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狂い咲く花~双子の少女が詠うとき、学園は静かに狂い始める~  作者: 花車


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21 狂い咲く花

※ホラー描写が多めなので怖くて読めない人のために後書きにこの回の要点をまとめてあります。

 場所:屋上

 語り:遠野陽葵

 *************



 黒い雲に覆われた空の下、神城さんは屋上のフェンスの向こう側に立っていた。


 風に煽られてふらふら揺れながら、彼女は両手を広げている。



「待って……! 神城さんを殺さないで……!」


「戻るんだ、神城!」



 大声で呼びかけていると、背後から階段を駆け上がるたくさんの足音が響いてきた。


 先生や生徒たちが、私たちの声に気付いて、大勢集まってきたみたい。



「あれ? 麗花様じゃん」


「やば、本当に自殺する気?」


「てか外の空気おかしくね……?」



 そんな声があちこちから聞こえてきて、私の後ろにどんどん人だかりができていった。


 そのなかには、詩音さんの姿もある。感情の読めない顔のまま、まっすぐに神城さんを見据えている。


 彼女がなにを思っているのか、私にはまったく想像がつかない。


 そのとき、神城さんがゆっくりとこちらを振り返った。焦点の合わない瞳が空をなぞる。



「わっ! あの顔、呪い!?」


「ゾンビみたい……」



 さっきまで赤く泣き腫らしていたはずなのに、神城さんの顔が異様なくらい青黒くなっている。白目は濁ってるし、瞳孔も不自然に開いていて……。


 本当にゾンビみたいで、思わず「ひっ」と声がでた。私は幽霊も苦手だけど、ゾンビはほんと、かなりムリ……。


 ちょっと後ずさったら、神城さんが悲しそうに首をかしげて、ゆっくりと手を伸ばしてきた。


 その仕草は、だれかに赦しを乞うようにも、呪いをかけようとしているようにも見える。



『……みんな、ごめんなさい。詩音さん、本当にごめんなさい。私が雨宮詩織さんのいじめを、指示しました。私はここから落ちて死にます……。だから、どうか、許して……』



 ゆらりと揺れる神城さんの体。高音と低温が混ざり合う、不気味で異質なその声は、まるで耳の奥に直接響いてくるようで……。



「なにこの声……。気持ち悪い……!」


「神城がいじめを認めたぞ!?」


「まさか、あの女王様が、罪の意識で自殺なんて……」



 ざわざわと騒ぎが広がるなか、神城さんの体が突然、ビクンと大きく跳ね上がった。あまりにも不自然な動き。みんな青ざめて悲鳴をあげる。



「キャー! 危ないってば!」


「落ちる落ちる……!」



 ビクンビクンと痙攣する神城さんの体。


 肩も足も力が入ってないし、見えない糸で操られてるみたい。


 いまにも足を踏み外しそう……! 見ているだけで自分も体が跳ねそうになる。


 フェンスの外側、たった一歩で落ちそうな場所なのに、神城さんの動きが激しすぎる。



「どうしよう、璃人! このままじゃ落ちちゃうよ。智也、まだかな? なにしてるのかな!?」


「特別な霊符がいるとかで、オカルト部の部室へ取りに行った」


「間に合うよね……? 落ちる前に、絶対来てくれるよね……?」



 神城さんの動きがなんだか人間っぽくなくて……。次にどう動くか読めないし、本当にヒヤヒヤする。


 でも、近づいたら、自分で飛び降りちゃいそうだし……。


 みんなが祈るような気持ちで見守るなか、神城さんは何度も懺悔を繰り返している。



『ごめんね詩織……。いじめの指示を出したのは私です……。死んでお詫びを……』



 それを聞いた、神城さんのファンの子たちが、彼女に声をかけはじめた。涙をこらえて、肩を震わせながら、必死に声を振り絞っている。



「神城さん! 死なないで! あなたは私たちの目標なんだよ!」


「麗花様! 反省してるなら、生きて償っていきましょう!」



 すると、フェンス越しに見えていた神城さんの表情が、突然変わった。


