特別な依頼
ある日、教室に入るとローザから話があると呼ばれる。
フレイとアメリも集まっていたので、次の冒険者活動の日程確認かなと思ったけど、少し違った。
「ギルドから面白い依頼が入ったから受けないか?って話をもらったんだけど、受けるかどうかみんなで相談して決めようかと思って待ってたのよ。今週末と来週末の予定は開いてるかしら?」
「特に予定は入ってないよ。それでどんな依頼?というかなんでローザに指名依頼の話がくるの?ベテランどころかまだ新人冒険者だよね?」
ギルドから指名して依頼が来るのは、高ランクの冒険者か、代用の効かない人材の場合のみだ。
「指名依頼ってわけではないわよ。クラリスさんに面白そうな依頼があったら教えてって言ってあっただけよ。普通は特別扱いみたいなことはしないらしいんだけど、面白い依頼って、大体は報酬面ではおいしくない依頼だから人気がないのよ。だからギルドとしても斡旋出来るのは助かっているって言ってたわ」
このパーティにお金で困ってる人はいないからね。
僕以外は貴族の娘だし、僕も生活には困ってない。
最近はローザ経由で石鹸を売っているので、実際の所お金はかなり持っている。
ただ、創造で創ったもので稼いだお金は使わないと決めている。
一度薬草を創って納品したけど、それは忘れる事にした。
あれはお金欲しさというよりは、全然見つからない薬草を探すのに疲れたからだし……。
人生を楽しむためには、お金は多少なりとも苦労して手に入れた方が、使った時の感動が増すみたいだから。
「そうなんだね」
「それで依頼内容なんだけど、屋敷の片付けよ」
屋敷の片付け……掃除ってことかな?
「それの何が面白い依頼なの?冒険者に出す依頼って考えたら珍しいかもしれないけど」
「その屋敷の持ち主なんだけど、少し前に悪い事をしていたのがバレて捕まって処刑されたのよ。それで屋敷を他で再利用するために、屋敷の中を片付けるのが今回の依頼内容なんだけど、これだけなら確かに面白くもなんともない依頼よ」
「そうだね。ただただ疲れそうな依頼にしか聞こえないよ」
「その屋敷の持ち主は重度のコレクターだったのだけれど、保管場所を最後まで言わずに処刑されたのよ。まぁ、言ったら最後、処刑されるのだから、言わないようにしていたんでしょうね。屋敷の中を国の職員が捜索したらしいのだけれど見つからなかったそうよ。それで屋敷にはないと判断されてこの依頼が出たの。国の方で引き取る物のリストは既に出ているから、それ以外の物はもらってもいいそうよ」
「国が引き取らない物の中に、実は価値のある物が残ってるかもしれないってことだね」
宝探しみたいなものかな
「違うわよ。それでも面白そうではあるけど、もっと面白そうな事があるでしょ?」
僕はフレイとアメリを見る。
フレイはわかってる顔をしていて、アメリは考えるのを放棄しているように見える。
「…………もしかして、コレクターが集めた物を探そうってこと?」
「そうよ」
「でも見つけたとして、もらっていいの?それから集めてた物って何?」
「国が引き取るリストには載ってないのだからもらっていいわよ。ちゃんとギルドにも確認済みよ。集めていた物だけど、聞いて驚きなさい。スキル書よ」
スキル書か。僕にはいらない物で、創れないものだ。
そして価値が高い上に、希少なので手に入れるのが難しいものだ。
「そんな依頼なら他の冒険者が受けたいんじゃないの?僕達が受けていいの?」
「問題ないわよ。今まで報酬度外視で依頼を受けてたでしょ?私達みたいな冒険者はギルドとしてメリットが大きいのよ。だから依頼の報酬が安い時は話をして、報酬が高い時は他の冒険者に回すなんてことはしないのよ。それに今回の依頼の報酬は0よ。屋敷の中の物が報酬の代わりだけれど、国の職員が探しても見つからないなら、スキル書がある可能性はかなり低いわ。生活がかかっている人は受けないわよ」
「なるほどね。僕達の場合は、見つける過程に面白みを感じて依頼を受けるからいいけど、現実をみると割に合わないってことだね」
「そうよ。あったらラッキーくらいに考えましょう。まあ、片付けはしないといけないから大変だしね……」
「僕は受けてもいいよ。面白そうではあるし。……少し気になったんだけど、スキル書って集めてなにが楽しいの?使わないと中身が分からないから、集めても全部見た目は同じだよね?」
高額な物をたくさん持っているという、優越感くらいしか得られなさそうだけど……。
「憶測だけど、楽しいっていうよりは投資に近いんじゃないかしら。今は使用しないと何のスキルが手に入るか分からないけど、使用前に何のスキルが手に入るかわかるようになるかもしれない。そうなればそのスキルを必要としている人に今より高く売ることが出来るわ」
「そういうことか」
「フレイとアメリは?」
ローザが2人に聞く
「面白そうだしいいと思うわよ」
フレイは賛成のようだ
「任せる」
アメリはいつも通りだね
「それじゃあ決定ね。みんな予定は空いてるみたいだから今週末から屋敷の片付けよ。依頼は今日の放課後にギルドに寄って受けておくわ」
「お願いね」
そして週末、僕達は片付けの為に屋敷に来ていた。
気分は宝探しだけど……
「随分と大きい屋敷だけど、もしかして貴族が使ってたりしたの?」
「そうよ。子爵家だから、結構大きい貴族だったわね」
金持ちの商人とかの屋敷だと思っていたら貴族の屋敷だった。僕は一つ心配な事がある
「このサイズの屋敷の片付けが今日中に終わるの?」
どう考えても終わるとは思えない。
一応、国が引き取るものは用意してある馬車に積み込むだけでいいそうだけど、残りのものは価値のあるものと無いものを分けていく必要もある。
価値の無いものは処理場まで持っていかないといけないし、価値のあるものは各所に持っていって買い取ってもらわなければならない。
「何言ってるのよ?もちろん終わるまでやるわよ。だから今週末と来週末の予定が空いてるか確認したでしょ?」
ローザに言われて思い出してみる。確かに今週か来週どちらかでやるとは言ってなかった。
まさか両方とは思っていなかった
「もしかして、予定入れちゃった?」
「入れてないから大丈夫だよ。今日だけだと勘違いしてたから驚いただけ」
「良かったわ。でも期限は長めにもらってるから、予定が入ったら抜けてもいいからね」
「うん、ありがとう」
ローザはこう言うけど、抜けている間は残ったメンバーだけで片付けを進めることになる。それは良くないので、来週も予定は入れないように気をつけよう。
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