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狂い咲く花~双子の少女が詠うとき、学園は静かに狂い始める~  作者: 花車


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10 体調不良

※少し怖いので読み飛ばせるように後書きに要点をまとめてあります。

 場所:移動中

 語り:遠野陽葵

 *************



「はぁ、黎真のやつ。心配して損した気分だよ。どうせ、いまもどっかでサボってるんだよね」


「まぁ、そんなところだろうな」



 弟の教室を出た私は、璃人と二人、生徒たちの話し声が響く廊下を歩いていた。北校舎から西校舎へとつながる渡り廊下に入っていく。



――もう少し早歩きしないと、五限目に間にあわないかも。



 そう思ったとき、急に璃人が立ち止まった。北校舎のほうを振り返って、少し首を傾げている。



「どうしたの?」


「い、いや。なんでもない……」



 私も振り返ってみたけど、本当になにもないみたい。璃人がまた歩きだして、私もそのあとをついて歩いた。さっきまでよりペースが速い。


 いつも涼しげな璃人にしては、ちょっと様子がおかしい気もする。



――そういえばさっきも、なんかキョロキョロしてたような……。



 少し気になるけど、早足で歩く璃人に追いつくのでいっぱいいっぱい。


 渡り廊下を抜けて西校舎に入ったら、廊下に人だかりができていた。


 気になってそっとのぞいてみると、床に女子生徒が倒れている。


 周りにいる子たちは、なぜかみんな見ているだけで、だれも動こうとしないみたい。



「どうしたの? 大丈夫!?」



 慌てて駆け寄って声をかける。その子はうつ伏せになっていて、顔は見えない。だけど、このショートカットの髪型とか、見覚えのある体つきは、たぶん御子柴さんだと思う。


 そういえば今朝のホームルームで、詩音さんに詰め寄られて、彼女は尻餅をついていた。もしかするとあのときに、頭でもぶつけてしまったのかも。


 軽く体に触れてみたら、びっくりするほど冷たかった。



――え? どうしてこんなに冷えてるの?



 気温は三十度を越えているのに、彼女の身体は寒そうに小刻みに震えていた。床についている指先も、ものすごい力が入ってる。



――っていうか、爪割れてすっごい血が出てるよ!?


――ちょっとこれ、やばくない!?



「御子柴さん!」


「ううぅぅぅ……!」



 強めに呼びかけてみたら、返ってきたのはゾンビみたいな呻き声だった。それもなんだか、人の声っていうより、喉の奥で空気が鳴ってるみたいな、変な音で。


 しかも、どこからかギリギリと、不気味な音も響いてくる。


 急に冷や汗が噴き出してきて、どうしようかと思っていたら、璃人がすぐ隣に来てくれていた。



「おい、御子柴!」


「ひいっ!」



 璃人が御子柴さんに声をかけながら、そっと体を仰向けにする。顔がこっちを向いた瞬間、びくっとして思わず飛びあがった。


 御子柴さんの目は大きく見開かれて、まったく焦点があってなかった。白目はくすんだ灰色に濁っているし、黒目は逆に、曇ったガラスみたいに白っぽくなって……。


 ギリギリと音がしてたのは、歯を食いしばっていたせいみたい。あまりに強く噛みすぎて、折れた歯が突き刺さった歯茎から、血がドバドバ噴き出してるし……!



――ひえぇぇ。なにこれ!


――本当に現実? もしかして、文化祭の出しものの練習とか?



 まるでホラー映画の特殊メイクみたいだけど、それにしてもあまりにリアルすぎる。


 思わず後ろに飛び退くと、周囲の生徒たちのざわめきが耳に入った。



「また麗花様の取り巻きが呪われたぞ……」


「……姫野さんのときと同じだわ」



――え? これが呪い!?



