4.ここはもう【もしもの世界】
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「……っと、ずいぶん慣れてきたな。これなら!」
――いまので、合計六発目。
そろそろ矢も尽きた頃合いなのか、レライエの挙動も変化してきた。追いかけると、露骨に俺との距離を取ろうとする。つまりはもう矢筒に弾がない、ということだった。
アニスさんの話によると、レライエは矢がなくなると着地して矢を錬成するらしい。狙うならこのタイミングだが、彼女はいまどこにいるのか。
「――いた!! だったら、こっちに移動して……!」
視界の端にアニスさんの姿を捉えて、俺は自分の位置を調整した。
これでレライエは彼女の近くに着地するはず。そこで不意を打てば、この戦いは勝利だ。そして、その思惑通りに相手は距離を取っていく。
どうやらアニスさんの存在には気付いていない。
こうなれば――。
「――アニスさん、危ない!!」
だが、その瞬間に俺は声を張り上げていた。
何故なら、レライエを狙う彼女の背後に――。
『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
異様なまでに、巨大な。
骨のまま動くドラゴンの姿があったのだ。
肉がただれ堕ちた醜い姿をしたそいつは音もなく、渾身の一撃を放つ。鋭利な爪による一撃はアニスさんの背中に、食い込んでいく。しかし、
「く、うああああ……!!」
「アニスさん!!」
俺の絶叫に反応し、彼女は寸でのところで攻撃を回避した。
それでも肉を深く抉られ、おびただしい量の出血が見られる。俺は倒れ込むアニスさんのもとに駆け寄り、その傷の具合を確認した。いますぐにということはないが、このまま放置しては死に至るだろう。かといって、現状で治療を施すことは不可能であると思われた。
苦悶の表情を浮かべるアニスさんに、骸骨のドラゴン。
そして――。
「なんだよ、これ……!」
その周囲には何体ものレライエが存在していた。
まさにそう、主であるドラゴンに付き従うようにして。その弓兵の集団は巨大な弓を引いて、少しずつこちらへの距離を詰めてきた。
俺はとっさにアニスさんを守るようにして立ちはだかり、剣を構える。
すると、背後でうめくように彼女は言った。
「に、逃げてくれ……」――と。
このままでは、俺とアニスさんは共倒れだ。
そうならないようにと考え、彼女は必死にそう訴えたのだろう。普通に考えれば、一人でも多く生き残ることが最優先だった。そして、大怪我をしたアニスさんを庇って逃げることはできない。
だけど――。
「くそ……ッ!」
判断ができない。ここ一番で、決断ができない。
たとえ生き残ったとしても、自分は胸を張って生きていけるのか。そんなことを考えると、むしろ足がすくんでしまう。まるで杭を打たれたかのように、動けなくなってしまった。
いったい、俺はどうすれば良い。
『きっと、道はあるはずなんだよ!』
そこまで考えた時に、脳裏に浮かんだのは幼馴染みの懐かしい言葉だった。
◆
『道はある、ってなんだそれ?』
一緒に昼食を取っていた時のこと。
茜は行儀悪く、割り箸の先を俺に向けながら熱弁していた。
その内容というのも、彼女がハマりにハマっているアプリである【アンリミテッド:ワールド】のストーリーについて。その物語の中では、つい先日アクアの退場が決定的となったばかりだった。これについて、アクア推しである幼馴染みには意見があるという。
『アタシは絶対に、アクア様の退場を認めないからね!』
『いや、アレは絶対にもう出てこないだろ』
『そう思うところが、拓斗の経験の浅さだねぇ』
『なんかヤケに嫌味な言い方だな』
さも自分は経験豊富です、と言わんばかりの茜に苛立つ。
しかし彼女はそんな俺の気など無視して、このように語り始めた。
『拓斗はさ【Ifの世界】って、信じる?』
『いふのせかい……?』
対してこちらは、思わず首を傾げる。
いや、その単語の意味は分かるのだが……。
『【もしもの世界】なんて、考えても意味なくないか?』
『いやぁ、やっぱり浅いね。拓斗は』
『…………』
人差し指を顔の前で揺らす幼馴染み。
彼女は自信たっぷりに、こう宣言するのだった。
『アクア様の退場だって公式が勝手に言ってるだけ、だからね!』
『いや公式が言ったら事実だろうよ』
俺は即座にツッコミを入れる。
すると茜は、肩を竦めて言うのだった。
『いい? 想像の余地は、アタシたちに委ねられているんだよ?』
不敵な笑みを浮かべながら。
『だったら、仮にアクア様が主役の物語があってもいいでしょ?』――と。
呆れる俺をよそに、一人で盛り上がるのだった。
◆
「【もしもの世界】……か、懐かしいな」
どうしてこうも、思い浮かぶのは茜との記憶なのだろう。
しかし、彼女の言葉に今更ながら一理あるように思えてしまった。だって、
「たしかに、俺――アクアが生きている時点で、ここはもう【もしもの世界】なんだ。だとすれば、ここから先、信じられないことが起きても構わない」
このような窮地に陥っても、不思議と笑えてくる。
俺はドラゴンとレライエを見据えて、剣を構え直した。そして、
「こいよ、いくらでも相手してやる……!」
宣戦布告する。
この圧倒的に不利な状況下でも、笑みを絶やすことなく。
すると、ついに魔物たちが動き始める。
レライエは矢を放ち、ドラゴンは紫色のブレスを吐き出した。
迫りくるそれらを睨みつけたまま、俺は――。
「おらああああああああああああああああああああああ!!」
地面に思い切り、剣を突き立てるのだった。
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