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06 魔法

 トーリたちが予選を終えた時刻は未だ早朝といっても問題ないものであった。


 しかし、予選とはいえ祭のメインイベント。街には大勢とは言わないが、そこそこの活気がある状態だ。恐らく、あと2時間もすれば、辺りは人でいっぱいになるのだろう。


「へぇ、こんな時間なのに結構人が多いねぇ」


「そうですねー。私もこの時間は初めてです」


「ねぇ、オススメの場所ってあったりするの?」


「そうですね。やはり盛り上がるようなものはもう少し後にならないと始まらないですね。それでも楽しめるものは有りますけど、その前に行きたいところがあるんですが、良いですか?」


 そう言ってサーヤちゃんが向かったのは、街の外れにある人気のない草むら。


「あれ、ここって……」


「はい、私とトーリさんが初めて出会った場所です」





 あれは、終戦からそう時間が経っていない頃だった。


 食糧などを買いだめしようと街に降りてみたら、その日にちょうど武闘大会が開催されると聞き、興味本位で本選を観に行く途中のこと。


 街には活気が溢れ、露店や即席の賭け試合など皆が平和をかみしめていた。


 ――そんな時、どこからか声が聞こえた。


 辺りに溢れている声とは違う、それは悲鳴に聞こえた。


 周りの人は気にも留めていない。ならばそれは俺の気のせいであろう。しかし、足は自然と街の喧騒と離れた方へと向かって行ったのだ。





 大通りからすこし離れると、今までの喧騒が嘘のように静かになった。そしてもう一度、今度ははっきりと悲鳴が聞こえた。


 声がした方を見ると、そこには1人の少女が剣を腰に下げた2人の男に草むらへと連れ去られていくところだった。


 男達の卑下た顔を見れば、何が目的かは容易に想像がついた。周りに人気はなく、大通りに戻り、助けを求める時間もない。


 俺の手元に武器はない。もしあったとしても、正面から2人を相手にする自信も技量もあの頃の俺にはなかった。


 ならば、俺に残された方法は1つ、魔法だ。


 しかし、1人ならともかく2人は厳しい。強い魔法では事前に気づかれてしまうし、少女までもを巻き込みかねない。しかし、弱ければ不意を突いたところで1人が限度だろう。だから、2人にそれぞれ魔法を撃ち込み、一気に殲滅する。


 時間はない。俺は眼帯に手をかけた。





 ボヒュン! その音と共に1人の頭には氷塊が、もう1人の頭には炎弾が撃ち込まれた。


 氷塊の方は当たり所が良かったのだろう、1撃で気絶してくれた。しかしもう片方は少女への余波を考慮したためか、髪を少し焦がす程度にとどまった。


「誰だ!」


 その声に応えるように、俺は手に炎を纏わせながら男の前に出て行った。


「おい、さっさとそこの男を連れて去れ。そいつが倒れた理由が分からないほど馬鹿じゃないだろう?」


「くそっ、憶えてやがれ!」


 そうして2人は逃げ出した。子供1人相手に逃げ出さざるを得なかった。なぜなら、男にはこちらの人数が2人に見えただろうから。





 少し、魔法について話しておこう。本来、魔法とは戦闘には向いていない。普通は前線に守られつつ、大規模魔法で殲滅。これがセオリーだ。


 これは、熟練の魔法使いなら別だが、通常、魔法が1度に1つしか使えない事に起因する。魔法という形に固定されたのならば平気だが、魔法となる前の不定形の魔力というものは同系統の魔力に引き寄せられる。つまり、魔法を同時に2つ使おうとすると、魔法という形になる前に互いに混ざりあってしまうのだ。


 だから、魔法使いには隙が多い。隙をなくすために、弱い魔法を連射したところで大した威力にもならない。つまり、2種類の魔法が同時に襲ってきた場合、術者は少なくとも2人いるということだ。


 だが、俺には別系統の魔力がある。蒼と紅は水と油のように混ざりあう事はない。つまりはそういう事だ。





「大丈夫?」





「というわけなんです!」


 あの時私にはトーリさんが勇者様に見えました。それが今は本当の勇者様に、あぁやはりこれは運命なのでしょうか! なんてサーヤちゃんが恥ずかしい事を言い始めたので、俺は話題を逸らすことにした。


「じゃあ、次はどこに行こうか?」


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