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バンクラーナとプローメル

 

・ ・ ・ ・ ・



「これは少々、まずいんでないのか。バンクラーナ」


「少々どころか、だいぶんやばいよ。プローメル」



 ドラムベーグ村と列石群アリニュマンのあるデリアド西域レイフェリー郡、西域第七分団の管轄地域よりはるかに北東。


 デリアドの隣、山国フィングラス領の町・ケレープからさらに東寄りに入ったところにある名もない集落にて、二人のカヘル直属部下は困惑していた。


 カヘルの命を受けて軍馬を走らせ、予定通りに北域第一分団を中継。山間路経由で国境を越え、フィングラス入りした二人は、まっすぐにケレープ町役場へと向かった。そこでヤンフィールの死亡届複写を見せて、娘と名のる≪ヤフィル≫の戸籍詳細を調べてもらったのである。


 結果、身分証の通し番号に一致する同名の女性が存在していると知れた。少なくとも、フィングラス発行の身分証は本物だった、と言うことだ。次いでヤフィルの在所を教えてもらったはいいが、軍馬の手綱たづなを引き引き谷沿いの細道を越えてみれば、戸籍に記載されていた小集落はどこにも見当たらない。


 あったのは、森の間にごく小さくひらけた空き地。しゃれこうべ・・・・・・や骨のように柱や残骸をさらしている、三軒のもと・・家屋だった。



「……焼かれたんじゃないのか。これは?」


「だろうね。山火事なんかじゃない、明らかに燃やすつもりで家を焼いたんだ」



 黒焦げた柱の周りに、やはりまっ黒にすすけた壁石が崩れている。三軒の家はどれも小さなものだったようだが、炎に破壊しつくされ、今やごみのよせ集めにしか見えない。



「焼かれたのは、そんなに昔のことじゃなさそうだ。せいぜい二、三週間前というところかな?」



 プローメルとバンクラーナは、顔をしかめて焼け跡を見て回る。火事のあったことが知れていたなら、ケレープの町役場で職員が言及したはずである。ここは森と谷の間、周囲に他の集落や郷はないらしいから、誰も燃えたことに気づかなかったのだろうか。



「デリアドと違って、地域管理がずさんらしいな」


「うん。この調子だと身分証を発行するときにも、ほとんど背景なんか確認してなさそうだね」


「にしても、徹底した焼け方だな? 住民は逃げたのか……」



 プローメルは振り返り、自分たちがたどってきた小道のほうを見やった。ごく細い水流が、さほど遠くないところにある。消火の努力はできたはずだ。



「意図的に、焼いたのだろうね」



 木ぎれを拾い、黒こげの床部分をほじくり返していたバンクラーナが言った。



「家財道具の一切合切いっさいがっさい、灰くずになるまで燃やし続けたんだな。これじゃあ隠したいものがありました、と声を大にして言ってるようなもんだぜ……おっ!」



 しゃがみ込んで俄然がぜんと何かを掘り出し始めたバンクラーナに、プローメルは歩み寄る。



「何ぞ見つけたか?」


「ああ。たぶんこの辺は台所の流しだったはず……。女がへそくり隠すのによく使うとこだ、ヤフィルが埋めてったんだな。でもってヤフィル本人が留守の間に、他の男たちが来て家を焼いたんだ。証拠隠滅のためかな」


「? 本人が留守って?」



 プローメルも焼けぼっくいだった木ぎれを拾って、バンクラーナの掘る先をつつき出す。



「ヤフィル自身が家を焼いたんなら、その前にお宝は回収するだろうさ。その辺までよく知らされていなかった、仲間うちのしわざだよ」


「お宝って……」


「見ろ、プローメル! この壺ッ。お宝でなくて、何なんだ」



 がしっ、むりむりむり!


 灰の下から現れた、小鍋ほどの大きさの黒い壺ふちを両手でつかむと、バンクラーナは力を込めてそれを地中から引き抜いた。



「ようしッッ!」


「……梅のつけものでないのか?」


「にしちゃあ軽いッ。お、何だ? ふたの隙間に蜜蝋みつろう塗の封印が! 用意周到だ、これは期待できるぞぉっ」



 バンクラーナが嬉々として小刀を取り出し、陶器の壺のふたにかかった封印を取り始めた瞬間。


 かかかかか……がが、かかかかかー!!


 ふと、耳ざわりな何かの鳴き声を聞いて、プローメルは周囲を見渡す。壺の中身に全神経を集中させているバンクラーナには、聞こえていないらしい。



「むッッ! 中身はやはり書類、……え?? これは……」



 ふっ…… 二人の周囲に陰が落ちる。


 プローメルはとっさに立ち上がり、自分たちの頭上に広がったものを振り仰いだ。



「!!」



 それら・・・はプローメル目指して、急降下してきた。


 ずば、ばんっ!


 プローメルは、即座に腰の中剣を引き抜いてはじく。しかし次から次へと、後続が勢いよく飛びかかってくる。それらは……鳥だった!



「ぎゃっ、何だこりゃあッッ!?」



 バンクラーナは壺を左手に抱え、右手に片刃刀を抜いて、後ずさりをしながら鳥どもを弾いていく。しかし滝のように流れ来る無数の鳥たちは、その刃をすり抜けてバンクラーナの左腕に突撃してくる!



「あっ、うわぁっっっ」



 思わずバンクラーナが取り落とした拍子に、壺は地に落ちて砕けた。途端そこに、喧騒を巻き起こすはばたきが群れ集まって、まるで蜜蜂の球のようになる。



「さがれ、バンクラーナ!」



 十歩ほど後退したところから、二人は信じられない思いで鳥たちの行いを見ていた。



「見ろ、皮紙の破片が飛び散っている!」


「あいつら、壺の中身を食いちぎってんのか?」



 ぶわぁぁぁっ!


 その鳥たち……白黒のいりまじる羽毛、やたら大きなかささぎ達が一斉に飛び立った後、焼け跡の地べたに残っていたのは砕けた陶器壺のかけらだけだった。その中にしまってあったはずの皮紙は、すべて微塵みじんになったらしい。



「とんでもないものを見てしまったぞ? 鳥に宝の番をさせるとは、いったい何の魔術だ。いや、理術か……?」



 茫然としつつも渋さを失わず、プローメルはうめいた。



「いや、理術は人力だろ? 動物を使役するなんて、どっちか言ったら精霊使いのしわざなんじゃないかい!」


「面白そうに言ってる場合か、バンクラーナ。せっかくの手がかりが、ふいになってしまったんだぞ」



 目にした鳥たちはおぞましかった。しかしこれから手ぶらでデリアドに帰り、カヘルに冷やっこく叱られるのがさらに恐ろしい、とプローメルは思う。



「心配するな、プローメル。中に入ってた重要書類は、ぜんぶ読んださ!」


「……」


「ヤフィルという女は、相当のくわせ者らしいな! どんなからくりを使ったんだか知らないが。けど、いったん俺の頭に入った記憶までは、簡単には消せないぞ」



 切れ長の双眸をさらに細め、余裕しゃくしゃくで言う。バンクラーナはプローメルに、にやりと笑ってみせた。



「いい仕事してるだろ、俺!」


「それは鑑定の対象物に言えよ」




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