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2-2

「一次試験はペーパーテストです。皆様、お席へどうぞ」

「ぺ、ペーパーテスト……?」

「イエスです、黒木様。クロキシは高度な技術の結晶。使用者には十分な知的素養が求められます」


 セバスに促され、夜人は席に着いた。


 問題は一般常識から数学、英語、現代文などなど、解くだけで半日はかかりそうな量があった。


 セバスの開始の合図とともに、屈強な男たちが一斉に問題を解き始める。


 夜人も続いた。


(なんだこれムッズ!)


 高校では優秀な成績の夜人でさえ、ルチアの問題はとてもつもなく難しかった。


 すべて解き終わるのに三時間もかかり、肩で息をするほど疲れた。


「次は体力テストでございます!」


 セバスが手を打ち鳴らすと、隣の部屋からメイドたちがあらわれバーベルや鉄棒など、様々な器具を設置した。


 体力テストなら勝ち目はあると夜人は思い、男たちを見ると、赤いベレー帽の男レオナルドが耳から外したなにかを口に入れるところを見た。


(まさか……)


 夜人の視線に気づいたレオナルドが人指し指を口元に当てた。


 カンニングだ。夜人はすぐに気づいた。だが証拠はすでにレオナルドの腹の中。いまさら指摘したところで証拠はない。


 夜人はどこか納得できない気持ちで体力テストに臨んだ。


 結果は散々だった。


 ナイフ男、ジョルノの身体能力がやばすぎた。


 バーベルでは二百キロ近くを持ち上げ、百メートル走ではまさかの九秒ジャスト。オリンピック選手並みだ。むしろオリンピックにでろよと夜人は心の中で叫んだ。


「三つめは射撃テストです!」


 セバスが手を打ち鳴らすと再びメイドたちが出てきて、体力測定に使った器具を片づけた。


 さらに今度は部屋の壁がせりあがり、その次の部屋の壁もせりあがり、そのまた向こうの壁もせりあがった。


 正方形だった部屋が縦長に変形し、最奥部には人型の的が四つ並んでいる。


 メイドたちから銃を渡され、夜人は迷わずチャンバーを引いた。


 中学時代、両親にグアムに連れられていったときに銃の扱いはマスターした。


 久しぶりなので当時のように扱えるかはわからないが、当時は射撃スクールの大会で優勝するくらいの腕前にはなっていた。


 きっと大丈夫。夜人は自分にそう言い聞かせた。


 レオナルドとジョルノがそれぞれ射撃し、的に当てた。


 夜人の番になり、床に寝そべって射撃体勢になる。


 赤い円で囲まれている心臓部分に狙いを定め、一発一発慎重に三発撃った。


 そのすべてが円の中に命中し、夜人はガッツポーズをした。


「っし!」


 続いてロシアのスナイパーであるウラジーミルの射撃が始まった。


 彼は撃つ瞬間に呼吸を止めて、三発連続で発射した。


 双眼鏡で見ると、的に開いた穴は一つだけ。


(勝った!)


 夜人が再び心の中でガッツポーズをすると、セバスが「最大得点者はウラジーミル様でございますね」といって耳を疑った。


「ちょっとまてよセバス。確かにど真ん中だけど一発しかあたってないだろ? ほら、穴だって一つだけだし」

「いいえ違います黒木様。ウラジーミル様は、同じ場所に三発連続で撃ち込んだので穴が一つしかないのでございます」

「……マジで?」

「マジでございます」


 夜人は口元をひくつかせた。


 このままじゃ、不味いかもしれない。


「四種目目は実技戦闘テストでございます!」


 部屋が再び狭くなり、部屋の中央に四角形のリングができるようにタイルの色が赤色に変わった。


 ここでいいところを見せなければ負ける。


 夜人は心の中で自分を奮い立たせていた。


 入念に柔軟していると、肩を叩かれた。


「よぉ、ボーイ。ずいぶんとやる気満々じゃないか」


 振り返ると、レオナルドが葉巻をふかしていた。


「あんた……」

「おいおいおい、さっきのはずるじゃない、戦略さ」

「戦略……?」

「これは公務員試験じゃないんだぜボーイ? 現にあのナイフ使いはドーピングしてるし、ロシア人は至急品ではなく自前の特注ライフルで射撃した。準備が許されているんだよこの試験は。みんな勝つためにベストを尽くしてる」


 レオナルドは、リストバンドの裏側に書かれた文字を見せてきた。


 軍人らしく、どこまでも徹底している。


「フェアじゃない……なんていうつもりはないさ」

「ひゅー、見た目はボーイだが中身はナイスガイだな」

「あんたたちはなんでそこまでしてクロキシが欲しいんだ? 英雄になりたいのか?」

「オーノー、残念だ。やはり君はキッズだボーイ。俺たちは英雄なんかに興味はない。興味があるのはクロキシとかいう最新兵器についてだ。俺たちはその技術を国へ持って帰るつもりでいるのさ」

