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守護者の乙女  作者: 胡暖
第二章

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32.仲の良い婚約者

「わたくし達があんまりお姉さま方のお時間を頂戴したら申し訳ないですわ。時間は有限ですもの。ねぇ、エディ、そうは思いませんこと?」


 いきなりアンナリーナに話しかけられ、エヴァははっと視線を戻した。取り敢えずへらりと笑ってみる。アンナリーナからは仕方ない子という呆れた視線をもらってしまった。

 アンナリーナは気を取り直して、ヴィオラとサンドラに向き直る。


「では、失礼致しますわ」


 お茶会は基本立食形式なのだが、相手を探す必要の無いアンナリーナには特別に席が設けられていた。エヴァとアンナリーナが用意された席に着くと、ベルタが二人分のお茶とお菓子を用意してくれた。


「はい、エディ。あーんしてくださいな」


 アンナリーナは、自分の皿に乗ったケーキをフォークで丁寧に切ると、エヴァに差し出した。

 エヴァは目を丸くしたが、きっとこれが仲睦まじさを見せつける手なのだろうと、おとなしく口を開けた。甘酸っぱい味が口の中に広がる。人に食べさせてもらうなんて幼子みたいだなぁ、とモグモグしていると、向こうの方でラーシュがあんぐりした顔でこちらを見ていた。なにやっているんだ、お前は、という声がこちらまで聞こえてきそうで、エヴァは苦笑した。


「エディは私に食べさせてくれませんの?」


 と、アンナリーナが可愛い顔でこちらにねだるので、エヴァも自分の皿のケーキを小さく切ってアンナリーナに差し出す。

 その瞬間、バシッと手に何かがぶつかりフォークを取り落とす。


「…ラタ?」


 エヴァは小さくつぶやくと、何食わぬ顔でケーキを机の下に払いのける。

 そしてにっこり笑って、ベルタを見上げた。


「すみません。ケーキを落としてしまったので、新しいものを頂けますか?」

「畏まりました。すぐご用意いたします」


 アンナリーナが扇を広げ内緒話をするように、エヴァに顔を近づけてくる。

 楽しそうな顔とは裏腹に、緊迫したような声だ。


「…一体、どういたしましたの?」

「…よく分からないけど、ラタが来た。食べるなってことだと思うんだ。……毒かな?」

「愚かな…!こんな公の場で…」

「オリヤンかな?」

「…この場の仕切りは王族ですわ。そんなことができるのは…恐らく」

「んー。そんなに王女様方に嫌われたか―」


 エヴァは苦笑する。ラタの獣の嗅覚には感謝しかないが、まさか命まで狙われる事態になるとは…。

 アンナリーナは、扇を閉じて姿勢を戻した。


「お菓子はもう十分ですわね、わたくし、あなたに城の中を案内したいわ。まだじっくりご覧になったことないわよね?」

「えぇ」


 エヴァは、アンナリーナの問いに頷く。

 そして席を立つと仲睦まじく腕を組んで歩きだした。

 人気のなくなったところで、アンナリーナがため息を吐く。


「全く、おバカさんだとは思ってましたけど、こんなに人目のあるところであんな暴挙に出るなんて…!」

「まぁ、未遂だったからよかったよ。僕を亡き者にするために招待してくれたのかな?」

「そこまでおバカだと思いたくありませんわ。けど、恐らくは体調を崩す程度のもののはず…公の場で貶めようとしたのだと思いますわ」


 そっか、とつぶやきながら、怖い人たちだなと思う。オリヤン達といい王女達といい、どうして彼らはこうも人を傷つけることに躊躇いがないのだろうか。

 分からないなー、とエヴァは頭を掻く。



 アンナリーナに連れられ、何度か角を曲がると外に出た。城の中庭というのだろうか、四方を城に囲まれた中にぽっかりと開いた空間があった。そこに、神殿が立っている。

 婚約式で一度訪れたことのある場所だ。

 アンナリーナによると、この神殿は王族が神に祈りをささげるために使う神殿らしい。また、王族の婚約や結婚もここで行う。


「あら、やはり神殿が気になりますのね。懐かしいかしら?」

「…多少は。でもやっぱり僕のいたところとはだいぶ趣が違うから…王城にあるから豪華なのかな?」


「おや、アンナリーナ様ではありませんか。どうかなさいましたか?」


 エヴァとアンナリーナが話していると、横から声をかけられた。

 神殿長のクリストフ・バックマンだ。


「神殿長、御機嫌よう。婚約者のエディに王城を案内していたのよ」

「ほう…そうですか」


 クリストフは冷たい目でエヴァを見下ろした。


「王女のお手を煩わす出ないぞ」


 婚約式の時はちらっとしか顔を合せなかったけれども、神殿長もなかなかエヴァに思うところがありそうだ。エヴァは肩をすくめることで答える。クリストフは少しイラっとした顔をした。


「そうだ、神殿長。折角ですので、神殿内を見学させていただけないかしら」

「それは…もちろんかまいませんが…」


 アンナリーナの無邪気な頼みを断れなかった、クリストフに連れられ神殿の中に入る。

 神殿に入ってすぐ、正面には羽根の生えた男性神の銅像が立っている。

 これが王族と血縁のある神の像だろう。エヴァはふと疑問に思ってアンナリーナに尋ねてみる。


「そういえば王族は、神族の血をひいているということですが、()()()()()()の血をひいていらっしゃるのですか?」

「え?」

「……?神族は、2つの種族がいらっしゃいますよね?」


 アンナリーナはきょとんとした顔をし、クリストフは顔をこわばらせた。


「そなた何を言っておる。我らが信仰するアイノア教では、始祖ユマーラ様とその系譜であられる神々のみを神と認めておる……そなた異教徒であるな?」

「そうですね。僕の育った神殿ではヴァン教を信仰していました」

「なんと穢らわしい……!」


 そういうと、クリストフは口を押さえて出ていってしまった。

 エヴァは呆気にとられる。困ってアンナリーナを見る。

 アンナリーナも少し険しい顔をしていた。


「私たち貴族は、もれなくアイノア教を信仰しているのよ…まずいことになったかもしれないわ…」



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