 先月から休んでいるクラスメイトたち。体調不良だとは聞いていたけど、まさかこんなことになってたなんて。


 呪いとかほんとに信じたくないけど、御子柴さんの顔が怖すぎて、鳥肌がゾワゾワ立ってくる。


 御子柴さんは全身カチコチで、指先までものすごい力が入ってるみたい。



「近づくと呪いが移るぞ」


「やっぱり、御子柴もいじめしてたんだな」



 そんなひそひそ声が聞こえてきて、私は呆然としてしまった。こんなふうに倒れている人を見るのは初めてだし、正直私だってめちゃくちゃ怖い。でも、こんな状態のクラスメイトを、ただ遠巻きに見ているだけなんて……。



「御子柴さん! しっかりして!」


「御子柴!」



 私がもう一度声をかけると、璃人も気を取りなおしたみたいに、彼女の名前を呼びはじめた。



「ど、どうしよう、璃人」


「とにかく、保健室へ連れていく」



 璃人が御子柴さんを背負おうとして、私も彼を手伝った。なんとか御子柴さんを璃人の背中に乗せようとする。でも、体がカチカチになってるから、どうしてもうまく持ちあがらない。



「難しいね……」


「前から抱きあげるしかないか」



 璃人はちょっとイヤそうな顔をしながらも、御子柴さんのほうに向きなおった。そして、彼女を抱きあげようとしたその瞬間――。



「フギャーーーーー!」


「あいたっ!」


「きゃ!? 大丈夫!?」



 突然御子柴さんが暴れだして、指先が璃人のおでこをかすめた。ダラダラ血が流れてくる。



「なんだ? 急に暴れだしたぞ!」


「キーー! ギャーーーーーー!」



 御子柴さんが力いっぱい璃人のシャツをつかんで、どんどん彼に乗りあがっていく。ものすごい奇声をあげて、ほとんど野生の動物みたい。



「うわっ、やめろ……!」


「お、おりゃぁぁああ!」



 私は御子柴さんの腰をガシッと掴んで、後ろから全力で引きはがした。そのままぽいっと、彼女を横に投げてしまう。



「はぁ……っ。はぁ……っ。投げちゃった……」



 とっさのことで、自分でもちょっとびっくりした。これが鍛冶場の馬鹿力……? いや、私は見た目より、ちょっとだけ腕力が強めかも……。



――ほんと、ちょっとだけね。だって私、バトミントン部なんだもん。



 まだ暴れてる御子柴さんに馬乗りになって、必死になって押さえつけた。


 顔をあげたら、璃人が頭から血を流しながら尻餅をついて、目をパチパチさせている。まわりの人たちもぽかーんとして……。


 ほんとにめちゃくちゃ恥ずかしいけど、いまはそんなことも言ってられない!



