プロローグ 悪役貴族への転生。
新作です(*'▽')ノ
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「思い出した……!!」
「ひゃう!? どうされたんですか、アクア様!?」
俺は思わず声を張り上げた。
すると傍らにいた給仕の少女が、驚いたようにその場で跳ねる。しかし今の自分にはそのようなこと、些事でしかなかった。何故なら俺の脳裏に浮かんだ景色は、現状の自分がいかに窮地に追い込まれているかを示していたのだから。
不可思議なことではあるけど、間違いない。
俺は以前に、このような状況を目にしたことがあった。それはそう、自分がこの世界に生まれてくるもっと前から。何を言っているのか自分でもこんがらがってくるが、どうやら俺は『転生』したようだった。大人気スマホアプリ――【アンリミテッド:ワールド】の世界に。
「な、なぁ……ミリア。変なことを訊くけど、俺の名前は?」
「お名前、ですか?」
「……あ、あぁ」
ミリアという給仕の少女は、困惑したように俺の名前を口にした。
「貴方は、アクア様。……アクア・リュクセンブルク様、です」――と。
◆
アクア・リュクセンブルクは【アンリミテッド:ワールド】に登場する悪役貴族だ。容姿端麗で天賦の才に愛されながらも、小悪党で最低な性格をしており、物語では最序盤に退場する。その後の消息は不明ではあるが、アプリで配信されている内容からして重要ではなかった。
つまり俺は、アクアに転生した時点で破滅確定ということ。
転生前の記憶を取り戻したいま、どうにかできるか必死に考えてみたのだけど……。
「……無理だ。裁かれるだけの罪状が、揃いすぎてる」
要人の暗殺依頼に、公文書の偽造そして隠蔽。
目的は相変わらず不明なままだったが、アクアはこの後に主人公たちの活躍によって表舞台を去ることになっていた。いわゆるチュートリアルの敵役、というわけだ。
そして、そのタイムリミットは刻一刻と迫っている。
「今日の夕方に、主人公たちは国王陛下に謁見する。そこで俺ことアクアの罪を全部ぶちまける、という流れだったはずだけど……」
いまが正午過ぎだから、六時間ほどしかなかった。
この短い間にすべてをひっくり返すのは、さすがに厳しいだろう。いくつかを隠蔽できたとしても、火に油を注ぐ結果にならないとも言い切れなかった。何をするにしても、時すでに遅し。形勢逆転の目は少なくとも、手元にない。
そう、手元には――。
「……待てよ。別に、手元にある武器で戦う必要はないんじゃないか?」
俺はそこまで考えてから、一つの結論に至った。
そう、手元にある汚れた手段で戦う必要なんて一つもないのだ。
つまるところ、盤面にある駒だけで戦わなくてもいい。それはもういっそのこと、土台からひっくり返しても構わないのではないだろうか。
「………………だったら、そうだな」
ゆっくりと、歩き始める。
行く先はもちろん、国王陛下のもとだった。
◆
――同日夕刻、謁見の間。
「アクア・リュクセンブルクが、自ら野に下った……?」
「あぁ、その通りだ。己の罪をすべて吐き出してから、な」
そこには、武装して乗り込んできた主人公一行と国王の姿。
しかし物語の進行上、当然いるべきはずの貴族の姿はなかった。国王が難しい表情で語った通り、アクアは自分から罪を告白して貴族の地位を捨てたのである。
困惑する主人公たちを見ながら、国王は静かに語った。
「しかし、これでお前たちの主張が正しかったと証明された。いささか消化不良ではあるが、裁くべき相手がこの場にいない以上は追及できまい」
「そ、それはそうですが……!」
不服を申し立てようとする主人公に、国王は諭すように続ける。
「落ち着け。もちろん、お前たちの手柄は申し分ない。したがって――」
そうして、物語は軌道修正されていった。
誰もが知る展開に。しかし――。
「こんなの、ダメです……!」
遠く離れた場所で、小さくそう口にした少女がいたこと。
それを知る者は当然ながら、誰もいなかった。
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