 ずれていた目の焦点が定まり、目を大きく見開いている。その顔は、ものすごい怒りで歪みきっていた。


 彼女は両手で頭を抱えて、そのままグイっと背中を反らす。その動きに、みんな思わず悲鳴をあげた。



「なに言ってるの!? 私は指示なんか出してない! ただ()()()って言っただけよ! それだけでいじめの主犯扱い? ふざけないで!」



 神城さんが怒鳴り叫ぶ。さっきまでの取り憑かれた声じゃなく、いつもの彼女の澄んだ声で。だけど、あまりにも感情がむき出しで、ファンの子たちが青ざめている。



「あれ、どうなってるの!? 声が戻ったみたい」


「言ってることが変わってるぜ?」


「え? こっちが本音?」


  ――ガシャン!――


「ひぃっ!」



 のけぞっていた神城さんが、ガッと両手を広げてフェンスを掴んだ。網状の金属のワイヤーに、怒りに狂った顔が押し付けられる。


 その顔はさっきよりもっと青ざめていた。ギリギリに噛みしめた口からは、折れた歯がポロポロ落ちていく。


 艶やかだった巻き髪はぐちゃぐちゃに乱れて、完全に重力を無視したみたいに、空中を漂っていた。


 それは、これまでの華やかさや優雅さが完全に消え失せた、ただただゾッとする恐ろしい姿で。


 でも、いまの彼女は、フェンスをガッチリ掴んでいて、落ちまいとしているようにも見えた。


 と思ったら、彼女の声がまた二重音に変わる。



『ごめんね、詩織……! 私ならいじめを止められたのに……! 本当にごめん……。寂しかったよね。つらかったよね。私もいまから、あなたのところへ行くね……!』



 そう言って、神城さんはフェンスから手を離した。また体が後ろに倒れて、いまにも落ちそうになっている。


 矛盾した言葉を繰り返す彼女のなかで、悪霊と本来の神城さんが、ぶつかり合っているみたい。



「神城さん! しっかりして! 悪霊に負けないで!」



 私は気を取りなおして、喉がかれるくらい大声をあげた。神城さんがまた「ガシャン!」と、フェンスを掴む。



「ぐうぅぅ! ふざけんなぁぁ! 詩織がつらかった? それが私になんの関係があるっていうの!? 私は神城麗花なのよ!? なんで私が、あんな()()()のために死ななきゃいけないのよ!? ()()()のせいでーーーーー! この私がーーー!」



 神城さんがフェンスに顔を叩きつける。激しく何度も叩きつけると、青黒い肌から血がダラダラと流れ出した。歯もボロボロだし、もう本当に見てられない。


 叫んでることも、さっきの懺悔とは正反対で、完全にドス黒い本音だし。


 だけど、私は、その叫びのなかに、彼女の『生きたい』という意思を感じ取った。


 智也が来るまで、これで時間を稼げるかもしれない。



「神城さん! 生きてーーーー!」


「そうだ! あがけ、神城! みっともなくたっていい! 生きろ!」


「がんばれーーー! 落ちんなーーー!」



 私の叫びに続いて、周りの子たちも次々に声を張り上げた。


 この場にいるだれもが、神城さんに生きてほしいと願ってる。そう思えるくらい、みんなの気持ちが伝わってきた。


 その声に応えるように、神城さんがフェンスにしがみつく。


 だけど体が言うことを聞かないみたい……。彼女の指先は、またフェンスから離れて、伸ばされた指が空を切った。



「ぐあぁぁ! 死んでたまるかぁぁぁああーーーーー!」



『こんな私で、ごめんなさい……。さようなら……』



 神城さんの絶叫が、消え入りそうな二重音に変わる。彼女の身体が、ふらっと後ろに倒れていく。



「もう見てられない! 助けに行く!」


「だめだ、陽葵! 危険すぎる! くそっ、智也はまだか?」



 璃人が焦った声で叫びながら、また私を引きとめた。


 神城さんの足先が、校舎のふちから離れている。


 彼女の体が宙に浮いて。


 まるで時間がスローモーションになったみたいに、すべてがゆっくり動いている。そのなかで、私は必死に手を伸ばした。



「だめーーーーー!」



 喉が裂けるくらい叫んだ。その場の全員が息をのんだ、その瞬間……!



