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守護者の乙女  作者: 胡暖
第二章

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21.見習い

 城の図書室から自室に戻ろうとしていたアンナリーナの前に、スッと二人の少女が立ちはだかる。

 それを見て、アンナリーナは一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに何でもない顔をした。


「あら、お姉さま。焦って孤児なんかと婚約した愚か者が来ましたよ」

「まぁ、ヴィオラ。本当の事でもそんな風に言っては、はしたなくてよ」


 よく似た赤茶の髪をした少女二人は、顔を見合わせてクスクス笑う。それは、決して好意的なものではない。


「サンドラお姉さま、ヴィオラお姉さま。ご機嫌麗しゅう。嫌ですわ、わたくし成人間際にお相手がいないなんて、そんな悲しいことになったら困りますもの。悠々といつまでもお相手を探していられる、お姉さま方のような逞しいお心持ちが羨ましいですわ」


 アンナリーナは、扇を広げふふふ、と応戦する。


「な…っ、私たちはあなたに親切にも忠告して上げようと……!それをなんて無礼な…!」

「あら嫌だ、わたくしお姉さま方を侮辱するようなこと、何一つ申し上げておりませんわ?何かお心当たりでも?」


 後二年で成人を迎えるが、未だ婚約者が決まらないヴィオラは顔を真っ赤にして怒っているが、アナリーナはしれっと受け流す。


「まぁまぁ、ヴィオラもアンナリーナもそう熱くならないで。私たちお互いを心配し合っているということで良いじゃない」


 ヴィオラより一歳年上で且つ、婚約者が決まっていないサンドラは、その焦りなど微塵も見せず、ニコニコと笑って場をまとめようとする。

 アンナリーナは内心で青筋を立てながらも、サンドラに同意し、その場を離れようとする。


 ――――全く面倒くさい。


 直情型で思い立った言葉は全て口から出るようなヴィオラも、決定的なことを言わず、こちらを貶めようとして来るサンドラも。

 アンナリーナは、この第二妃の娘達がどうにも好きになれない。こちらは大人になって、近寄りもしないのに、毎度毎度向こうから近づいてくるのだ。


 ――――鬱陶しいったらありゃしない。


 前々からアンナリーナを目の敵にして来る二人であるが、エヴァとの婚約後は更に酷くなっている。

 アンナリーナは痛くも痒くもないが、唯々面倒くさいのだ。

 アンナリーナが、一言余計に言いたくなっても仕方ないと思う。


「お姉さま方、わたくし騎士団からも一目置かれ、公爵家の養子になった優秀な婚約者を持ててとても幸せですの。ご心配には及びませんわ。それでは失礼します」


 ニッコリと笑ってアンナリーナはその場を立ち去る。

 後ろから刺すような視線を感じるが気にしない。そんなもので、人は死なないのだ。


 ◆


「次の春より、ラーシュと共に騎士団の見習いになるように」


 アンナリーナと婚約しても、エヴァの生活は殆ど変化がなかった。婚約式以降、アンナリーナと個人的に会うのは避けているが、エヴァは相変わらず公爵家に住んでいるし、騎士団の稽古も続けている。変わらない日常が続くのかと、楽観視しかけたその時、アンディシュにそう告げられた。


「……僕まだ10歳ですけど?」


 ついこの間誕生日が来たとはいえ、見習いは13歳にならないとなれないはずだ。

 エヴァは首をかしげる。


「見習いの入団規則が更新された。騎士団の思惑に乗せられるのは面白くは無いが、城の動向が分かる手駒が増えるのは悪いことではない。お前は王女の婚約者だからな。王城に近いところに置いておくのが良かろう」


 アンディシュの説明は全く意味が分からないが、拒否権が無いことだけはわかった。


「…つまり決定と言うことですね」


 アンディシュは頷き、エヴァをさっさと部屋から出した。

 エヴァは、ため息をつきながらラーシュの部屋に向かうことにした。ラーシュは一足先に入団のための準備を始めているはずだ。何をしたら良いか教えてもらおうと考えた。もう、春まで二ヶ月も無いのだ。


「ラーシュ、僕も騎士団に入ることになったよ」

「はぁぁぁ?」


 ラーシュの部屋に入るなりそう言ったエヴァに、ラーシュは思い切り顔をしかめた。


「見習いは13歳になってからだろ?」

「規則が変わったんだって」


 ソファに座り頬杖をつくエヴァの前に、頭を押さえながらラーシュは腰掛けた。


「…大丈夫なのかよ、それ。体力も体格も全然違うのに」

「分かんないけど…決定だってさ。ラーシュにどんな準備が必要か教えてもらおうと思って」


 ラーシュが心配するのも無理はない。エヴァは、ここ半年ほど騎士団に稽古をつけてもらっているが、(女児なので)体力も筋力もない。力で押すような技は使えない。かといって、剣の腕は本当に凡庸だったので、技術でなんとかすることもできない。

 本当ならエヴァは、見習いの歳になっても騎士団は止めておこうかと考えていたくらいだった。


 ラーシュはため息をつく。


「お前は騎士寮に入るのか?それとも通いにするのか?」

「それって選べるの?」

「あぁ。通いにするなら、普段着や日用品は持っていかないから、騎士団で使う演習服を新しく誂えるくらいで良いはずだ。見習いは自分の道具もないから、武器なんかは貸してもらえると聞いた」

「ラーシュはどうするの?」

「……俺は寮に入る」

「じゃぁ、僕もそうしようかな」


 エヴァは軽い気持ちで答える。それに、アンディシュもラーシュと共にと言っていた。アンディシュは既に、エヴァを寮に入れる心積もりなのかもしれない。


「寮に入るにはどうしたら良いの?」

「申請書を書く必要がある。一枚しか貰ってこなかったから、次の稽古で副団長にもう一枚貰おう……でも、本当に良いのか?」


 ラーシュが念を押すように聞いてくる。エヴァは首をかしげた。


「なんで?ラーシュも入るんでしょ?」

「……俺は、ここにいるよりましだと思ったから、寮を希望したが……お前は居づらいかもしれない」


 ラーシュがそう言っても、エヴァはまだ分かっていないような顔をしていたので、ラーシュは言い難そうに言葉にする。


「……お前は、公爵家の養子になり、王女の婚約者になった。騎士団長達とも顔見知り。……騎士団は、家を継げない次男以降の者が多いから、お前の待遇をやっかむ奴が出てこないとも限らない。お前、一人だけ小さくて体力も無いんだ。寄って集って攻撃されたら逃げられないぞ」


 ラーシュはそこで口ごもったが、騎士団には、同性を好むものもいると言う。


 ――――自分はいざとなったら、相手をぶちのめすつもりだが、力で劣るこいつには無理だろう。


 エヴァは絶句した。考えても見なかったが、確かに年上に寄って集って攻撃されればなす術もない。しかし、それは騎士団に入る以上避けられないことではないだろうか。

 最近、気が引けて顔を出していなかったが、アンナリーナに相談してみた方が良いかもしれない。


「……少し考えてみる」


 エヴァはため息をついた。

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