37.運命の日2
オリヤンの声に、凍り付くエヴァとラーシュ。
そしてエリアスとパトリックもむくりと起き上がる。
「…そんな馬鹿な!まだ動けるのか!?」
「…三人とも何か、魔道具を、持っているみたい」
オリヤンに喉元に剣を突き付けられたまま、エヴァはラーシュの独り言のような疑問に答える。
「おい!この孤児が傷つくのが嫌ならお前は手を出すなよ」
ラーシュを睥睨しながらオリヤンがそう言うと、エリアスとパトリックがラーシュを拘束するべく動き出した。
ラーシュが抵抗するそぶりを見せると、オリヤンがエヴァを盾に牽制する。
「くそ…!」
「はは、策は尽きたようだな!あの魔道具は1回しか使用できないんだろう?…お前はここで、この孤児が無残に死んでいくところを指を咥えて見ているんだな!!」
そう言うと、オリヤンはエヴァを地面に引き倒し、立ち上がる。
「やめろ…!」
オリヤンはエヴァの頭を力一杯蹴り飛ばす。
「ぐ…!」
「やめろ!!」
痛みに呻くエヴァ。ラーシュが制止するがオリヤンは気にもとめない。
そして、エヴァの頭を靴で踏みつけ固定すると、刀身を下に向けた剣をそのまま頭上まで高く振りかぶる。
エリアスとパトリックに両腕を拘束されたまま、ラーシュは必死で首を振る。
「やめろ、やめろ、やめろ!!!」
ラーシュを見据え、ニヤニヤとした笑顔を向けるオリヤン。
そして、振りかぶった剣をエヴァ目掛けて振り下ろそうとする刹那。
ラーシュの体から、ぶわっと魔力が膨れ上がった。
膨れ上がった魔力はそのままにラーシュの周囲を巻き込んで爆発した。
辺りを覆う激しい砂ぼこりをもろにくらって、身動きがとれないエヴァは咳込む。オリヤンも咽ているが、エヴァを踏みつける足はそのままだ。
身動きできないまま、エヴァはラーシュの方を見ようと必死に目を凝らした。
「げほ、げほ…何が起きた…!?」
ゆっくりと砂ぼこりが消えていく。
そこにはラーシュだけが立っていた。
「な…!エリアスとパトリックは…!?」
狼狽するオリヤンを、ラーシュがじろりと睨め付ける。
体から、魔力がほとばしっている。
ラーシュの腕に着いた腕輪が半分ほどに数を減らしていた。
「…お前も消し飛びたくなかったら、さっさとエディを離せ」
オリヤンがぎりっと奥歯をかみしめた。
「はっ…そんな脅しが通じるか!」
ぐっと、エヴァを踏みつける足に力を籠める。
「俺がこの孤児を殺る方が早い!」
オリヤンはそう言うや否や、エヴァに向けて思い切り剣を振り下ろした。
その瞬間、ラーシュを取り巻く魔力がまた一段濃さを増す。
「がぁぁぁああああ!」
ものすごい魔力の塊がこちらにぶつけられる。
そのあまりの衝撃に、エヴァの上でオリヤンが成すすべなく消し飛んだ。
またしても、辺り一面の視界を奪う砂ぼこりに、エヴァは激しく咳込む。
「ああああああああああああああああああ」
オリヤンが消滅したことにも気づいていないようで、ラーシュは魔力をあちこちで爆発させている。
エヴァは目を見張った。
「…大変だ!我を失っている」
もはや敵味方、見境なしなのだろう。
ラーシュの腕輪はすでに一つも残っていない。
「止めないと…!」
エヴァはよろよろと起き上がると、ラーシュの方へと近づいていく。
――――抑制の魔道具がなくなって、魔力の制御ができない状態なのか。
幸いにも、ラーシュは溢れる魔力の塊を闇雲に爆発させているだけで、特に何かを狙っているわけではない。
エヴァは飛んでくる魔力の塊を受け止めながら、着実にラーシュの元まで歩いていく。
そして、エヴァはそっとラーシュを抱きしめた。
ラーシュはバタバタと暴れたが、エヴァはその手を離さなかった。
背中に手を回し、ぎゅっとしがみつく。
ラーシュから膨れ上がる魔力によって、エヴァとラーシュは淡い光に包まれた。本来であれば、そのまま爆発するはずの魔力は、ゆっくりとしかし確実にその勢いを失っていく。
二人の体を包む光が収まってきたところで、にわかに正気に戻ったのであろうラーシュに突き飛ばされた。
「…!お前…!!」
ラーシュの顔は驚愕に染まっている。
「なんで、なんで……何ともないんだ?俺が…」
そして、ラーシュは両手を見たあと顔を覆った。
「力を制御できないんだ…俺は傷つけることしかできない!こんなの……ただの化け物だ…!!!」
エヴァは、ラーシュにそっと近づく。
「見て、ラーシュ。僕が怪我をしている?今、君の魔力はどうなっている?」
エヴァの問いかけに、ハッとしたようにラーシュは顔を覆う手を外す。そして自分の魔力の流れを確認した。
「魔力が…減っている?いつも発散しても発散しても溢れそうだったのに…!」
エヴァは、ラーシュにいたずらっぽく微笑む。
「…君が秘密を教えてくれたように、僕の秘密も教えてあげる」
そして右手を上げる。
ほわほわと魔力の塊をいくつも作り出し、浮かべていく。
小さな魔力の塊は球体になり、淡く発光しながら漂っていく。それは幻想的な光景だった。
その魔力の塊をラタが、ぱくりぱくりと食べている。
「…お前、魔法が使えるのか?……いや待て、お前平民じゃ…」
エヴァは魔力の塊を作り出す手を止めて、ラーシュににこりと笑ってみせた。
「これは君の魔力だよ。平民の僕には魔力はない。でも、僕はね、魔力を取り込んで自分の魔力として使えるんだ」
「そんな……馬鹿な…!」
「あはは、でも仕方ないよね。出来るんだから」
そしてラーシュの両手を自分の両手でぎゅっと握った。
「君が誰かを傷つけることがないよう、僕が側にいる。魔力が溢れそうになったら、僕が吸収してあげる。もし暴走したって僕なら、大丈夫。君を止められる」
事態がうまく飲み込めず、ポカンとした顔のラーシュにエヴァは真剣な顔をして言った。
「二人なら、怖くない」
ラーシュは、エヴァの言葉にゆっくりと目を閉じた。
----あぁ、コイツが欲しい。性別とか、年齢とか、そんなものどうだっていい
それは強烈な渇望だった。
ラーシュは神が自分のためにエヴァを遣わしてくれたのではないか、そんな気持ちにすらなった。
家族愛として、ゆっくりと育ててきた感情は、唐突に花開いたのだ。
----コイツが側にいてくれるだけで、俺は人間になれる。
ぽろりと両目から涙を流すラーシュに、エヴァはおろおろと慌てる。
「な、泣かないでラーシュ」
「泣いてない」
「え?えええ?」




