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狂い咲く花~双子の少女が詠うとき、学園は静かに狂い始める~  作者: 花車


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13 広がる毒

 場所:三年二組

 語り:遠野陽葵

 *************



「雨宮詩音。お前は悪霊に取り憑かれている! 俺が除霊してやるから、大人しくしろ!」


「え? 除霊!?」「なにそれ。ウケる」「でたー。駆け出し陰陽師」



 みんな口では馬鹿にしているけど、最近の呪い騒ぎのせいでやっぱり不安になってるし。これはちょっと、期待しちゃうよね……!?


 みなの注目を集めながら、智也はいつもの『ありがたい霊符』とは違う、赤い墨で書かれた霊符をスッと頭上に掲げた。



「怨霊よ、そこを退け! 急急如律令!」



 陰陽師っぽい呪文を唱えながら、霊符が詩音さんに向かって放たれる。


 不自然なくらい真っすぐに飛んでいく霊符に、みんな一瞬目を見張った。



――おぉ!?……って、あれ!?



 なにか起きそうな雰囲気はあったんだけど、霊符が詩音さんに届くことはなかった。


 ひらひらと力なく舞い落ちる霊符。教室の空気が一気に冷え込む。



「なんだ。くっだらねー」


「教室でいきなり除霊とかこわすぎ」



 一瞬の沈黙のあと、ひそひそとバカにした声が、あちこちから聞こえてきた。


 まるで教室に溜まっていた不穏な空気が、毒になって広がるみたいに。


 智也は見たことないくらい動揺して、霊符を投げたままのポーズでかたまっている。


 そんな彼に詩音さんは、口元に笑みを浮かべながら、少し首を傾けて言った。



「除霊って、これで終わりなの?」


「くっそー! どういうことだ!? どうして効かない!?」



 智也は床に落ちた霊符を拾いながら、悔しそうに吠えていた。自信満々で入ってきただけに、見てられないくらい痛々しい。



「偽霊媒師おつ~」


「オカルト野郎マジできもいんだけど」


「お前ら!? いつもいつもバカにしやがって! 呪われても助けてやらねーぞ!」



 みんなの冷たい視線にさらされて、智也の目に涙が浮かんだ。


 いつもなにを言われても平気そうだったのに、今回はさすがにショックが大きかったみたい。



「智也……!」



 思わず声をかけたけど、智也は手で涙を拭いながら、教室を飛び出していってしまった。


 智也は、ときどき空回りすることもあるけれど、私にとっては大切な幼なじみだ。


 陰陽師だったひいおじいさんに、憧れているのも知っている。


 除霊のことはよくわからないけど、彼はいつもまっすぐで、どこまでも本気だった。それだけに、余計に心配になってしまう。


 私が智也を追いかけようとしたとき、英語の小川先生が教室に入ってきた。


 先生は幽霊みたいに顔色が悪くて、足元もなんだかふらふらしてる……。


 それを見た生徒たちは、みんな自然と話すのをやめて、黙って自分の席に戻った。私も仕方なく席につく。



「先生、御子柴さんは大丈夫なんですか……?」



 小川先生が保健室にいたことを思い出して、私は御子柴さんのことを聞いてみた。



「え、ええ……。具合が悪くなった子たちは、みんなそれぞれ家の人が迎えに来ましたから……。だから、だっ、大丈夫……。きっと……うん、きっと大丈夫……」



 小川先生は、まるで自分に言い聞かせるみたいに、何度も『大丈夫』と繰り返していた。


 なかなか気持ちが落ち着かないのか、声もすごく震えてる。


 あの保健室は、本当にたいへんな状態だったし、先生もショックを受けたのかも……。


 みんながいろいろ質問するたびに、先生はびくっと体を震わせて、本当に怯えてるみたいだった。みんなの顔色が曇っていく。


 それでも先生は、きっとみんなの不安を少しでも軽くしようと、教室に来てくれたんだと思う。


 みんなが質問するのをやめると、先生はチョークを握って、黒板に英文を書きはじめた。



『I’m so so sos……』



 それは、まるで助けを求めてるみたいな、意味のわからない英文で。


 先生の手は震えてるし、書かれた文字はギザギザに歪んで……教室の空気がまた重く毒されていく。


 チョークのボキッと折れる音が、静まり返った教室に響いた。


 その音をきっかけに、とうとう先生は泣き出してしまった。押し殺したような嗚咽が響いてくる。



「先生……。大丈夫ですか……?」


「……ごめんなさい……。もう……どうしたらいいのか、わからなくて……」



 肩を震わせながら、先生はその場に崩れ落ちた。


 何人かの生徒が、つられるように涙を流しはじめる。


 私たちは授業時間が終わるまで、黙って顔を伏せていた。


 だれもなにも言えなくて、時間がすぎるのを待つしかなかった。



      △



 その日の放課後、私はまた二年三組の教室へ向かうことにした。



