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2.懐かしい記憶と、天賦の才。

オープニングはここまで(*'▽')

応援よろしくお願いいたします!







『ねぇ、拓斗! このアプリ知ってる!?』

『なんだよ、茜。朝からそんなに興奮して……』



 それはまだ、俺が大学生だった頃のこと。

 幼馴染みの女子が一人、気怠い一限目の教室内に響き渡る声量で俺の名を呼んだ。彼女は昔からオタク気質であり、事あるごとに昔なじみの自分にハマっているゲームの話をしていた。その時もそんな感じで、彼女は意気揚々とスマホアプリの画面を提示する。

 俺は眉をひそめつつ、それを見た。


『これね、最近サービス開始したゲームなんだ! 【アンリミテッド:ワールド】っていうんだけど、キャラも曲も良いからインストールして一緒に遊ぼうよ!!』

『がーっ!? 耳元で騒ぐなって! 分かったから!!』

『えへへっ!』


 幼馴染み――茜は俺の反応を楽しむように、ニコニコと笑う。

 これは自分だから理解できるのだが、この小動物のような表情に異性を意識した気持ちは一切ない。この女の中にある考えはただ一つ、自分の同類を増やせたことへの歓喜だった。

 それは重々承知しているが、いまいち無視できないのは俺の甘さだろう。

 また幼馴染みという名の腐れ縁というものに、それとなく心地よさを抱いていたのもあった。そうでなければ、生まれて今まで二十年も一緒にいない。


『……それで? 今回はいったい、どのキャラが推しなのさ』

『お、流石は拓斗氏。アタシの思考はしっかり理解している模様』

『ニヤニヤしてないで答えろっての。せっかくプレゼンの機会をやってるのに……』


 こんな軽口も、きっと大学を卒業すればなくなってしまうだろう。

 互いに社会人になって毎日が忙しくなり、会話する機会もなくなっていく。そのうちに連絡も取らなくなって、気付けば噂程度に結婚の報告を母親から……とか。


『アタシはやっぱり、アクア様かなぁ! 性格はアレだけど、やっぱ顔よ!!』

『……お前、ホントに変な男に引っかかりそうだな』


 ――前言撤回。

 こいつが俺より先に結婚とか、想像もできない。

 男のことを中身より、外見で判断しているうちは絶対に。


『えー、そうかな? アタシだって、相手の性格は考えてるよ』

『だったら、さっさとカレシの一人でも作れっての。顔は良いんだからさ』


 俺がアプリをインストールしながら言うと、茜は隣の席に腰かけながら笑った。

 そして、こちらの顔を覗き込みながら言うのだ。



『それは無理。だって――』



 本当に、悪戯っぽく笑いながら。



『アタシに男ができたら、拓斗が泣いちゃうでしょ?』――と。







「うおらあああああああああああああああああああ!!」



 ――俺は声を張り上げながら、巨大ドラゴンへと斬りかかる。

 分厚い鱗を叩いた剣は思い切り弾かれて、甲高い音色を奏でた。そこでいったん相手から距離を取って、刃こぼれがないかを確認する。どうやらまだ、無事のようではあった。

 しかしながら、肝心の剣がこれではままならない。

 俺はそう考えつつドラゴンのブレスを回避し、必死に策を巡らせた。


「えーっと、何だったか。茜がよく言ってたのは」


 その中で参考にしたのは、オタクな幼馴染みの早口な説明だ。

 彼女は適当にこのゲームをやっていた俺と違って、色々と攻略情報を集めていたはず。いまのように格上ないし、適正レベル以上の相手と対峙した時は――。


「あぁ、たしか……」


 そこまで記憶を手繰って、俺はようやく思い出した。

 たしか茜曰く、この手のゲームには必ず有利不利の属性があるとのこと。そして【火属性】に対して有効なのは、相場が決まっていた。

 俺は自身のキャラクターの名前が示す意味を思い浮かべ、ついつい笑ってしまう。

 そして、改めて握る柄に力を込めるのだ。


「ありがとな、茜……!」


 ずいぶん遠く離れてしまった幼馴染みに、感謝を口にする。

 その直後、俺の全身を包み込むようにして空中を水の塊が浮遊し始めた。


「たしか、これは【アクアストリーム】とかいったか?」


 巨大なドラゴンを相手にして、真っすぐに剣を構え直す。

 そして、それを振り上げると周囲の水の塊を纏い始めるのだ。俺は用語に詳しくないのだが、こういうのを【エンチャント】だとか何とかいうのだったか。

 そんな曖昧な知識で戦闘を行うこちらに、しかしドラゴンは脅威を感じたらしい。

 咆哮を上げながら、口内のブレスの勢いをいっそうに強めていた。だが、


「悪いけど、これで――」



 俺は自然と笑みを浮かべて、真っすぐに得物を振り下ろす――!



「終わりだあああああああああああああああああああああああああああ!!」



 天賦の才によって生み出された激流が、ドラゴンに向かって放たれた。

 直後のブレスを容易に掻き消したその勢いは、分厚い鱗に守られた魔物の肉体を貫く。あたかも水の刃であるかのような一撃は、ドラゴンの身体を穿ってみせた。

 断末魔の叫びを上げながら消失していく彼の竜を見送って、俺はゆっくりと胸を撫で下ろす。そして自分が成し遂げたことを確認して、小さく拳を握りしめるのだった。








「ふーん……あのドラゴンを単独討伐、か」



 ――そう口にしたのは、一人の少女だった。

 岩場の陰からアクアの戦闘を見守った彼女は、小さく笑みを浮かべて顎に手を触れる。そこにあったのは、彼に対する好奇に他ならなかった。

 そして、しばしの思考をした後にこう口にする。



「これは、面白い才能に出会ったね」――と。



 その言葉が意味するところは、いったい何なのか。

 いまはまだ、彼女しか知らない……。


 


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