一掃
ラクネの家の側にナイガルさん達と行き、拘束していた4人を引き渡す。
「捕らえた賊というのはどこにいるんだ?」
「ここです」
居場所を教えることで、ナイガルさんが賊を認識することが出来るようになる。
「物陰に居たとはいえ、ぜんぜん気付かなかった」
秘密裏に牢に入れる為、隠密は解除していない。
「僕のスキルで他の人がこの人達に気づきにくくしてあります」
「これは生きているのか?」
賊は口元まで土で覆われているので、完全に身動きがとれない状態だ。
瞬きしているくらいにしか動きはない。
「ちゃんと生きてますよ」
僕は1人ずつ拘束を解いていく。
このままでは動かせないからだ。
拘束を解いた賊から、ナイガルさんが腕をロープで縛っていく。
さらに口に布を噛ませて声を上げたり、自殺出来なくしている。
「アジトはどこにあるんだ?」
「あっちです」
僕は場所を説明する。
「それなら一度こいつらを牢に入れるか」
「詰所に行くんですね」
「いや、屋敷に戻る。全てが終わるまでは私の屋敷の地下の牢に入れておく」
あの屋敷には地下牢まであるらしい。
僕達はナイガルさんの屋敷に戻ってくる。
隠された地下牢への階段を降りていくと、キレイな牢屋があった。
あまり使われていないようだ。
4人を牢に入れて、足も縛っている。
僕は地下牢全体に結界を逆向きに張る。誰でも入れるけど、指定した人しか出られないようにだ。
万が一この人達を助けにくる人がいたとしても、ここから容易には逃げ出すことは出来ない。
さらに牢屋には普通の結界を張っておく。
口封じのためにこの人達が殺されないためにだ。
「捕まえたこの人達はどうなるんですか?」
僕はナイガルさんに聞く。
「罪状を調べてみないとなんとも言えないが、処刑か労働奴隷かのどちらかになるだろう。直接誰かを殺したりしておらず、やむを得ない事情があれば許されることもあるが、それは稀なケースだ」
やっぱり前の世界に比べると厳しい気がするけど、ちゃんと罪状は調べてくれるみたいだし仕方ないよね。
「エルクは賊がどうなるか気になるのか?」
ダイスくんに聞かれる
「僕が捕まえたわけだし気にはするよ。でも捕まえなかったら他の普通に暮らしている人が被害に遭ってたかもしれないから後悔してるとかではないよ」
「そうか。あまり気にしすぎるなよ」
「うん」
ダイスくんは僕を心配してくれているようだ。
「次はアジトの方に向かう。聞いている限りだと問題はなさそうだが、戻ってきている者がいるかもしれない。気をつけろよ」
ナイガルさんに言われる。
あそこに居た人は拘束してあるけど、あれから戻ってきた人は、出られなくなっているだけで拘束されているわけではない。
「わかりました」
僕はナイガルさんとダイスくんにもシールドと隠密を掛ける。
これで不意打ちされる可能性はかなり減るし、されたとしても安心だ。
アジトに行くと地下への隠し扉が開いていた。
僕は閉めておいたので、開いているということは誰かが開けたということだ。
「あの床の扉ですけど、僕は閉めておいたので誰かが下に降りたと思います」
「気をつけながら進むぞ」
地下室に入ると、男3人がボスの拘束を解こうとしているところだった。
隠密のスキルによって僕達には誰も気づいていないので、とりあえず動ける3人も拘束する。
「くそ!動けねぇ。誰だ、どこにいる!?」
「私達のことが見えてないのか?」
ナイガルさんに聞かれる。
「気付きにくくするスキルをここにくる前に2人にも掛けておきました」
「…………衛兵になる気はないか?君が衛兵になってくれると今まで証拠が見つからず捕まえられなかった者共を捕まえることが出来る。自衛も出来るようだし、私と一緒にこの街を守らないか?」
衛兵に誘われてしまった。
特に将来やりたいこともないし、神から奪ったスキルだけど、街の人を守るために働くのも悪くはないかもしれない。
「今は学院に通っているので遠慮しておきます。もし僕が卒業する時に考えが変わってなければまた声を掛けて下さい」
悪くはないと思ったけど、今は学院が楽しいのでそちらを優先することにする。
「そうか。また声を掛けさせてもらおう」
「どうしても手が必要な時は遠慮なく言ってください。出来ることであれば手伝います」
「それは助かる。その時は頼むことにしよう」
「2人ともここは一応敵地だぞ。危険がないのはわかるが気を抜きすぎてないか?」
ダイスくんに言われてしまう。
「うん、ごめん」
「気を張りつめる必要性が感じられなくてな………誰か来るな」
ナイガルさんが急にそんなことを言う。
「誰かって上からですか?なんでわかるんですか?」
防音のスキルも使っているので、上に誰かいても足音などは聞こえないはずだ。
「気配がする。2人いるな……」
そこまでわかるらしい。何かスキルでも使っているのだろうか……
「おい!誰かいないのか?なんで返事をしない」