――もし、黎真の具合が悪くなってたらどうしよう……。



 そんな不安が、なかなか頭を離れなくて、ずっとソワソワが止まらない。



「俺もいく。探すなら人手が必要だろ」


「じゃぁ、私も行くよ。手分けしたほうが早いでしょ?」



 璃人とヒカリが、当然のようについてきてくれた。


 本当は、璃人には安静にしていてほしい。まだ頬も腫れているし、テスト前なのに無理させるのは本当に気が引ける。


 璃人はいつも成績がいいけれど、それは地頭の良さだけじゃなく、いつも努力してるってことを、私はよく知ってる。


 ヒカリも「やる気ゼロ!」なんて言っているけど、本当は勉強したいと思ってるはず。


 でも、私ひとりでは、どうしても黎真を見つけられる気がしなかった。



「ごめんね、二人とも」


「いーってば! 友達でしょ?」



 ヒカリは明るく笑いながら、いつもの調子で返してくれる。


 璃人はなにも言わずに、当然のように前を歩きはじめた。その背中を見ていたら、胸がじわっと暖かくなって、ちょっと泣きそうになってしまった。


 北校舎へ向かって歩いていると、ヒカリがふと首を傾けた。



「それにしても、二年生が四人も倒れるなんて。てっきり、雨宮姉妹の呪いだと思ってたんだけど、違うのかな?」



 あの『体調不良』に陥ったのは、三年生では神城さんのグループの人ばかりだった。


 神城さんたちがほんとにいじめてたかどうかは、正直よくわからないけど、詩音さんの態度があまりにも不気味で……。


 いじめっ子への仕返しっていう話が、なんとなく本当っぽく思えてきていた。


 でも、二年生たちは雨宮詩織さんが亡くなったとき、まだ入学してなかったんだよね。だから、あの子たちがいじめに関係してたとは思えない。



「もしかすると、今日倒れた四人が行った場所に、体調不良の原因があるのかもしれないな」


「なるほど。そこに陽葵の弟君が倒れてる可能性があるってことだね!」


「あぁ。そういうことだ。陽葵、西園寺。二年生が帰ってしまわないうちに聞き込みしよう」



 璃人たちはそう言うと、少し急ぎ足で歩きはじめた。私も慌ててあとを追いかける。なんだかすごく心強い。



――二人みたいにうまくできるかわかんないけど、私も頑張って黎真のこと、聞き出さなきゃ。



 急いで北校舎に入ったけど、生徒はもうちらほらしか残ってなかった。


 とりあえず三組の教室を覗いてみる。やっぱり黎真の姿は見当たらない。


 何人かに聞いてみても、今日は一度も見ていないって。


 そうしているうちに、教室の生徒はどんどん減っていった。テスト前で部活もないし、早く帰って勉強したいんだと思う。


 それでも、まだゆっくりと帰り支度をしている子も、いくらか校舎に残っていた。


 私たちはメモ用紙とペンを手に、それぞれ別の生徒に声をかけて、聞き込みを開始した。


 みんなで同じ子に聞くより、手分けしたほうが、三倍早く情報が集まるはずだよね? 引っ込み思案な私だけど、勇気を出して、帰り支度をしてる女の子に話しかけてみた。



「あのぉ……。今日、保健室に運ばれた子たちのことが知りたいんだけど。なにか知ってることがあったら教えてもらえないかな?」


「え? 三年生……? なんでそんなこと聞くんですか?」



 女の子は迷惑そうに顔をしかめて、キッと私を睨んできた。


 二年生の間でも、今日の騒動はやっぱり衝撃だったみたい。


 四人も次々に体調を崩して、あんなふうに保健室に運ばれたら、だれだって怖くなるよね。


 知らない三年生に話しかけられて、警戒するのもわかる気がする。



「えっと、弟が見つからなくて……。同じ病気で倒れてるかもって思うと心配なの……」


「そんなこと言って、犯人捜ししてるんですよね? 私、関係ないですから」


「あ、ちがうの……。あなたを疑ってるわけじゃないんだけど……。倒れた子たちが今日行った場所に、弟がいるかもって思っただけで……」


「私、毒とか盛ってませんから。失礼します」



――えーー!? 全然話聞いてくれない! しかも、毒ってなんの話!?



 がんばって説明してみたけれど、女の子はさっさと荷物を鞄に詰めて、教室を出ていってしまった。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 智也の除霊失敗にくわえて、生徒より先に崩壊する先生……。


 空気がどんどん重くなるなか、陽葵たちは再び聞き込みを開始します! さてどうなるでしょうか!?


 次回、第十四話 頼れる二人をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
除霊に失敗したであろう智也。 そして英語の小川先生までもが。 智也も心配になる陽葵ちゃんでしたが 、惣真君探しもしなければと優しい二人と聞き込みをしますが毒とかという話も出てきて困難になって来ましたが…
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