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狂い咲く花~双子の少女が詠うとき、学園は静かに狂い始める~  作者: 花車


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31/35

31 大切だから

 場所:旧校舎

 語り:遠野陽葵

 *************



 二つ目の教室を覗いた瞬間、私は声にならない声を出した。



――ひっ!?……澪さん!?



 まるで呪いを全身にため込んだみたい。肌は青黒く染まって、黒い血管が浮き出している。


 そしてなによりも、彼女の足元からは、まるで毒の花が咲くみたいに、黒い霧が広がっていた。


 その姿はもう、私の知ってる澪さんとは別人で……。


 そのとき、白鷺君の大声が、教室の空気を震わせた。



「澪! こんなこともうやめるんだ!」


『邪魔するなぁぁぁ! しらさぎぃぃぃぃ! 一位になったからって私を見下してぇぇぇえ……!』


「違う! 君を見下したことなんてない!」



 澪さんは瞳をギラリと光らせて、まっすぐ白鷺君を睨んでいる。


 それでも白鷺君は足を止めず、澪さんのもとへ歩いていった。



「俺は君に憧れていた。だからこそ、君に勝ちたかったんだ。俺はずっと、君に負けてばかりだから!」


『嘘つきぃぃぃ! 私の体が目当ての癖にぃぃぃぃ!』


「確かに! 俺は君の全てに惹きつけられた! 顔も、声も、仕草も、君の努力も! 宣言してもいい! 俺ほど君に惑わされてる男は他にいない!」



――おぉぉ……! す、すごいよ、白鷺君! がんばれ、その意気だよ!



「必ず澪を止める」と言った言葉どおり、白鷺君は本気だった。


 まっすぐに本音をぶつける姿は、胸が震えるくらい熱くて。不器用かもしれないけど、気持ちがすごく伝わってくる。


 でも澪さんは、それを受け止め切れないみたい。苦しそうに頭を抱えて、反り返りながら叫びだした。



『ぐあぁぁぁあ! お前のせいだ! お前のせいで、私はお母さんに愛されないのよぉぉお! 一位じゃなきゃ! 一位じゃなきゃだめなのにぃぃ!』



 澪さんの口から、ドス黒い霧が溢れてくる。それは暴れ狂う蛇に姿を変え、うねりながら白鷺君に襲いかかった。



――だめ! 白鷺君が!



 そう思った瞬間、白鷺君の胸ポケットが眩しく光りはじめた。


 金色の光が黒い蛇を切り裂いて、蛇は霧になって消えていく。


 胸ポケットにあったのは、智也がくれた『ありがたい霊符』!



――すごいよ智也! ほんとにありがたいよ!



 拳を握って喜ぶ私。


 でも次の瞬間、黒く血走った澪さんの顔が、突然ぐるっとこっちを向いた。その怒りに満ちた視線は、まっすぐに璃人を射抜いている。



『ぐうぅ! また、その霊符かぁぁぁあ! お前だなぁあぁ! あのとき呪ってやったのにぃぃぃい! 目障りなやつめぇぇぇ!』



 低く吠えるような唸り声は、もう人間とは思えない。


 彼女はぐっと背中を反らせて、大きく息を吸い込んでいく。


 まるで体のなかに呪いを凝縮しているみたい。


 目を見開いた瞬間、彼女の口がガバッと開いた。喉の奥から、どす黒いなにかが璃人に放たれようとしている。


 それはさっきの蛇とは、比べものにならないくらいに大きくて。



――だめ! 璃人が!



