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不吉なる密会、ランデヴーの夜

・ ・ ・ ・ ・



「……ほんとに効果なんて、あるの~? こんな薄切り、ぺらぺらなのに」



 初老男性はその薄暗いへやの中で、少々派手とも言える声を大きくあげた。



「あるんだよ、それが。小さじ一杯ぐらいを煎じて飲めば……、ほんっとすぐに! 異世界行けちゃうから」


「でもこれだけだと、ちっと生臭いよ。薄荷はっか美女桜ばーべななんかとあわせると、飲みやすくなるよ」



 トロモーンを北に行った、近郊の小集落。どこにでもあるような民家の一室、地上階の台所にて、卓子を囲んだ男たちが話し合っている。その卓子の上には、何やら黒っぽいかさかさ・・・・のつまった小さな素焼き壺が四つ、蜜蝋みつろうあかりににぶく照らされていた。



「で、ひと壺おいくらでしたっけ?」



 初老の男、……上質麻衣の首元に空色の布を巻いたおしゃれな紳士は、さほど興味もないと言う風にたずねる。



「ひとつ五十ですよ」



 卓子の反対側に立つ二人の中年男は、どちらもつるりとひげを剃って清潔な綿の短衣と、小ぎれいな格好をしている。にこやかで態度が良いところだけ見れば、単なる小売りの店員のようだ。しかし二人の双眸は、どちらも濁ってどんよりしていた。



「薬種商でも買えるにゃ買えるがね。医者の処方箋があったとしても、それこそ小さじに半分しかもらえないよ。ぶっ飛ぶにゃあ、燃料不足だわなー」


「これだけの量をまとめて買えるのは、レイフェリー郡じゃうちだけだよ!」



 初老男性は二人の笑顔を見つめて、ちょっと肩をすくめた。


 きのこ販売自体は、違法ではない。しかし取り扱う量が、こう限度を超えているとは……! ともすれば、がたがたと震えそうになるのをどうにか気合で押しとどめて、おしゃれ老紳士は何気ない風で男たちに話し続ける。



「そうなの? 商売がたきは、いないの」


「いませんやね。森に採りに行くんでなし、栽培から精製までやっているのは、デリアドじゅうでも俺らだけだと思うよ」


「へえー!」


「そのうち軌道に乗って来たら、どこかの森をまるっと買い取って、本式に農場と工場こうばをやりたいところなんだ」


「ほうー、さよですか。……でも残念ながらねぇ、そういう方々に森林所有の市町許可は出せませんねぇ」



 言いつつ、おしゃれ老紳士は後ずさりをした。すすす……。


 へやの隅にぴたりと貼りついてしゃがみこむと、椅子の上に敷いてあった小ざぶとんを頭にあてる。売り手二人が、紳士の挙動不審についと首をかしげた、その時。



「おうッ、おいーッッ」



 家の奥からがなる・・・声がする。売り手二人は、はっとしてそちらを見た。


 ばん!! 乱暴に戸口が開く。



さつ・・のがさ入れだ! 逃げろ、おまいらッ」


「何だとぉ、囲まれたんか!?」


「いや、三人だけだけど……」


「じゃあ、眠らせちまえよ!? さべたけの精油あんだろうがッ」


「そ、それが!」



 かくん!


 がなり立てて入ってきた若い男は、一瞬のけぞるように上を向いて、そのままふわりとくずおれた。


 倒れた男の背後にいたのは、上背のある女……! ファイーが極細の木剣をすらりと水平に伸ばして、男のうなじを正確に突いたのだった。


 女性文官の騎士作業衣、黄土色に反応して売り手二人は即座に両手を首にやる。そこに巻いていた覆面布を、ぐっと目元まで引き上げた。背後の調理台の上にあった素焼きのかめに手を突込み、布手袋を出して素早くはめると、勢いよくファイーに向かってきた!


 ファイーはひょいっと脇後方へ身をかわす。代わって二人の前に割入ってきたのは、続いて戸口から入ってきたかさましの影……ローディアである!



「ここも、せまい~」



 ほとんど衝突寸前だった男の一人の一撃を、すばやく半身を入れてかわす。その動きがあまりに速すぎる! もじゃもじゃと目に焼きついた毛深い残像に、男は一瞬あっけにとられた。その男の足に、側近騎士はすいっと外側からすくい・・・をかける。



「気をつけてローディア侯! 彼の手には、」



 ファイーがびしりと言いかけるのと、同時であった。脚をすくわれ宙に浮いた男はその瞬間、右手でかるーくローディアの顔下半分をかすめたのである!


 ふ・わーん!! べしゃッ!


 男と一緒に、ローディアはもしゃもしゃと床にくずおれた。



「さべたけ精油が――って、ああ遅かったか」



 壁際に貼りついていた最後の一人が、静かにファイーに向かって手を伸ばしかけた。迫りくるその手にはやはり、不吉なるきのこ精油をしみ込ませた手袋がはめられている――!!




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