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守護者の乙女  作者: 胡暖
第二章

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27.悪意

 エヴァは部屋から出ようとしてため息をついた。まただ。

 ドアの前には動物の死骸が置かれていた。小型の生き物で、大きさからすると兎ぐらいだろうか。首が切り取られているので判別はできない。

 嫌がらせのためにわざわざ命を奪ったとは思いたくないが、どちらにせよもうこの生き物の命は元には戻らない。肩を落としたエヴァは、そっと扉の前の生き物を抱き上げる。せめて埋めて弔ってやろうと思ったのだ。

 とぼとぼと歩きながらこれまでのことを思い出す。

 最初はドアだった。恐らく部屋の中に入ろうとしたのだろう。しかし、うまく開けられなかった。腹いせに、ドアノブとドアにはズタズタに引っ掻いたような傷がつけられ、真っ赤な絵の具がまき散らされていた。

 次は、窓から入ろうとしたのだろう。窓ガラスが割られた。その時間は普通なら皆、大浴場に向かう時間だった。しかし、大浴場を使用しないエヴァは部屋にいたのでびっくりした。

 犯人が登ってきたところで、ラタが顔めがけて飛び付いた。ビックリした犯人は登ってきたロープを半ば滑り落ちる速度で落ちていった。

 それで、さすがに部屋への侵入は諦めたようだ。

 代わりにこうして、エヴァの部屋の前にゴミや動物の死骸を置いていくのである。


「いい加減にしてくれないかなぁ」


 犯人は分かっている。ラタに見張ってもらっているからだ。

 オリヤンとエリアスとパトリックだ。段々とやり口があからさまで攻撃的になってきている。

 物損の件は一応団長に報告を上げている。しかし、魔獣(ラタ)を飼育していることは秘密にしているので、目撃者無し、ということで三人を抑えるには至っていない。

 そっと、寮の隅の方に生き物を埋めてやり、パンパンと手を払って食堂に向かう。

 エヴァは朝食を食べに行こうとしていたのだ。ただでさえ、少ない食欲がさらに失せた。

 食堂では、好きな小鉢を取り、パンとスープを好きなだけ皿に盛るシステムなので、エヴァは小鉢を一つと、スープを少しさらにもって、ラーシュの前の席に座った。

 ちらりとエヴァを見てラーシュが問う。


「お前、朝からどこ行ってたんだ」

「また、扉の前に贈り物が置いてあってね…埋めに行ってた」


 エヴァが肩をすくめると、ラーシュは眉を顰める。


「…最近あからさますぎるな」

「…狙うなら、直接僕を狙ってくれればいいのに」


 しゅんとするエヴァにラーシュはかける言葉が見つからないように視線をさまよわせる。


「…この後の訓練も過酷だぞ。しっかり飯は食え」


 こくんと頷いたエヴァはのろのろとスープをすすった。



 今日の午後は初めての魔獣への騎乗訓練だ。

 先輩とのペアで、交互に魔獣に乗る。エヴァはニコライの前には一頭のスレイプニルがいた。

 見習いは魔獣の調教も行うので、一人に一頭魔獣が与えられている。ルーカスのマルガレーテのようにだ。その魔獣は騎士団で正式に配属が決まってからも、ずっと相棒として過ごす。

 エヴァ達は、まだ調教した魔獣がいないので、今日はペアの先輩の育てている魔獣を使って訓練を行う。

 ニコライの魔獣は真っ白なスレイプニルだった。よく手入れされているようで、つやつやのきれいな毛並みをしている。他の団員の魔獣は黒か茶色が多い中、白色の毛並みはかなり珍しい。


「リーナだ」


 ニコライは、自慢げに胸を張る。エヴァはきょとんと眼を瞬かせる。


「…アンナの名前もらったの?」


 ニコライはギクッとした後、慌てて弁解を始める。


「お、俺がつけたんじゃない!…リーナは、最終的にはお嬢様に献上するんだ。だから、名前もお嬢様が決めた」

「…?リーナをアンナに渡したら、ニコライは騎士団で乗る騎獣はどうするの?」

「俺は近衛になって王族をお守りする予定だ。近衛は城での警護が中心で、出かける時は騎士団が付く。騎獣は必要ない」

「そうなんだ。ニコライは早くから将来のことを決めていて偉いね」


 エヴァはにっこり笑う。ニコライは気まずそうに頬を掻いた。


「近衛は、実力も家柄も必要で…まだなれると決まったわけじゃないけどな」

「そっか、がんばってね」

「ほ、ほら。喋ってないで早く乗れよ。見ててやるから。魔道具の使い方は覚えたな」

「うん」


 ニコライに促され、エヴァは魔道具の手綱を握りしめた。使役の魔道具は、使役者が指につけた指輪と、魔獣にかけられた手綱が合わさることで効力を発揮する。なので、魔獣の手綱は獣舎に返すまで絶対に離してはいけない。首輪には、幻覚の力のある魔術具がついているので、襲われることはないが、逆に一歩も動かなくなってしまうらしい。

 エヴァは手綱を握ってリーナにしゃがんでもらうようにお願いした。

 リーナはエヴァの望む通りに動き、エヴァはリーナによじ登った。

 ニコライはえー、という顔をしている。


「エディ、スレイプニルにはその鐙を踏んで乗るんだよ」

「んー。わかってるけど、僕の身長じゃ鐙まで遠いんだよ。この方が楽だ」


 ニコライはポリポリと頬を掻く。かっこよくないが、エヴァがそれでいいのなら、という顔をしている。

 エヴァは演習場を軽く一周した。魔獣は魔道具が使われているので、その上に乗りさえすれば誰でも乗りこなせる。ただし、それでは、使役者の命令によってしか動けなくなる。魔獣本来の身体能力を生かすことが一切できなくなるのだ。だから、見習いは、本当に少しずつ魔術具の拘束のレベルを下げていく調教をする。ゆえに、正式配属が決まるころには、他の人間には乗りこなせない相棒となる。

 今日は、最大レベルで魔術具の拘束レベルが設定されているので、エヴァに限らず、皆悠々と魔獣を乗りこなしていた。

 戻ってきたエヴァは、またリーナにしゃがんでもらい。その身からひらりと飛び降りる。

 そしてニコライと交代する。どうやって、拘束のレベルを下げていくのか教えてもらうためだ。

 ニコライは、リーナに乗ろうと鐙に足をかけた。


 そして、その途端、鐙が外れた。


 ニコライはバランスを崩して、べしゃっと落ちた。

 幸いにも、今日の拘束具は最高レベルで強くしてあるので、リーナはその場から動かない。

 周りで見ていた見習いたちは、笑いながら、ニコライに野次を飛ばす。

 ニコライは、頭を掻きながら起き上がった。


「てて、おっかしいなぁ。昨日乗ったときは普通だったのに」


 その様子をエヴァは厳しい目で見ていた。

 そっと、リーナに近づく。鐙は外れやすいよう細工してあったようだ。


「リーナ。昨日君の鐙に触ったのは誰?」


 リーナに囁くように問う。


『オリヤンとエリアスとパトリック』


 これは洒落にならない。

 エヴァ以外の人を巻き込むようなことをするなんて。


 ――――アンナにも相談してみようか…


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