――バーン!――



 屋上の扉が勢いよく開き、智也の凛とした声が響き渡った。



「急急如律令!」



 空気を切り裂くような詠唱の声とともに、放たれた霊符が宙を舞う。白い光をまといながら、神城さんへと飛んでいく。


 霊符はフェンスを乗り越えて、神城さんの体に貼りついた。その瞬間、彼女の背後に透明な壁が現れる。


 その壁に押し戻されて、宙に浮いていた彼女の体が、ふわりと校舎のふちへ戻ってきた。



「わぁ! なんだあれ!」


「すごい! もしかして、魔法のバリア?」


「いや、陰陽師だし、結界じゃね?」



 みなが騒然とするなか、璃人はいつの間にか、神城さんに向かって走り出していた。


 迷わずフェンスを乗り越えて、神城さんの体を引き寄せる。その瞬間、彼女を支えていた結界は、パリンと割れて消え去った。


 璃人の腕のなか、崩れ落ちる神城さんの姿が見える。


 まるで糸が切れた人形みたいに、彼女はぐったりと気を失っていた。だけど、よく見ると、青黒くなっていた肌の色が、もとの肌色に戻っている。



「うぉー!? 智也が悪霊を祓ったぞ!?」


「いや、俺は結界を張っただけだ。悪霊のほうが勝手に逃げてったんだ」


「それでもすごい! 神城さんを助けてくれて、ありがとう!」



 智也は汗ばんだ額をぬぐいながら、照れ臭そうに笑顔を見せた。


 みんながわーっと集まって、智也があっという間にもみくちゃにされていく。


 ギリギリすぎて焦ったけど、智也が来てくれて本当によかった!


 こんなの見たら、もう泣かずにはいられないよね……!



――智也、本当にありがとう!



 先生たちが神城さんのもとへ駆け寄って、彼女を安全な場所へ運んでいく。


 ふと目を向けると、詩音さんが複雑な表情を浮かべて、一人で屋上から降りていった。


 その背中には、言葉にできない彼女の気持ちが、にじみ出ているみたいだった。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 今回は悪霊に取り憑かれた神城さんでした。みんなで呼びかけると正気に戻るんですけど、正気の方が怖いっていう(^-^;


 タイトルの『狂い咲く花』を感じていただけたら嬉しいです笑


 ここも一応クライマックスなのですが、物語はまだまだ続きますので、ぜひ引き続きお楽しみくださいませ!


 次回、第二十二話 注目の的をお楽しみに!


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【今回の要点(怖くて読めない人用)】

神城麗花が屋上のフェンス外に立ち、自殺をほのめかす。

悪霊に取り憑かれた彼女は懺悔と逆ギレを繰り返し、精神が崩壊している。

生徒たちが集まり、麗花の告白に騒然となる。

陽葵たちは必死に呼びかけ、麗花の「生きたい」意思を引き出す。

智也が霊符を持って登場し、結界を張って麗花の命を救う。

結界により麗花の体が校舎のふちへ戻され、悪霊が離脱。

麗花は気を失うが、肌の色が元に戻り、命は助かる。

智也は英雄扱いされ、屋上は安堵と感動に包まれる。

詩音は静かに屋上を去り、複雑な感情を背負っている様子が見える。

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― 新着の感想 ―
やばい状況の神城さん。 それはもう一触即発。 そしてようやく来てくれた智也。 そしてなんとか事なきを得ましたが果たして!? 続きも楽しみです!
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