26.嘲笑
二週間ほどの基礎訓練を経て、今日からはエヴァ達も他の団員たちと剣の訓練に入る。
この二週間でめためたに体力を削られたエヴァはげっそりとしている。
さすがに、ラーシュも疲れた顔をしている。ラーシュどころか、新入りは皆、多かれ少なかれうんざりした顔をしている。
それ以外の団員は普通の顔をしているかと思えば、そうでもない。皆一様に暗い顔をしている。
その原因だけはニコニコと笑いながら高らかに声をかける。
「さぁ、遠慮はいらん。誰からでもかかってこい!」
エヴァがニコライに聞いたところによると、これは毎年の恒例なのだそうだ。
団長ランバルド直々による実践型の訓練。普段、ランバルドが剣を交えるのは副団長のウルリクなど、それなりに腕の立つ人間だけなのだが、毎年、新入団員の初めての稽古だけは、だれかれ構わず、しごき倒すという。新入りに現実を見せ奮起させるという目的と、早期に見込みのある芽を見つけること、1年間の成長を見るためと、色々理由はあるらしいが。
半年間、ランバルドとウルリクの指導を受けたとは言え、打ち合い自体はほとんどラーシュが相手だった。先輩たちの顔を見るにつけ、この訓練、決して楽しいものではなさそうだ、とエヴァはため息を吐いた。
おぉ!と声を上げ、ルーカス他数名がランバルドに向かって行く。どうやら、腕に覚えのあるものから向かっているようだ。10名弱を相手に、ランバルドは涼しい顔だ。それでも、最初の方の組はまだ、うまく打ち合えていた方だった。
段々と一太刀でランバルドに倒される相手が増えていく。
エヴァは最後に残るのは嫌だな、と適当なところで向かって行く。
案の定、あっという間に剣をはじかれた。
「そこまで!」
ウルリクの声で、打ち合いが止まる。
どうやら、ウルリクは打ち合いを見ながら相手の力量をメモしていたようだ。
そこから実力ごとに組分けがされる。20人ほどずつ6組に分けられる。
ラーシュ・リクハルド・エヴァは同じ組だった。これから頑張りましょうの組だ。
ニコライは中間クラス。ルーカスは上位クラスだった。別にウルリクがそう言ったわけではないが、顔触れを見れば大体わかるというものである。
くすくすと笑う声が聞こえる。エヴァは声の方を見た。
中間クラスの上位寄りに、オリヤンの姿が見えた。歓迎会の日に突っかかってきてから、オリヤンは何かとエヴァを目の敵にしている。他の団員は一応、エヴァの家名に遠慮して、影で悪口を言おうとも、直接的に対峙することは少ない。しかし、オリヤンはクロンヘイム侯爵家の出であり、自らの出自を大変誇りに思っている。孤児から公爵に入ったエヴァの存在が許せないらしい。一度面と向かってそのようなことを言われた。めんどくさいなぁと、エヴァは頬を掻く。
オリヤンは、常に一緒にいる伯爵家のエリアス・ブラントと子爵家のパトリック・ハーララと共にエヴァを馬鹿にするように見、声高らかに悪口を言う。
「見ろよ、あいつ。最下位クラスだぞ」
「あの剣筋見たか?あんなへなちょこで、王女の婚約者なんて笑わせるよな!」
「本当だ。あんな実力で、特別枠での入団なんてなぁ」
はぁ、とエヴァはため息を吐く。オリヤンたちの方をまっすぐ見て言い返す。
「別に剣の腕がいいことが、アンナリーナ様との婚約の条件ではないし、特別枠での入団を決めたのは僕の保護者だ。そんなことを僕に言われても困る」
オリヤンたちは、エヴァに言いがかりをつけてくるくせに、エヴァが言い返すと顔を真っ赤にするのだ。どうして言われっぱなしでないといけないのか。エヴァは首をかしげる。
「お、お前堂々と。恥ずかしくないのか?」
「別に恥ずかしくないよ。僕は剣を習って半年だ。しかもまだ10歳だ。僕に負けたら君こそ恥ずかしいだろう?」
「…!」
オリヤンたちは口をパクパクしている。
ラーシュが、そっとエヴァの肩を叩く。もうよせ、の合図だ。エヴァは肩をすくめた。
その様子を見て、ランバルドとウルリクはふむと頷いた。
「お前たち、しょうもないことを言っていないで、各々鍛錬に入るように」
ウルリクはパンパンと手を叩く。
ざわついていた野次馬を含め、皆それぞれの場所に分かれた。
エヴァはラーシュと向かい合って剣を構える。
ラーシュとの打ち合いはこの半年ずっとやってきたので気が楽だ。
「お前、あいつらに目をつけられてるな…」
「ホントめんどくさいよねぇ。まぁ、でも1年の辛抱だと思うことにする」
そう、オリヤン達は16歳。今年さえ乗り切れば見習いではなくなるのだ。正式に配属が決まれば顔を合わせる機会はぐっと少なくなる。
ラーシュは、あぁと頷いた。
「だが、この1年、何があるか分からない。兄上からもらった魔道具を肌身から離すなよ」
「はぁい」




