04 始まりの街
始まりの街、ライオネット。
ここは、人間領を統べる王が住む城、ライオネット城がある街であり、勇者が生まれる街でもある。始まりの街、と呼ばれているのはそのため。
ライオネットという名前は、王家の名前だが、同時に勇者の象徴でもある。
街の中心に建っている像こそが、魔王から人間領を取り戻した、伝説の勇者であり、初代国王のアーサー・ライオネットである。
何かありましたら、『あなたの暮らしに安心を』をモットーに。ライオネット街役場までどうぞ。
そんな看板を素通りして、街に入ろうとしたら門番の人に止められた。
それも当然だろう。空を見上げれば日は既に沈んでいる。夕方ならまだしも、辺りは既に真っ暗だ。
あの後、すれ違う警備兵に見付からないよう移動していたら、こんな時間になってしまったのだ。(素直に事情を説明した方が早かったかもしれない)
といっても、怪しいものじゃないと証明出来ればいいだけなのだが。
「あぁ、お疲れ様です。これでいいですか?」
こんな時、問答無用で役立つのが勇者の証だ。
流石、城下町というだけあるだろう。
街には未だに明るい場所が多い。というよりは、今からが本番の店が多いというべきか。
しかし、今は用がない。今一番必要なのは――――
「あった。ここだ」
宿である。
「いらっしゃいま――――あっ、トーリさん!」
そう言って飛び出して来たのは、髪を2つ左右に束ねた女の子。(多分歳は3〜4くらい下)
「こんばんは、サーヤちゃん。またしばらくお世話になりたいんだけど、大丈夫?」
「大丈夫です。空いてなかったら退かしますし」
「ははは、駄目だよそんな事しちゃ」
「そうですか?残念。じゃあその時は私の家に泊まっていってください。安くしますから」
「じゃあ、そういう時はお願いするよ」
よっしゃ。とガッツポーズをとる女性の目がようやくこちらを向いた。
「えーと、どちら様ですか?」
「カティシアって言って、これから一緒に旅をする事になったんだ。それでこちらがサーヤちゃん。この宿の主で俺の料理のお師匠さん」
トーリの料理スキルの秘密が分かったと同時に、やはり料理が出来ないのはマズイのではないかと少しへこむ。
「師匠だなんて。トーリさん、独学である程度出来てたじゃないですか」
「そんな事ないよ。まだまだだけど、ここまでやって来れたのは、やっぱりサーヤちゃんのおかげだよ」
「そこまで言うなら、素直に受け取っておきます。お部屋は2つで宜しいですか?」
「うん、お願い」
「かしこまりました!」
朝になり、ロビーに集合する。とりあえずは、ギルドに行って手頃なクエストを探す事にしよう。
「おはようございます、トーリさん。カティさん!」
「おはよう、サーヤちゃん!」
…………夜に何かあったのだろうか?何だかとても仲良くなってる気がする。
「そう言えば、旅って何を目的とした旅なの?」
ギルドに行く途中、そんな事を聞かれた。
そう言えば、話していなかったか。
「あー、せっかくだから観光しつつ、生き別れの妹、一応義妹を探す旅。かな?おそらくは魔族領にいると思う」
「名前は?」
「アイ。特徴は俺と逆。右目に眼帯してて、左目が黒。髪は白」
「何、妹まで眼帯してんの?っていうか似てないわね」
「だから言ったろ、義妹だって」
「だから、妹でしょ?……もしかして義妹?」
「義妹」
2人で『いもうと』と連呼していたら、ギルドに着いた。
「何か、賑わってるな」
といっても、クエストを受けるわけでもない。どちらかと言えば見定めているような感じ。
トーリ達が適当な討伐クエを受注しようとカウンターにいくと、
「あれ、兄ちゃん達は祭に出ないのかい?」
「どういう事?」
「なんだ、知らねぇのかい?明日は1年に1度のライオネット独立記念祭だよ」
そんで、こいつらがメインイベントの闘技会に参加する面子。いわゆる事前調査ってやつだよ。などと言われて、この雰囲気の異様さにようやく納得がいった。
「ふーん。面白そうだね。じゃあ、明日はお祭りでも見て回ろうか?」
「おー!」
「じゃあ、このクエストは無しでいいな?」
「……?」
「何で不思議そうな顔をすんだよ。このクエスト、いくら近場とはいえ、相手が相手だ。最低でも2、3日はかかるだろう」
「そうですか?日帰りで十分だと思いますけど?」
カティもいるし、瞬殺の可能性さえある。
「ははは、言うねぇ兄ちゃん。もし出来たら、明日の大会の出場権譲ってやるよ」
「いや、別に「乗ったー!」カティ?」
「いいじゃん、出れば。私、サーヤに教えて来るから。城門で待っててー!」
結果から言えば、妙に張り切ったカティの活躍により、クエストは昼前に終わったのだった。
本編で抜かした所は外伝で書くかも?