 そのとき、白鷺君が澪さんに飛びかかった。口から飛び出した塊は逸れ、天井にドスンと直撃する。



「澪! もう、やめてくれ!」


『はなせーーーー! 一位は私のものおぉオォぉ!』



 澪さんは暴れに暴れて、白鷺君の肩に噛みついた。


 爪が肉を裂き、血が滲んで。それでも白鷺君は、がっちりと彼女を抱きしめている。



「君の痛みも怒りも悲しみも、全部俺が受け止める! 俺は君が好きだから! 俺が必ず君を守る! だから! これ以上他人を巻き込むな!」



 その声は、呪いの霧を突き抜けるほど真っ直ぐで。けれど、澪さんは、また苦しげに体を逸らせた。



『キィィィイイイイイィイイイーーーー!』



 ――ドゥン!――



 ものすごい奇声。同時に教室に放たれたのは、重い衝撃波で。見えないなにかに押されるみたいに、私たちは後退りした。



「……あがっ!」



 白鷺君が宙を舞っている。壁に叩きつけられて、彼はそのまま床に落ちた。



「白鷺君!」


『私のほうがいい子なのぉぉぉ~! 私のほうが、頑張ってきたのぉおぉぉ~!』



 白鷺君が心配だけど、澪さんの声が不気味すぎる。思わず耳を塞いだら、また衝撃波が襲ってきた。



 ――ドゥン!――



「きゃぁぁ!」


「陽葵! 大丈夫か!?」



 璃人が手を伸ばしてくれたけど、床はぐらぐら揺れてるし、近づくことができなくて。


 天井の蛍光灯が砕け散って、ガラスの破片が降ってきた。破片が当たったところから、ぽたぽた血がしたたり落ちる。


 澪さんの呪い、完全に暴走してるみたい。



――どうにかしなきゃ!



 と思ったそのとき、今度はヒカリが澪さんに飛びかかった。



「いい加減に止まれ! 鏡花澪! 白鷺君がどれだけあんたのこと思ってるか、ほんとにわからないの!?」



 ヒカリは澪さんの腕を押さえ込んで、なんとか動きを止めようとしてる。そのすきに、璃人が塩を取り出して、床に結界を描きはじめた。


 でも、澪さんの力は強すぎて。ヒカリの腕を振りほどいて、澪さんが身をひるがえした。塩の輪が完成する前に、するりと結界の外へ逃げていく。



「大人しくしてっ!」



 私も箒を投げ捨てて、澪さんの背後に飛びついた。


 澪さんがヒカリに噛みつこうと口を開ける。私は後ろから、澪さんの顎を押さえ込んだ。これなら、霧を吐くのも防げるかも。


『ありがたい霊符』も数は限られてるし、何度も呪いは受けられない。いま、ここで彼女を封じ込めないと――。



「璃人! 早く!」


「わかってる!……よし、できた!」



 璃人が急いで結界を完成させると、黒い霧がゆっくり消えていった。


 それでも澪さんは、大きくのたうち回っている。


 璃人が聖水を振りかけると、動きが少しだけ弱まった。



「ふぅ。まだ手を離すと暴れるけど、このまま結界のなかにいれば、少しずつ落ち着いてきそうだね」


「でもこれ、結構時間がかかりそう」



 早く黎真を探しに行きたいけど、聖水はこれ以上減らせないし。


 澪さんをここに置いていったら、自分で結界を壊しそうで。



「どうしよう……」


「陽葵、篠原君! ここは私に任せて、早く弟君のところに行って!」



 迷っていたら、ヒカリが澪さんを押さえこみながら、私にそう言ってくれた。



「ありがとう、ヒカリ! 本当にごめん!」



 私は教室を飛び出していく。


 白鷺君のことも気になるし、ヒカリだってすごく心配だけど。


 でも、それ以上に、いまは黎真のことが気がかりだから。



「任せたぞ、西園寺」



 璃人もすぐに私のあとを追って走り出した。



「ここじゃない!」


「ここにもいない!」



 五つ目の教室を覗いたとき、私たちは思わず息を飲んだ。


 教室の中で、何人もの呪われた生徒たちが、ゾンビのようにうごめいていて。その真ん中には、ぐったりと倒れてる黎真の姿が!



