復興
「何人かは登校しているな」
シリウス先生が教室に入ってくる。
結局、登校したのは6人だけだった。
共通点を挙げるなら、皆平民だ。貴族の人達は家のことで忙しいのだろう。
「知っての通りだが、王都は昨日未曾有の危機に見舞われた。幸いなことにこのクラスの生徒で犠牲は出なかったが、授業、訓練の内容は全て変更し、復興の手伝いをしてもらう。まずは女子寮からだ。他に優先する事がある者は帰っても構わない。参加する者に加点は与えるが、減点はない。参加する者は女子寮に行き、サウス先生の指示を聞くように」
シリウス先生が珍しく丁寧な説明をしてから教室を出て行く。
ダイス君やローザ達も助かったようで安心する。
「エルク君はどうする?」
ラクネに聞かれる。
「他にやることがない日は参加しようかな。とりあえず今日は行こうと思ってるよ」
ルフのおかげで我が家に被害はなく、特にやることはないので参加することにする。
「私も参加しようかな。アンジェちゃんとエミリーちゃんは参加する?」
「私はやるわ。女子寮は私が帰る場所だもの」
アンジェも参加するようだ。
「私は家の方の片付けが終わってからにするわ」
エミリーは家の方を優先するらしい。
「大丈夫なの?」
「荒らされただけで、家の原型は残っているから大丈夫よ。それじゃあまたね」
「僕達も帰るよ」
少し離れて話を聞いていた男の子2人も帰っていった。
ラクネとアンジェと3人で女子寮へと向かうと、サウス先生だけでなく、他の先生の姿もあった。
シリウス先生もいる。
「よく来てくれた。アンジェとエルクとラクネだな。女子寮は一部を除いて原型を保っている。よって補修することになった。まずは瓦礫の除去から始める。瓦礫はあそこに運ぶが、生徒の私物も混じっている。一つ一つ確認する時間はないから、私物はこっちの箱に入れていってくれ」
「わかりました」
「道具はそこにあるものを自由に使ってくれ。やり方はお前達の自主性に任せる。訓練したことを生かしてくれ」
好きなようにやっていいみたいだし、とりあえず力仕事だからここにいる人に強化魔法を掛ける。
身体強化と腕力強化でも掛ければいいかな。
あとは……こういう時は二次災害にも気を付けないといけないよね。シールドも掛けておこう。
「エルクくんが何かしてくれた?」
ラクネに言われる。
「うん。強化魔法と防護魔法を掛けたよ」
「ありがとう。1人でやるよりも3人で協力した方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「その方が効率はよさそうだね。どうやるか決めようか」
3人でどうやって進めていくか話し合う。
作業を分担して、瓦礫の除去は僕が魔法で行い、私物はラクネとアンジェに任せることになった。
「エルク君に力仕事を任せることになっちゃうけど、本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ」
ラクネが心配してくれるけど、女の子の私物を触るのはなんだか恥ずかしいし、魔法なら力をほとんど必要としないので、問題はない。
まず僕は、風魔法で瓦礫を切断して、一つあたりの質量を小さくしていく。
その後、ラクネとアンジェによって瓦礫の中から私物を取り除かれた場所の地面を土魔法で操り、ブルドーザーのように瓦礫を押して移動させる。
人目がないなら僕とアンジェでアイテムボックスに瓦礫を入るだけ入れて、集めるところに取り出すのが1番楽だと思うけど、それ以外だと考えつく限り1番楽な方法だと思う。
それに、集めた瓦礫もいつかは除去するわけだから、細かくしておいた方が後々楽になるだろうとも思う。
女子寮の方はあまり壊れていなかったこともあり、午前中で瓦礫をどかす作業は終わる。
「昼食はこちらに用意している。食堂はやってないから、要る者は取りに来るように」
椅子に座って一息ついていたら昼休みになる。
「当分の間、お昼は弁当なんだね」
開けてみると、中身は質素だった。
普段は貴族が多い学院だということもあり、昼食も食堂でビュッフェ形式で豪華な食事だった。
「お弁当でも食べられるだけうれしいね。昨日の夜に説明を受けたけど、朝と夜は食事がないから」
アンジェが言う。
「朝と夜は何も食べられないの?」
「寝る場所を用意しただけで、食べ物は自分でなんとかして欲しいって。授業に出れば弁当が出るって言ってたから、復興を手伝っていれば飢えて死ぬことはないわ。昼だけだと多くはないけど、村にいた時に比べたら十分過ぎるわね」
アンジェの言う通り、村にいた時よりは多いかもしれないけど、村を出て王都の暮らしに慣れてからこの量はツライだろう。
「週末はどうするの?」
それに、それだと週末は何も食べれなくなってしまう。
「週末は……なんとか考えるわ」
「ご飯を買うお金はある?」
「…………大丈夫よ」
無いようだ。
「午後からは初等部の方に行ってくれ。人手が足りてない」
昼食後、サウス先生に初等部に行くように言われる。
初等部の方も女子寮から直すみたいだけど、中等部と違い半壊していた。
午前中と同じように作業を進めていく。
「アンジェ、少しいい?」
作業を進めつつ、僕はアンジェに内緒話をする。
「なに?」
「アンジェのアイテムボックスは僕から強奪したって言ってたよね?」
「うん。やっぱり怒ってる?」
「怒ってないよ。僕のアイテムボックスと同じなら、入れた物は腐らないよね?」
「あまり食料は入れてないからよくわからないけど、多分腐らないと思う」
「それなら、僕のアイテムボックスに入ってるご飯を渡すよ」
「いいの?今は余裕があるかもしれないけど、当分の間、王国は食糧難になるわよ」
王都は現在食糧難だ。
何とかする為に他の街から食料や建材を運ぶことになるだろう。
他の街に王都に住む人の分まで余裕があるかは、集めてみないとわからない。
王都には貴族がたくさんいる。
必要以上に集めれば、王国の各地で食料が足りなくなるだろう。
「僕は日頃から沢山入れてて、家族で食べても当分の間食べきれない程にあるから気にしないでいいよ。帰る前に渡すから待ってて。ここだと人目があるから」
僕は魔力がある限り食べ物は創れるので、無くなることはない。
「ありがとう。本当に助かるわ」
「今日はここまでにする。ご苦労だった」
復興1日目が終わる。
疲れたのもあるけど、ずっと外にいたから体が冷えてしまった。
お風呂に入って温まりたい。
「それじゃあまた明日ね」
ラクネに別れの挨拶をしてアンジェと2人になる。
「とりあえず調理済みのやつを渡すね」
僕はアイテムボックスから調理しなくても食べれる物を渡す。
「ありがとう」
アンジェは受け取った食べ物を自身のアイテムボックスに仕舞う。
アンジェに食料を渡した後、僕はアンジェに提案をすることにする。
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