく喧嘩になるよ」



 私がそう言うと、澪さんは「ふふっ、そうですね」と、やわらかく微笑んだ。私もつられて微笑みを返す。


 彼女は軽く頭を下げてから、自分の席へ戻っていった。



――それにしても、このお弁当箱、なんか、おかしい気がするな……。



 私は返ってきたお弁当箱をまじまじと眺めた。


 あらためて重さを確認してみても、確かに軽くなっているし、中身はちゃんと空っぽみたい。


 でも、包みの青い布がきっちりと巻かれていて、結び目もまんなかでしっかり結ばれている。それはまるで、お母さんが包んだままのように整っていた。


 黎真はけっこうガサツだから、食べたあとのお弁当箱の包みなんて、どうしてこんなにぐちゃぐちゃなのかと、ちょっと不思議になるくらいで。


 それを思うと、今日の包みはあまりに綺麗すぎる気がする……。


 本人の姿も見えないし、このお弁当は本当に、黎真が食べたのかな? なんて考えたら、なんだかまた、背筋が寒くなってきた。



「ねぇ、これ、黎真にしては、包み方が丁寧すぎる気がしない?」



 ふと後ろに立っていた璃人を振りかえって見あげると、彼はなぜだか無言のままかたまっていた。なんだか顔色が悪いような……?



「璃人……。どうかしたの?」


「……いや、教室に戻る前に、ちょっと周りに黎真の話聞いてみよう」


「あ、うん。そうだね」


「そういえば昨日、黎真は友達の家に泊まったはずだよな。だれの家に泊まったのか、とりあえずそこらへんから調べてみるか」



 璃人はそう言うと、すぐに近くにいた二年生たちに声をかけに行った。彼も黎真のお弁当のことが、なにか気になっているのかも……?



――あれ? 珍しく璃人、焦ってる?



 なぜだかちょっと胸騒ぎがするけど、いまは焦るのも仕方がないのかもしれない。


 昼休みはもう終わりかけで、教室に戻る時間を考えたら、ここにいられる時間はあと五分もないくらいだ。


 今日の授業は五限目までで、テスト前だから部活もなし。放課後に学校に残る子は、たぶんほとんどいないと思う。


 黎真のことをだれかに聞けるタイミングは、かなり限られているわけで。



「ちょっといい? 遠野黎真って今日、見かけた?」



 璃人は、初対面の相手でも臆することなく、すっと距離を詰めて話しかけていく。


 私ひとりだったら、だれに声をかければいいかわからないし、きっとモジモジしている間に五分経っていた気がする。


 そして璃人の周りには、すぐにファンの女の子たちがわらわらと集まってきた。



「え? やばい! 篠原先輩に話しかけられちゃった! あ、はい、遠野くんですか? 今日は、ぜんぜん見てないかもですぅ」


「そっか。昨日はだれかと一緒だったって聞いたんだけど、泊まり先とか心当たりないかな?」


「ん~……たぶん小南君のところかもです! いつも一緒に遊んでるしぃ~」


「小南?」


「あ、あそこにいる男子ですぅ~」


「助かった。ありがと」


「キャァ~ッ! イケメンすぎる……!」



 璃人がにこっと微笑むと、女の子たちがみんな赤くなった。


 めったに見せないその笑顔は、ほんとうにズルいくらい、破壊力が半端ない……。



――璃人!? なんかエフェクト出てるよ。キラキラって……!


――これは絶対、わかってやってるやつだよね……。



 いつもなら『あざといぞっ』って、突っ込みたくなるところだけど、彼はいま、急いで情報を集めるために、ちょっと本気を出してくれてるみたい。


『すごいなぁ~』なんて思いながら眺めていると、今度は別の女の子がズイッっと割って入ってきた。



「璃人先輩! 遠野君、沢田君の家も、たまに行くって言ってました! 沢田君はあの子です! すぐ連れてきます!」


「うん。ありがと!」


「キャーッッ! もう、息できない!」


「完全に国宝級の笑顔だよ……!」



 こうして、黎真と仲がいいという男子たちが、あっという間に璃人の前に並んでいた。



「昨日の夜? いや黎真とは遊んでないっすよ。あいつ、まじめに勉強するみたいなこと言ってたし」


「俺のところにもきてないっす。家で勉強するって言ってましたよ?」


「勉強? でも昨日黎真のやつ、Switterの裏アカで呟いてたぞ……。巨乳ちゃんとお忍びデートだって写真付きで」


「えぇ!?」



 私たちはその子の携帯で、黎真の裏垢を見せてもらった。確かに一枚の写真といっしょに、『巨乳ちゃんとお忍びデート』という一言が書き込まれている。



「その書き込み、スクショして俺に送ってくれるか?」


「いいっすけど、裏垢ねーちゃんに教えたって言ったら、怒るだろうなーあいつ」



 黎真の友達はそういいながらも、スクリーンショットを私たちに送ってくれた。


 黎真が投稿した画像は、背景に赤みの強い月と、畑の真んなかに立つ鉄塔のシルエット、そして、ピースサインをしている男女の手が一本ずつ映っている。


 昨日の夜は満月で、月がものすごく大きく見えたらしい。だから黎真はこんな写真を撮ったんだと思う。


 写っている手は、片方が黎真っぽくて、もう片方はだれか女の子の手に見えた。



――れ~い~ま~!? ちょっと!? どういうことなの~!?



 頭を抱えてうなだれる私。受験生の姉にこのダメージは重すぎる。ほんとは昼休憩だって、少しでも勉強したかったのに、弟にここまで振り回されるなんて!



「あいつめ……。俺に勉強教えろって頼んでおいて、デートかよ……。しかも、巨乳だ……!?」



 璃人もさすがに頭に来たのか、黎真のピースサイン画像を眺めながら、ちょっとプルプル震えている。


 私もなんだか、急激に探す気がなくなってきた。きっと、このお弁当箱を綺麗に包んだのも、その巨乳の女の子な気がする。



「はぁ……。もういいや。昼休憩も終わっちゃうし、戻ろっか。璃人、いろいろ付き合わせちゃってごめんね」


「まぁ、いいよ。あいつは俺にとっても弟みたいなもんだし……」


「ん?」


「いや、幼馴染だからな……」



 なんだか、ちょっと照れくさそうな璃人。また珍しいものを見た気がする。


 私たちは黎真の友達にお礼を言って、教室へと引き返した。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 黎真の行方を追いながら、ちょっとした違和感や胸騒ぎを感じたこの回、お楽しみいただけたでしょうか?


 次回は初登場のキャラクター、朝倉隼人が語ります!


 第九話 奇跡の一枚をお楽しみに!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~



ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
陽葵ちゃんの感じた違和感。 たしかにこれは感じますねえ。 そして惣真と話したという友人達にきいても行方が分からない状況。 果たして!? 続きも楽しみですԅ( ˘ω˘ ԅ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