「黎真!」



 すぐに教室へ飛び込もうとしたけど、璃人が私を呼び止めた。



「待てよ、陽葵! 危なすぎる!」


「待てないよ! このままじゃ黎真が死んじゃう! お願い。ゾンビは私が止めるから、璃人は黎真に聖水を!」



 聖水はもう黎真ひとり分しかない。


 璃人が使ったほうが効果が高いし、これは璃人に任せるしかない。


 璃人は少し戸惑った顔をしたけれど、しぶしぶ頷いてくれた。



「……だったら、これを」



 差し出されたのは『龍神様の焼き塩』。


 璃人の霊力のせいなのか、ほんのり白く光っていた。


 私はそれを受け取って、ぎゅっと拳に握りしめる。



「うあぁぁぁぁぁあああ!」



 気合を込めた叫びとともに、私はゾンビだらけの教室に突っ込んでいった。


 ゾンビたちが一斉にこっちを見たとき、昔の記憶が蘇った。


 小さいころ、弟が使っていたおもちゃを、無理やり取ろうとした男の子がいた。


「いやだ」と言って拒んだ黎真を、その子は怒って殴りはじめた。


 何度も殴られて、泣きながら、黎真はおもちゃを放さなかった。


 どうしても見てられなくて、私は男の子を突き飛ばした。


 その子は勢いよく転んで、そのとき手首が折れちゃって……。


 それからしばらく、私は「ブチギレ女」とか「怪力女」とかよばれて、みんなにからかわれることになった。



――私って女の子らしくないのかな?


――また、カッとなって、だれかにひどいことするのかも。



 怖いって思われたくない。


 大人しい女の子にならないと。


 そんな思いが、少しずつ私を引っ込み思案にしていった。


 だけど……。



『おねえちゃん、ありがと!』



 黎真が笑ってくれるだけで、全部報われた気がしたから。


 周りにどんなふうに思われても、私は大切な人のために、ちゃんと戦える自分でいよう。


 三歩も進まないうちに、ゾンビたちが私に群がってきた。



「ごめんね! みんな!」



 私は塩を握った手で、ゾンビにパンチをぶちこんだ。拳が当たった瞬間、はじけるように光の粒が舞う。


 なんだか体の奥底から、力が漲ってくるみたい。


 ゾンビがびっくりするくらい吹っ飛んで、床に倒れて気絶した。


 見た目はほんとにゾンビだけど、みんな呪いにかかってるだけで、本当は生きてる生徒たちで。


 こんなふうに攻撃するなんて、絶対間違ってる気がするけど。


 それでも私は、とにかく弟を守りたいから!


 噛み付こうとしてきたゾンビに、思い切り拳を振り下ろした。ゴツンと痛そうな音がして、ゾンビがまた気を失う。


 全身が激しく光りはじめて、もう塩が無くても戦えそう。足元に群がるゾンビたちも、みんな勢いよく蹴り飛ばして……!



――あぁ……! 終わった……。完全に!



 絶対今、璃人はゾンビなんかより、私のことを怖がってるよね。


 悲しすぎて、ちょっとそっちを見れないけど。



――可愛いって、思われたかった!


――守りたいって、思われたかった!



 子供のころからの恋心も、イメージを変えたくてしてきた努力も、いま全部が崩れ去って……。



「かかってこい! 私の弟を傷つけたら、絶対に、絶対に許さないんだからーーーーー!」



 叫びながら、私はまたゾンビたちの群れに突っ込んでいく。


 とにかく全部なぎ倒して、背後からきた一体を背負い投げた。


 床に叩きつけられたゾンビが、鈍い音を立てて動かなくなる。



「黎真! しっかりしろ!」



 気がつくと、璃人は黎真のところに辿り着いていた。すでに塩の結界もできてるみたい。


 私は最後のゾンビを殴り飛ばして、黎真のそばへ駆け寄った。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 たくさんの毒花が狂い咲いたこのお話、なんと今回は陽葵ちゃんが狂い咲いてくれました(´ω`*)


 というわけで、【狂い咲きガールズコレクション2025】


★1位 神城麗花

 「死んでたまるかぁぁ!」

★2位 鏡花澪

 「一位じゃなきゃ愛されない」

★3位 雨宮詩音

 「地獄を味わえ!」

★4位 御子柴望

 「絶対服従だよ?」

★5位 二ノ宮結芽

 「あなたを殺したのは私だね」

★6位 遠野陽葵

 「可愛いって思われたかった!」


 主人公も6位にランクインです笑


 あと、作者はやっぱり白鷺君が好きです。


 次回、第三十二話 最終兵器をお楽しみに!


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― 新着の感想 ―
惣真くんの元に向かう陽葵ちゃん達。 そしてそこには恐るべき姿の澪ちゃんが!!?? だけどその力は本物だった。 そして皆で押さえ込みなんとか。 いやあ、それでも陽葵ちゃんがやたら強かった(;´Д`) そ…
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