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守護者の乙女  作者: 胡暖
三章

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44.戸惑い

「…何がどうなっているんだ?」


 ラーシュが首をかしげるのも無理はないとエヴァは思う。一昨日の事件の事情聴取を受けていたところ、突如団長のランバルドが王であるマクシミリアンより呼び出しを受けて中座したのだ。


 早朝に寮の自室に戻ってきたエヴァとラーシュは、ユーハンにもらった魔道具(おまもり)を持って、再度証言の打ち合わせをした。矛盾するといけないからだ。そして、昼食をとった後、改めてランバルドとウルリクより、一昨日の事件について詳しく聞かれていた。その最中に、ランバルドに呼び出しがかかったのだ。

 その後、二人は副団長のウルリクに、残りの説明をし、団長の執務室を辞してきた。

 特に説明もなく、慌ただしくランバルドが出て行ったことは二人の間にもやもやとしたものを残していた。ラーシュには、伝言を受けたランバルドが、ちらりとエヴァを一瞥したことも気にかかっていた。


「あ…」


 寮に戻ってきた二人は、玄関にたたずむ人影に足を止める。

 このタイミングでこの人が来るということは…。エヴァの心臓がどきどきと嫌な音を立てる。


「お待ちしておりました。お嬢様がお呼びです」


 丁寧に頭を下げたベルタに、エヴァは困惑してラーシュを見上げた。眉根を寄せこちらを見ているラーシュと目が合った。戸惑いながらもエヴァは口を開く。


「えと…僕に用事みたいだから…行ってくるね」

「……気を付けて行けよ」


 短く言葉を交わしエヴァはベルタについて行く。


 ◆


「まずいことになったわ」


 部屋に入ると単刀直入に、アンナリーナはエヴァに切り出した。


「えっと…何が?」

「あなた、このままだと殺されるわよ」


 アンナリーナの言葉は物騒で意味が分からない。エヴァは首をこてんとかしげる。


「誰に?なんで?」

「神殿長のクリストフ・バックマン。彼が、あなたを異教徒だと騒ぎ立てたの」

「…それって殺されるほどの事?」


 エヴァは目をしばたかせる。アンナリーナは苛々をぶつけるように閉じた扇で自分の手のひらをバシバシと叩く。痛そうだなぁ、とぼんやりエヴァが見ているとアンナリーナはびしっとエヴァの眉間に閉じた扇を突き付ける。


「本来ならば違うわ。何がどうなっているか分からないけれど、あなたに対して悪魔裁判を起こすとわめきたてているようなの。……そして、それをお父様は止めようとしない」

「悪魔裁判?」


 アンナリーナは重々しくうなずく。


「今時馬鹿らしい、前時代的な儀式よ。悪魔裁判というのはね、異教徒や教義に従わない者を弾圧するために神殿が行う…裁判とは名ばかりの公開処刑よ。前回の悪魔裁判が行われたのは200年も前」

「えぇぇ、それを僕に?」

「そう。そんな意味のないものを行えるほど、今の神殿の力は強いということ。そして、あなたの力が危険視されているということ。……でも分からないわ。その力を取り込みたいがために、わたくしとあなたの婚約まで整えたというのに。なぜ急に…」


 アンナリーナも余裕がないのだろう。淑女らしからぬ態度で、左手の親指の爪を食いちぎっている。

 エヴァもなぜそんなことになっているのかさっぱりだ。部屋の窓を少し開けてラタを呼ぶ。


「ラタ。なんでそんなことになっているか分かる?」

『さぁ?エヴァの周囲と、騎士団の中しか見てなかったからな。情報収集の範囲を広げるか?』

「そうだね、お願い」


 ラタにも分からないらしい。エヴァはラタを解放すると、再びアンナリーナに向き直った。一度部屋を辞していたベルタが戻ってきていてアンナリーナに何かを伝えている。話を聞いたアンナリーナもエヴァに視線を戻した。


「ベルタに見てきてもらったところ、ベルマン公爵も動いているみたい」

「ベルマン公爵って…リクハルドのお父さん?見てきたって…」

「お父様は緊急で関係者を招集してオールストレーム公爵を王宮に呼び出したの」

「え?今?」


 もしかして、ランバルドもそのために中座したのであろうか。エヴァは話の展開に目を白黒させる。


「でも、何でリクハルドのお父さんが?」

「オールストレーム公爵を追い落とすまたとない好機だからでしょうね」

「えええぇぇ?」


 なぜ自分の信仰の話が公爵家の進退にかかわるのか全く分からない。しかし、ユーハンも言っていたではないか。公爵家の瑕疵として難癖をつけられる可能性があると。

 でも、とエヴァは思う。

 その時ユーハンはこうも言っていた。婚約の破棄を王は許さぬだろう…と。

 アンナリーナも意味が分からないと言っているように、最近急に、状況が変化したということだろうか。何が変わった?エヴァは必死に考える。


「とにかく今はこうなった原因でなく、どう対処するかを考えるべきよ」


 アンナリーナの言葉に、エヴァは顔を上げる。


「このままいけばどうなるの?」

「あなたは、殺され、わたくしはベルマン公爵家の花嫁となる」

「え?」

「そういうことよ、ベルマン公爵が動くということは」


 アンナリーナはぎりぎりと扇を握りしめる。


「今はまだ時じゃない。困るのよ、あなたに死なれたら」


 アンナリーナの素直な言葉に、エヴァは思わず笑う。


「そうだね、僕もまだ死にたくないや」

「時間が無いわ。わたくしは王宮内の動きを探るわ。いいこと?あなたも、とにかく情報を集めるのよ」


 エヴァはこくりと頷いた。

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