2041年10月28日 プロローグ
2041年10月28日 日本時間17:42
あの時はがむしゃらに走っていたのを覚えている。
息は途切れ、服は破れ、あちこちから聞こえてくる発破音にも似た大きな音が鳴るたびに後ろを走る、唯一の家族である人物の無事を確認していた。
その時は、俺たちの生活圏であるこの街に反社会的武装勢力がテロ行為を行っており、俺達は買い物途中にその侵攻に巻き込まれてしまった。
俺が誘った買い物に付き合ってくれたアイツの手を引き走り続ける。
「こっちだ!」
町商店街の十字路に差し掛かり、精肉店の看板を押しのけ右に曲がった時だった
前方の大通りに8m程になるフレーム・ギア(自立装甲機)が現れる。
フレーム・ギアは本来、エンターテイメント用に造られていた二足歩行の有人機で、時流に沿ってどこかの誰かが兵器として運用することにした逆スピンオフの技術であり
かつて日本で人気のあった二足歩行ロボット同士の戦争を現実世界にエンタメとして再現しそれが実際の戦争に運用されるという
皮肉の効いたものであると今となっては考える。
さらにはそれが実際に日本の一都市で攻撃を仕掛けている。
黒鉄の所々が錆びたような装甲の機体を見上げ、
目視から数秒の間に思考する。
その時点では日本政府に雇われた日本在籍の傭兵部隊が展開しており、両者入り混じっている現状を町内放送で把握はしていが
目の前のそれがどちらかは、わからなかった。
ー保護を求めるかー
ー逃げるかー
この二つの選択肢に揺れ動いている時、
突如、大通り右側から別のフレームギアが飛び出してきたと思えば
右腕に装着し一体となっている刃物のようなもので黒鉄のフレームギアを突き刺し
刺したまま左腕で頭部を押し出し地面にたたき倒す。
あまりに突然の出来事に、俺は硬直してしまった
後ろを走っていたアイツの手を握ったままフレームギアを見つめ続ける。
すると黒鉄のフレームギアを破壊した奴がこちらを見つめかえす。
目が合ったような気がした。
唯のカメラでしかないフレームギア頭部のはずだが
その頭部の2本のラインの中にあるカメラがこちらを見ているように感じた。
ーー見られている
そう感じた
「2本目の……」
この時の印象が余りにも強く記憶にのこっているから、
この出来事があったからこそ
その後アイツがああなってしまった時に決断することができた。
「……フレームギア」
ーーアイツがまた笑顔で歩いて、走れるように
ーー俺は……
フレームギア乗の傭兵になる事を決めた。