「だれか! 先生呼んできて! 早く!」



 私が叫ぶと、人だかりのなかから何人かの生徒が、ハッとした顔で走り出していった。


 御子柴さんは私に押さえつけられたまま、すごい声で叫びながら暴れている。


 ほんとに怖すぎだけど、手を緩めたらまた璃人に飛びかかりそうで、いまは絶対離せない。



「遠野、ありがとう。あとは俺たちで抑える」


「あ、うん。お願いします」



『だれか助けて!』って思ってたら、いつの間にか鏑木君と二ノ宮さんが来て、やっと交代してくれた。



「御子柴、しっかりしろ!」


「みこちゃん! 戻ってきて!」



 二人に御子柴さんを任せて立ちあがったら、全身が汗びっしょりになっていた。動いたからなのか、冷や汗なのか、自分でもよくわからない。


 御子柴さんを押さえる二ノ宮さんの目から、ポタポタと涙が落ちている。



――璃人のケガ、なんとかしなきゃ……。



 そう思ってるのに、心が遠くへいってしまって、足がなかなか動かなかった。


 そのとき、突然まわりの人だかりが割れて、その向こうから雨宮詩音さんが現れた。


 彼女は一歩、また一歩と足を進めながら、詩織さんの詩を朗々と読みあげはじめた。



「七月三日


華やかに広がる香りのように、美しい花々の囁きは、実しやかに広まった。


花の影に声はなく、花の影には香りもない。落ちた毒の一雫が、土を黒く染めていく」



 だれもが動けずに、青ざめたまま立ち尽くしている。静まり返った長い廊下に、彼女の声だけが響いていた。


 その口元には、少しぞっとするような、不敵な笑みが浮かんでいて……。


 みんな恐怖に身体をこわばらせて、泣きながら震えていたり、必死に耳を塞いだりしている。


 なにかを伝えようとしているようで、あまりに抽象的なその詩は、詩織さんの死後に行われた調査でも、いじめの証拠とは認められなかった。


 詩音さんはそれが、どうしても納得いかなかったんだと思う。


 お姉さんがこんな詩を書いていたら、いじめを疑うのも当然だよね……。


 だけどこんな状況で、その詩を読みあげてしまうなんて。これじゃぁまるで、自分が御子柴さんを呪っていると、認めてしまっているみたいだ。


 私は、御子柴さんに近づこうとする、詩音さんの前に立ち塞がった。



「雨宮さん、こんなときに、詩の朗読はおかしいよ!」



 絞り出した声が震えている。私の声に続くように、二ノ宮さんも声を張りあげた。



「そうだよ! ひどいよ! いじめた証拠もないのに呪うなんて! いますぐみこちゃんを元に戻して!」



 二ノ宮さんは完全に、これを詩音さんの呪いだと思ってるみたい。御子柴さんの足を押さえながら、詩音さんをギロッと睨みつけた。


 いつもの不思議な発言も、ふわふわした雰囲気も、いまはまったく見えなかった。


 鏑木君も黙って唇を噛みながら、御子柴さんの両手を押さえている。


 こんな緊迫した状況で、それでもうっすら笑っている詩音さんは、どうしても不気味に思えてしまった。



「先生、こっちです!」


「御子柴! 大丈夫か!?」



 混乱した空気のなか、先生たちが担架を抱えて走ってきた。


 鏑木君と先生たちが息を合わせて、御子柴さんを担架に乗せる。


 先生たちはロープを取り出して、暴れないようにしっかり固定した。


 前にも同じことがあったせいか、しっかり準備されてたみたい。


 担架が動き出すと、二ノ宮さんが泣きながら、そのあとを追いかけていった。


 その姿を見送って、私は璃人のところに駆け寄った。璃人は血まみれで廊下に座り込んでいる。



「大丈夫? やだ、すごいおでこ切れてる……」


「あぁ……。陽葵こそ、大丈夫か?」


「う、うん。私、バトミントン部だから……」


「陽葵は、いざとなると強いよな」



 璃人が「ふふっ」と笑いながら立ちあがった。だけど、かっこいい顔は血まみれだし、御子柴さんに掴まれたシャツはぐしゃぐしゃで……。



「璃人も、保健室に行かなきゃ」


「いや、いいよ。いま行っても御子柴がいるし、先生も手が回らないだろ」


「でも、血がすごいよ。ちゃんと手当しなきゃ」



 嫌がる璃人をひっぱって、私は保健室に向かった。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 急にホラー感が増してきましたが、お楽しみいただけたでしょうか? これのどこが体調不良やねんですよね(^-^; そして陽葵ちゃん、意外と力持ちのようです(*´∇`*)


 次回、第十一話 保健室の異変をお楽しみに!



【今回の要点(怖くて読めない人用)】

陽葵と璃人が移動中、西校舎で倒れている女子生徒・御子柴さんを発見。異常な様子に周囲は騒然。

御子柴さんはまるで呪われたような状態で暴れ出し、璃人が負傷。

陽葵が御子柴さんを押さえつけ、鏑木と二ノ宮が協力。雨宮詩音が不気味な詩を朗読し、呪いの疑惑が浮上。

先生たちが担架で御子柴さんを搬送。陽葵は璃人の手当てのため保健室へ向かう。



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ホラーらしい展開になりつつ、バトミントン部アピールで笑ってしまいました! そこ、どんだけ自信持ってるのよ、って笑 まだコミカルな部分もありながら、どんどんホラーになっていくのでしょうか。期待しながら…
倒れていた御子柴さん。 誰も怖がって近づかない中陽葵ちゃんは駆け寄る。 すると突然暴れ出す御子柴さん。 それにより怪我をする璃人。 まずは怪力陽葵ちゃん、璃人を連行しましょうw 続きも楽しみです!(*…
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