少しして男が2人地下室に降りてきた。
僕は降りてきた2人も土魔法で拘束する。
「気配がって言ってましたけど、何か気配を感じやすくするようなスキルを持ってるんですか?」
僕はナイガルさんに聞く。
「いや、長年の勘というところだ。また話し込むと怒られてしまうからな。話は後にして今いる者だけ牢に入れることにしよう」
スキルじゃなかった。気配察知とかそういうスキルでも持ってるのだと思ったのに……。
それに、さっきも気を抜いていたように見えただけで、周りの警戒は怠っていなかったようだ。
先程と同様に1人ずつ拘束を解いてロープで縛っていく。
今回も全員に隠密を掛けておいたので、ぞろぞろと街中を移動しても騒ぎになることはないだろう。
「もう1人家に入ってきたな」
ナイガルさんが言う。気配を感じるらしいけど、僕にはさっぱりだ。
すぐに降りてくる気配はないそうなので、先に地下室にいる賊を全て繋いでしまう。
「どうするの?」
僕は2人に聞く。このまま降りてくるのを待つのか、こっちから捕まえに行くのか。
「ここで待ってる必要も無いだろう」
賊達は地下室に残したまま一度地下室を出る。
部屋にはさっきまでの賊とは違い、高そうな服を着た男がいた。
「エルク、少し待ってくれ」
僕がとりあえず拘束しようとしたら、ダイスくんに止められた。
「どうしたの?」
「あれはムスビド家の執事だ」
「ムスビド家ってリリスちゃんと婚約しようとしてた貴族?」
「そうだ。ムスビド家は俺の派閥に入ってたはずなんだが、婚約を断った事を根に持っていたのか裏で乗り換えてたんだな」
「ダイスくんは裏切られたんだね」
「ああ。まあ、ムスビド家は元から良い噂は聞かなかったからそこまで驚きはない。残念ではあるがな……」
「そうなんだね。それで捕まえないの?」
「言い逃れされたくない。ここにいるのはムスビド本人ではなく執事だ。執事が当主に報告に行ったところを捕まえるぞ」
「執事が勝手にやったことだと言い訳されるかもしれないもんね」
「ああ、だから動きがあるまで待つ」
少し待った後、執事が地下室へと降りていった。
結界は解いておいたので、執事を泳がせることは出来る。
執事は誰もいないように見える地下室を見た後、壁に書かれた暗号を見て出て行った。
元々いた賊達はまだ地下室にいるので、僕は結界を再度逆向きに張り直してから執事の後を追う。
「あの人には暗号が読めたのかな?」
僕はダイスくんに聞いてみる。
「さあな。読めたのであれば当主のところではなく、他のアジトのところに向かってるのかもな」
どっちに行くのかと思っていたけど、大きな屋敷に執事は入っていった。
「ムスビド家の屋敷だ。当主に報告に行ったな」
執事は当主と思われる男にあったことを報告している。
「失敗して逃げたな。あれだけ大口を叩いていたのに、結果はこれか」
「おっしゃる通りです」
「私が関わったことが公になる前に見つけ出して殺せ」
「かしこまりました」
当主は賊を始末するように執事に指示を出した。
「ナイガル聞いていたな?」
「もちろんだ」
「エルク、頼んでいいか?」
「わかったよ」
僕は2人を拘束する。
「何だ!」
当主が慌てる。
僕はダイスくんに掛けた隠密を解く。
「今のやりとりは聞かせてもらった。何か申し開きがあれば牢で聞いてやる」
「貴様!どこにいた?何故ここにいる!」
「ナイガル、連れて行ってくれ」
僕はナイガルさんの隠密も解く
「観念しろ!」
ナイガルさんが当主と執事を縛っていく。
騒ぎを聞きつけて、屋敷にいた人達が集まってくる。
ダイスくんが集まってきた人に簡単に何があったのかを説明する。
そして後日、使用人にも事情を聞くために出頭命令があるだろうことを伝える。それまで屋敷から出ないように命令を出している。
断った場合や、逃げた場合は悪事に関与したとするそうだ。
僕はダイスくんに頼まれてこの屋敷に結界を二重に掛ける。
内側の結界は普通の外からは入れず内からは出れる結界。
外側の結界は逆向きの内から出られず、外からは入れる結界。
逃げようとした人はこの2つの結界の間に閉じ込められることになる。
さらに外側に結界を張ったので、今この屋敷には僕以外誰も入ることが出来ない。
当主と執事をナイガルさんの屋敷の地下牢に入れた後、アジトに残していた賊も地下牢に連行した。
「全てでは無いだろうが、ムスビドも捕らえることが出来たことだしほとんど一掃出来ただろう。ありがとな」
ダイスくんにお礼を言われた。
「ナイガルも助かった。また頼む」
「衛兵の仕事であればまた頼ってください」
ナイガルさんはダイスくんが初めに言っていたとおり、ダイスくんが王子だからという理由で動く人ではないようだ。
最後まで衛兵だった。
実力は衛兵のそれではなかったけど……
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