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副団長いんげんお代わり何杯目?

 

・ ・ ・ ・ ・



 ドラムベーグの小さな村は、列石群アリニュマンの事件現場から東寄りへ一愛里のところにあった。


 デリアド市庁舎・地勢課の調査団は、宿場町のトロモーンに滞在しているとばかりカヘルは思い込んでいたのである。そうではないと、公用馬で先行するファイーに耳慣れぬ行き先を言われ、副騎士団長は小首をかしげた。



「確かにトロモーンは首邑デリアドへ通じる準街道上にあり、便利なのですが。ここドラムベーグは、主要調査対象だった≪はじめの町≫の目と鼻の先にあるのです。毎日の時間を有利に調査に使えるぶん、断然効率的でした」



 ふるい農家を改修したらしい村唯一の宿屋は、広々としたつくりで外光もよく入る。ファイーが言った通りに女将さんが捜査要員の食事の世話を引き受けてくれていて、カヘル一行もすんなりと受け入れられた。


 天井の高い食堂には地元客にまじり、チャスタスが連れてきたと見られる西域第七分団巡回騎士らの姿も多い。彼らに極力気を遣わせないよう、カヘル達は隅の角席を囲んだ。



「はい、お水ー。おかわりどんどんしてくださいよ、いっぱいありますんでねー。お野菜とかねー」



 気のさそうな女将さんが、ぽんぽんと声をかけてきた。もう二週間来ここに滞在している女性文官のファイーとすっかりなじみになっているから、多少ほかの黄土色が周りに増えても全然気にならないらしい。


 すかさずいんげん牛酪ばた炒めの大盛りおかわりを頼んできたのが、今をときめくデリアド副騎士団長のキリアン・ナ・カヘルとその毛深き側近だとは、女将さんはこれっぽっちもわかっていなかった。



「ファイー侯。≪はじめの町≫と列石群アリニュマンの調査は、いかがでしたか」



 香草のきいた地鶏の肉団子を飲み込んで、カヘルは右脇の女性文官にさりげなく問うた。



「そちらに関しては、とどこおりなく終了しました」



 大きく首を縦に振り、ぴしッとファイーは答えた。一般的な女性の応答と比べればそっけない調子だが、これがこの人の普通である。今はそこに加えて、軽い満足感が入っているのをカヘルは見てとっていた。



「ただ、良いのと悪いのと、双方の発見がありまして」



 この時ばかりは遠慮なく、カヘルはファイーの顔をじっと見てうなづく。



「≪はじめの町≫の風化が激しいのです。今年の夏の初めに雨が続いたせいで、だいぶ基盤のところが洗われてしまいました。農閑期に入ったら地元の皆さんが埋め戻して下さるのですが、また来春確認に来ようと思います」


「そうですか。……良い発見と言うのは?」


「≪はじめの町≫の北東にある丘が、実は人工物なのだとわかりました」


「えっ、人工の丘ですか?」



 静かに聞いているだけのつもりだったが、思わずローディアは驚いて声を上げてしまう。しまった、隣の副団長から微妙な冷気が流れ込んでくる……。



「そうなんですよ、ローディア侯。本官も知った時は仰天しました」



 しかしファイーは屈託なく、カヘルとローディア両者にむけて話し出した。


 ≪はじめの町≫は、現デリアド領の西端部分にある。はるか西方の文明発祥地ティルムンから広大な≪白き沙漠≫を渡り、森深く茂る山の連なりを越えてきた始祖らが、このイリーの地に到達して最初に作った町だとされていた。


 しかし長くは利用されず、わずかな石造建物の基盤が残るのみの廃墟となって久しい。


 それでも植民による都市国家群建設のいしずえなのであり、イリー文化の黎明を象徴する大切な遺跡であることは変わらない。


 デリアド宮廷は歴史的遺産とみなしている……が、扱い方は微妙だった。今のところ、監視と保全に努めているだけである。


 ファイーの属する市庁舎地勢課が毎年定期保全調査を行っているが、それ以上のことはなかった。


 カヘルもローディアも、一応訪れたことはある。十一歳かそこいらの時、騎士修練校の遠征演習ことお泊り騎馬遠足で連れて行かれた。


 なだらかな湾の見通せる高台に、白っぽい石床や柱の名残がこびりついているだけの、何もない草っ原。荒涼たる風景の記憶しかない。ファイーの言う丘とは、はて……。



「丘が人工物と知れたのは、実はそれも長雨のおかげなのです。地元の人々が≪石ころ丘≫と呼んでいる小さな丘の表面が、少しゆるんで流れました。石を組んだ戸口のようなものが露出したので、遺跡だとわかったのです」


「その丘も、≪はじめの町≫に住んだ植民第一世代の人々が作ったのでしょうか?」



 戸口・・、と言うからには家のようなものが続いている、と想像してカヘルは問う。しかしその瞬間、女性文官の双眸がびかびかっと青くきらめいた。



「今の時点では、まだ何とも。帰庁して資料に照合させないことには、はっきりしたことは申せません」



 やや一方的に言い切るような形だったが、ファイーの目元にはかすかに笑いじわのようなものが寄っていた。エルメン村の巨立石メンヒルの前で、そしてファイタ・モーン沼の環状列石クロムレクのほとりで見せた楽しげな雰囲気をまとっている。女性文官の青い瞳が、カヘルに伝えていた……≪乞うご期待≫。


 謎かけのようなその視線に、カヘルは満足感をおぼえる。つまり彼女は、自分だけ・・と共有したい何かを見つけたのだ! ならばファイーが自ら伝えてくるのを、ゆったり余裕で待とうではないか。


 さわやかなることこの上ない、生のりんごはっか葉の香湯こうゆを口に含んで、キリアン・ナ・カヘルは生あたたかくファイーにうなづく。



「実に興味深いですね」



――そうだ、非常に興味深いッ! 副団長と地図ねえちゃん、二人の仲の感触はどうだ!? バンクラーナ!


――まだまだわからんよ、プローメル! いい感じにも見えるが、どっちも規格外なところばっかりだからな!


――遺跡とかどうでもいいから、さっさと仲良くくっついてくれないもんかなぁ~!!



 やはり生ぬる顔で湯のみをすすりつつ、カヘル直属部下の三名は胸のうちで言いたい放題、一部で目線会話を行っている。


 一応これでも、我らが副騎士団長どのを彼らは応援しているつもりだった。










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