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守護者の乙女  作者: 胡暖
第二章

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28.協力

「そう…それは厄介ね。こちらも少し、面倒なことになっているのよね」


 アンナリーナは細い指を絡めたカップをそっと置いて扇を広げた。

 その後ろに控えるベルタは息子が怪我をさせられそうになったことを聞いて、さすがに眉を寄せている。


 見習いは、3日間訓練をこなすと1日休み、というスケジュールになっている。

 ただし、獣舎の世話は飛ばすわけにはいかないので、午前中だけは交替で出ることになる。

 昨日の今日でお休みだったエヴァは、さっそくアンナリーナに相談に来ていた。


「面倒なこと?」

「えぇ。現王には三人のお妃さまがいることは知っているわよね?」


 エヴァが頷くのを見て、アンナリーナは言葉を続ける。


「第二妃の娘…サンドラとヴィオラというのだけれど…わたくしが婚約してからひどく煩いのよね」

「それは……僕が孤児だから?」


 アンナリーナはいつもは眠そうな目をぱっちりと開き、首を傾げた。


「あら、エヴァ。あなたそんなに卑屈な人だったかしら?」

「……騎士団で毎日のように言われていればね」

「ふふ。あなたを選んだのはわたくしよ。恥じることなく胸を張りなさい。生粋の貴族であっても選ばれないのだから。…あの二人が煩いのは、もともとよ。ただ、自分たちがいつまでたっても降嫁先が見つからないのに年下のわたくしが先に婚約したことが気に入らないのよ。瑕疵とも言えないことを引き合いに出して騒ぎ立てるほどにね」


 エヴァはこてんと首をかしげる。


「じゃぁ、アンナは何に困っているの?」

「困ってはいないわ。面倒くさいのよ」


 アンナは扇を閉じてぱしぱし自分の手を叩く。

 そして、またばっと広げて口元を隠した。


「そうね。先ほどのエヴァの困りごとだけど。わたくしがランバルドに宛てて、婚約者の身を案じている旨をしたためた手紙を書きます。でも、それだけでは弱いわよね?」


 エヴァは、こくりと頷く。


「要は、首謀者のオリヤンを抑えられればいいのよ。だから、わたくしとあなたが仲睦まじいところを実際に見せて、この婚約は政略ではなく恋愛の感情にて成り立っていることを知らしめるのはどうかしら。エヴァに手を出したら公爵家だけでなく、王女が出て来るぞ、とね」

「……アンナの好きな人に誤解されない?」

「むしろ、政略でなく、恋愛感情で結ばれたものであれば、二人の心が離れたといって解消しやすくなるわ。この設定を広めた方がのちの禍根が少なくてよ」

「そっか…でも、どうやってオリヤンに二人の仲を見せるの?」

「ここで、最初の面倒事よ。……サンドラとヴィオラ主催のお茶会に招待されているの。…オリヤンというのは侯爵家の出なのでしょ?二人のお相手が決まっていない以上、未婚の高位貴族は必ず呼ばれているはずよ」


 エヴァはなるほどー、と間延びした声を上げる。

 アンナリーナはふうとため息を吐く。


「決して楽しい会ではないけれど、のらりくらりとかわすのも面倒で…ここらで、相手の思惑に乗ってあげるのもいいかしらね」


 アンナリーナは心底面倒くさそうであったが、エヴァは何かこちらから仕掛けることができる提案に顔を明るくした。お礼を言って城から下がる。



 次の日、若干明るい顔で午前中の雑用を終えたエヴァは、そのまま団長のランバルドに呼び出され、首をかしげながら執務室に向かっていた。

 ノックするとすぐに返答があり、エヴァは中に入った。

 演習場にある団長用の執務室は城にあるものとは違って、仕事をするためというよりは、仮眠や休憩、作戦会議の場として使われているとのことで、中には10人程で囲めそうな大きなテーブルと椅子があり、書類一つなくさっぱりとしていた。続き部屋には、休憩するためのベッドがあるのだろう。

 その大きなテーブルには、ランバルドとウルリク、そして宮廷魔道具士長のバルトサールが座っていた。

 全員見知った顔だったので、エヴァはぺこりとお辞儀をした。


「悪いな、エディ。昼も食ってないんだろう?まぁ、座れ」


 ランバルドに促され、席に着く。

 ランバルドは頭をがりがり掻きながら話始めた。


「あー。対応が遅くなってすまなかったが、お前の体には騎士団の訓練は過酷すぎるのではないかという陳情が上がっていてな。騎士団の練習メニューをお前一人のために変えることはできないのだが、午後の鍛錬の日を減らそうと思ってな」


 そう言って、ちらりとバルトサールを見る。

 バルトサールは、前のめりで話し出した。


「そこでね、君には、僕の研究に協力してもらいたいと思うんだ!」

「協力?…ですか」


 バルトサールはブンブン首を振る。


「前に会った時も言ったよね?魔獣の研究を手伝ってほしいんだ!」


 エヴァは、はぁと吐息のように相槌を打つ。

 魔獣の研究とは具体的に?

 疑問があふれているエヴァに気づいたのだろう、バルトサールは魔道具士室で行っている研究の説明をしてくれる。


「まずは、騎士団で皆が育てているスレイプニルはどうやって手に入れていると思う?」

「そういえば、そうですね」

「全部野生では賄えない。だから、野生の(スレイプニル)を捕まえてきて、牝の馬と交配している。つまり、完全な魔獣(スレイプニル)ではない。これを少しでも、野生の魔獣に近づけるようにする研究」


 エヴァは、ふんふんと頷く。通りで団員全員に仔馬が行き渡るわけだ。


「次に、魔獣の能力の研究。君にはこれを手伝ってもらいたい。騎士団ではスレイプニル他、色々な魔獣を捕まえてきて使役している。現状は使役の魔道具を使わないといけないが、馴らすまでにかなり手間暇がかかること、魔道具のせいで魔獣の能力が100%引き出せないことが問題なんだ。君には魔道具なしで、魔獣に何ができるのか聞いて、実際に見せてもらいたい」

「わかりました」


 それなら自分にもできそうだ、と感じ頷く。


「では、エディ。今日からは2日訓練1日魔獣の研究のローテーションで午後は回すようにしてくれ」


 ランバルドもほっとしたように頷く。

 エヴァもほっとした。1日とはいえ、あの過酷な訓練がなくなるのは大きい。

 エヴァは部屋にいる三人に御礼を言った。

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