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守護者の乙女  作者: 胡暖
第一章

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7.騎士団にて

 騎獣舎と演習場は、城の正門のすぐ横にあった。

 城の正門までは三の門から一の門まで3つの門があり、三の門より内には、貴族しか住んでいない。オールストレーム公爵家は、一の門の中に屋敷があるが、それでも城までは馬車で移動するほどの広さがある。

 当然、城の正門に入っても、そこから城まではまだかなり距離があるようだった。

 エヴァはふと疑問に思ってルーカスに尋ねた。


「こんなに遠くに騎獣舎があって、城を警護するのって大変じゃない?」

「あぁ、騎士は2班----城で警護する班と鍛練する班に分かれるんだ。騎獣は、魔道具がついているとはいえ、何があるか分からないから城からは多少離して世話をしている。有事の際は、城から合図があると直ぐに、鍛練を切り上げて、騎獣で向かうようになっている」

「へー。そうなんだ…」


「よう、ルーカス!そいつがエディか?」

「団長!」


 ルーカスと共に騎獣を眺めていたエヴァは、急に声をかけられ振り返った。

 そこには、エヴァが森で出会った、副団長のウルリクと共に、短く刈り込まれた黒髪に切れ長の黒い瞳をしたガッチリした男性が立っていた。

 ルーカスは拳で胸を叩いて挨拶を返す。

 エヴァは、家以外ではきちんと敬語を使う用にユーハンに言われていることを思い出し、右手の指をピンと伸ばして胸に当て、お辞儀をする。


「初めまして。私は、オールストレーム家の養子に入りました、エディ・オールストレームと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 ぎょっとした顔で、ルーカスが見てくる。

 何かおかしかっただろうかとエヴァは首をかしげた。


「ははは、俺は第一騎士団の団長 ランバルド・バーリクヴィストだ。丁寧な挨拶をありがとう。小さいのに偉いな!ついこの間まで、孤児だったとはとても思えん!…しかし、これだけ綺麗な顔にそのマナー、生粋の貴族と言われても遜色ないな」


 黒髪の男性は豪快に笑う。


「…本当だ。この間森であった時とは、別人のようだな…。……失礼。挨拶が遅れたな。ウルリク・ボードストレームだ。第一騎士団の副団長だ」


 エヴァはユーハンに頭に叩き込むように言われた、貴族名鑑を思い出す。確かバーリクヴィストは侯爵家、ボードストレームは公爵家だったはずだ。ちなみにまだ侯爵家までしか覚えていない。


