41.暗躍
すみません、前話(40)の冒頭少し追加しました。
この話は時系列的には、40話の王の話の部分と同じ時です。
王への謁見を終え、三人は憤っていた。
王宮を辞するまで我慢ができずに、人気の少ない中庭で輪になる。そこで不満をぶちまけた。
「全く、王は我ら臣下をなんだと思っておられるのか」
「おっしゃる通りです。聞き流すばかりで、真摯に受け止めようという姿勢が感じられませんな」
「やはり我らが戴くには値しないということでしょう」
「…おやおや、王宮内で聞こえるには穏やかではない会話ですね」
突如乱入してきた声に、王宮で話すには少々障りのある話をしている自覚のあった、クロンヘイム侯爵家、ブラント伯爵家、ハーララ子爵家の当主はぎくりと肩を竦め、声の方を振り返った。そこにいたのは、ベルマン公爵家の当主コンラード・ベルマンだった。クロンヘイム侯爵は気まずさを誤魔化すように声を張る。
「ベルマン公爵ではありませんか。本日はなぜ王宮に?」
「いえね、うちも息子が騎士団の寮で攫われかけまして…。倅の無事な姿を確認して、折角なので少し足を延ばして妹に会いに来たんですよ」
そうにこやかに言った後、ベルマン公爵は少し表情を改め、三家の当主にお悔やみを言う。そして、さらに言葉を続けた。
「見たところ、王への陳情の帰りというところですかな?お三方の憤りは最もでしょうな。助かったオールストレーム公爵家の息子は養子とは名ばかりの元孤児だというではないですか。そのような者より、ご子息方の命が軽く扱われるなど、許しがたいことです」
親切気な顔でそう言うベルマン公爵に、三家の当主は身を乗り出す。寄り添うような声をかけられたことに調子づき、溢れ出すように各々が不満をぶちまけた。三家の当主の言うことをまとめると、今回の事件を起こしたのは、自分たちの息子ではなく、むしろオールストレーム公爵家の養子なのではないか、そうでなければ、自分たちの息子が死ぬほどの爆発で、無傷で生き残れるわけがない、ということだった。
ベルマン公爵は、その責任転嫁も甚だしい言い分を決して笑い飛ばすことなく、穏やかに頷きながら受け入れる。
「きっとそうでしょうとも。そもそも孤児から公爵家の養子となり、さらには王女の婚約者になるなど…何か工作を行っていなければできることではない」
「おぉ、ベルマン公爵!お判りいただけますか!」
「もちろんですとも、私もあの者の正体を暴きたいと考えているのですよ」
「我が息子も常々申しておりました。礼儀も知らず、技量も足りぬのに、魔獣を操り訓練をさぼるばかりだと。そんな調子ではこちらが舐められると、実力と生まれの差を分からせてやるのだと…」
そこで、息子の死を思い出したのだろう。クロンヘイム侯爵は声を詰まらせ目に涙を浮かべた。
ベルマン公爵は気遣わしげな顔を崩すことなく話しかける。
「無念なお気持ちお察しいたします。…もしよろしければ、微力ながら、お手伝いさせてください」
「ありがたい!!なんと心強いことか。ベルマン公爵のお心遣い、感謝いたします」
三家の当主は感激する。
ベルマン公爵はその様子に鷹揚に頷きながら、心の中でほくそ笑んだ。オールストレーム公爵家の力をそぐのに、味方は多いに越したことはない。
現王であるマクシミリアンは神族の子ではない皇帝として、貴族の反発を抑えるため、九大公の内の三公爵家からそれぞれ妻を娶った。その時は、均等だった現王朝への影響力が、カッセル公爵家出身の母を持つヘンリックが、皇太子として定められた際に一度崩れた。将来の王母の生家としてカッセル公爵家が直接的に力を持つことになったのだ。そして、今度は同腹の王女、アンナリーナが降嫁することでオールストレーム公爵家もカッセル公爵家と王家との繋がりを強めた。まさか、オールストレーム家が動くと思っていなかったベルマン公爵は焦った。
特例を使用しオールストレーム家の養子が騎士団に入る、という情報を事前に手に入れ、同い年のリクハルドを騎士団に送ったまでは良かった。しかし、そこから、どの様に切り崩すか攻めあぐねていたのだ。
――――さて、どのようにするのがいいかな。
思わぬところで良い手駒を手に入れた。成果に満足しながらほくほくとした気持ちで帰った。
そしてその翌日のことだった。
『異教徒であるオールストレーム公爵家のエディを悪魔裁判にかける』
神殿から、オールストレーム公爵家にそう告示が出たとの噂が貴族社会に一気に広がった。ここまで一気に噂が広まるからには先導者がいるはずだった。
だが、それは誰でも良い。
ベルマン公爵は笑いが止まらなかった。今、確実に自分への追い風が吹いている。機を逃さず一気に追い落とす。
その瞳をぎらつかせたのだった。