「は? そんなことしたらだれが魔物と戦うんだよ」

「そんなのどうでもいい。アメリカからすれば日本がどうなろうと知ったこっちゃない。フランスもロシアもそう思っているだろうさ」

「……それじゃ、雪乃はどうなるんだよ」

「ワッツ? なにかいったかなボーイ?」


 夜人は何も答えずリングに進んだ。


 こいつらにクロキシを渡すわけにはいかない。


 雪野を守るには、自分がクロキシになるしかないのだと夜人は認識した。


「かかってこい雑魚ども! まとめて相手してやるよ!」


 夜人は制服の上着を投げ捨てた。


「黒木様、テストは一対一でーーーー」

「どうせ全員倒すんだから一緒だ! こいつらには絶対にクロキシを渡さない!」

「しかし……」

「やらせろ。おい黒木。貴様の成績は現時点では最下位だ。だがもしも三人同時に相手をして勝てたら、特別に貴様を所有者として認めよう。さあ、踊って見せろ!」


 ルチアが言い放つと、男たちの目の色が変わった。


 ここまでは単なるテスト。だがここからは実戦だ。


 勝負の世界に生きる男たちがいままさに夜人に迫ってくる。 


「ヒャアアアアアアアアアアア!」


 最初に襲い掛かってきたのはナイフ使いのジョルノだった。


 夜人はナイフの軌道を読んで躱し、鳩尾に掌底を叩きこむ。


 ジョルノはぐるりと白目を向いて沈んだ。


 次に襲ってきたのはウラジーミルだ。彼はライフルを構えていた。夜人はジョルノのナイフを拾って投げた。回転しながら宙を進むナイフはウラジーミルの左肩に突き刺さり、彼が発砲した銃弾は夜人の頬をかすめた。


「降参だ。これ以上は本職に支障をきたす」


 ウラジーミルが両手を上げて敗北を宣言すると、最後にレオナルドが正面に立ちふさがった。


「すごいじゃないかボーイ! だが俺には勝てんぜ。これでもレスリング世界大会に出場した経験があるんでな!」


 レオナルドが地を這うよなタックルをかましてきた。


 夜人の腰に全体重を乗せたタックルが突き刺さるが、夜人は右足を一歩前に踏み出し耐えた。


「ワッツ!?」

「一昨日きやがれド三流がぁ!」 


 夜人の拳がレオナルドの側頭部を貫き、一撃で意識を奪った。


 リングの上で立っているのは夜人一人だ。


「そ、そこまで! 勝者、黒木夜人様!」 


 セバスの合図によって、メイドたちがぞろぞろと出てきて、戦闘不能になった兵士たちを別室へとつれていった。


 夜人が脱ぎ捨てた制服を着なおしていると、ルチアが近づいてきた。


「やるじゃないか、黒木」

「やらざるをえなかったんだよ」


 夜人が口を尖らせていうと、ルチアが噴き出した。


「ぷっ……あっはっはっは! そうか! そうだな! 悪かった!」


 目に涙を溜めて笑うルチアを見て、夜人は呆気にとられた。


 笑うと普通に可愛い……なんて考えが頭をよぎったが、すぐに顔を振って考えを追い出した。


「おいルチア! 約束だぞ! これで俺はーーーー」


 ルチアが指を鳴らし、夜人は言葉をつぐんだ。


「ああ、黒木夜人。今日から貴様が人工聖剣クロキシの所有者だ。おい、セバス」

「イエスです、お嬢様。ついてきてくださいませ、黒木様」


 セバスはエレベーターに向かっていき、夜人とルチアも後ろに続いた。


 エレベーターはさらに下へと降りていく。


「なぁ、さっきの三人なんだけど……」

「裏切るつもりだったのだろう?」

「知ってたのか!?」

「当たり前だ。最悪、他の国にこの技術が奪われるのならそれでいいと思っていたからな」

「ルチアは、この国が嫌いなのか?」

「嫌いだ……私の何もかもを踏みにじったこの国を、私は許せん……」


 拳を握りしめたルチアの横顔は、獰猛な野獣のようだった。


「先ほどの三名の処遇について心配されているのであればお答えします。彼らは記憶を処理したのちに本国へ強制送還される予定でございます」

「き、記憶処理……」

「どのみち我々に従わなければ処理されていたので、ご安心を」


 セバスがそういって、夜人は身震いした。


 記憶処理ってなんだろう……。そもそも安心する要素がどこにあるのかもわからない。


 エレベーターが止まり、外に出ると、そこは巨大な倉庫になっていた。


 色気のないコンクリートで固められた部屋の中、黒い艶のある車やバイクが置かれており、壁には様々な銃器がかけられている。


 どれもどこか近未来的なデザインだ。


 それらの中央に、一際目を引くものがあった。 


 腰ほどの高さがあるガラスケース。その中に黒いドックタグが飾られている。


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