「良き出会いに感謝します」


 エヴァはそう言って、もう一度お辞儀をする。


「参ったな、兄上はたった数日でここまで教え込んだのか!すごいなエディ」


 ルーカスが笑いながらエヴァの髪をくしゃくしゃにする。

 勢いが良すぎて目がまわりそうだ。

 アワアワしていると、ランバルドが、笑いながら言う。


「騎士団では、そんなに丁寧に話さなくていいぞ。そもそも、荒事に従事している人間だからな」


 ランバルドは子ども好きなのだろうか。笑うときつめの目元が途端に優しくなる。

 エヴァが問うようにルーカスを見上げると、ルーカスは苦笑しながら言う。


「語尾にです、ますがつくくらいの丁寧語でいい」


 エヴァはこくりと頷いた。


「俺も養子だ。エディと一緒だな。もともとは男爵家の出なんだ」

「一緒……なんですか」

「あぁ。公爵家の養子である以上やっかみなんかも多い。頑張れよ。何かあったら力になるからな」

「ありがとうございます」

「さぁ、挨拶はそのくらいにして、本日の本題に入ろう。時間もあまりないんだ」


 ウルリクがパンパンと手を打つ。



 広い演習場の片隅に、まずはマルガレーテが連れてこられた。

 ルーカスがヒラリとその背に乗る。


「さて、ではエディ、マルガレーテに演習場のあちらの壁まで言って戻ってくるように指示してくれるか?」


 ランバルドにそう言われると、エヴァは首をかしげて答えた。


「マルガレーテは、思考がぼんやりしてるから、お願い聞いてくれるか分からないですよ?」

「あぁ、それでも言い。取り敢えず試してくれるか?」


 エヴァは頷き、マルガレーテに近づいていく。


「やぁ、マルガレーテこんにちは」

『……』

「あちらの壁まで行って戻ってきてくれるかな?」

『…リョウカイシマシタ』


 いきなり動き出したマルガレーテに、馬上のルーカスが慌てる。急いで手綱を引き、マルガレーテに止まるように命令する。しかし、マルガレーテは止まらなかった。

 壁に行って戻ってくるまで、ルーカスが何を言っても、しても駄目だったのだ。


「これは……」


 これには、ランバルドもウルリクも絶句する。


「まさか、使役者(マスター)の命令より上位になるのか…」


 戻ってきたルーカスは、悲しそうな顔をしていた。

 戻ってきてからはまた、マルガレーテは、ルーカスの指示にしたがった。

 そこから、騎獣をどんな獣に変えても駄目だった。

 エヴァが指示した命令を遂行するまで、魔道具の強制力をもってしても、騎獣を従わせることができなかったのだ。

 また、単純な歩行だけではなく、複雑な障害物を飛んだり、途中で指示を変更するなど、変則的な指令を出してみりもしたが、それも難なく遂行した。

 調教が終わっていようが、慣らし中であろうが、どの騎獣も素直にエヴァの命令を聞いた。全く何の道具も使わずに。


 実験が終わる頃にはランバルドは頭を抱え、ウルリクは眉間を押さえ何か考え込んでいた。

 悪いことをしただろうかと不安になり、エヴァはルーカスを見上げる。

 ルーカスは苦笑して、エヴァの頭を撫でた。


「お前があんまりすごいんで、みんなビックリしてるだけだよ」


 腑に落ちないまま、エヴァは騎士団の魔獣舎を後にした。



 帰り道、エヴァは来た時のように馬車に揺られていた。

 ルーカスは普段帰りが遅いが、今日はエヴァと一緒に帰る許可が出たらしく、一緒だった。


「今日はありがとうな。しかし吃驚した。もうマナーは完璧じゃないか!……兄上の指導は厳しいだろう」


 そう言っていたずらっぽく笑う。


「そんなことない。新しいことを知るのは楽しいよ」

「エディはすごいな!兄上は学者だからか、色々なことに詳しいんだが、合理的で面倒くさがりな面があるから、説明が足りなかったり、たくさんの課題を出されたりして、エディが勉強に着いていけるか心配してたんだ。」

「ユーハン、学者なの?公爵の補佐をする人だって言ってたよ?」

「あぁ、兄上は家を継ぐから父上の補佐をしている。ただ、勉強が好きで、昔は王都の貴族学院に行かず、学者の領にある学園都市に留学するほどだったんだ。学者の資格も持ってるんだぞ」

「へー」


 そこで、ルーカスは決まり悪そうな顔をして言う。


「悪いな、連れてきたのは俺なのに、殆ど面倒見れなくて…」


 エヴァはふるふると首を降る。


「そんなことないよ。良くしてもらってる。それより、ルーカスは、血が繋がってない僕にも親切なのに何故ラーシュには冷たいの?」


 ルーカスは何か渋いものを口にしたように言葉を濁す。


「……なんだよ、急に。子どもには分からない色々な事情があるんだよ。この話しはこれで終わりだ」

「……ラーシュだって、子どもだよ?」


 ルーカスは聞こえない振りをした。

 あとは二人とも屋敷に着くまで黙っていた。



 ◆



「いや、しかし。想像以上にヤバかったな」


 夜の執務室にて、酒を傾けながら、ランバルドはため息をつく。ここで酒を飲むのは本来ならあまり褒められた行為ではないのだが、今日は飲みたい気分だった。


「一度に声をかけられる魔獣は一体でも、事前に複数の魔獣に指令を与え、一気に仕掛けられたら……一溜りもないな。オールストレーム公爵家に力が傾きすぎだ」


 ウルリクも頷きながら答える。


「……あぁ。まさか、使役者(マスター)の命令より上位の命令を下せるとはな……」

「何とか早急に騎士団に取り込む方法はねぇかな…」


 ランバルドは何とはなしに、来年度の入団希望者リストをめくる。ふと、何かに目を止めニヤリと笑った。


「おい、見ろよ」

「…ほう、これは」


 この二人、実は同期である。直感で進むランバルドと冷静なウルリク。性格は真反対だが不思議と見習い時代から気があった。ランバルドがきっかけを作り、ウルリクの戦略を練る。


 入団者リストには、ラーシュ・オールストレームの名前があった。

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