15.一緒に行く?
「毎日毎日、何をしに王城に行ってるんだ」
ユーハンとの勉強が終わり、王城に行く準備をするエヴァの前に仁王立ちしてラーシュは言った。
「……何か怒ってる?」
エヴァはこてんと首をかしげて問いかける。
「別に怒ってない!……質問に答えろ」
目を三角にしながら、語気荒くラーシュは言う。言葉と顔が一致してない。
やっぱり怒ってる、と思いながらエヴァは答える。
「お茶したり、お話ししたり……ラーシュも一緒に行く?」
質問に答えながら、自分と仲良くしてくれている二人が仲良くなってくれたら楽しいな、と思いエヴァはラーシュも誘ってみることにした。
何か物言いたげな顔をしたが、ラーシュは断らなかった。
「……行く」
「アンナに聞いてみるね」
珍しいな、と思いながらラーシュを見上げると、ラーシュは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「随分仲良くなったみたいだな」
「うん!」
エヴァは嬉しそうに笑うと、小さな紙にラーシュと向かう旨を書いてラタに渡す。小栗鼠の魔獣が走り去るのを見ながらラーシュはため息をついた。
「……お前、王女の元にも魔獣を行かせてるのか」
エヴァは不思議そうに頷く。
「早くて便利だよ」
「……そう言う問題じゃない」
ラタはアンナリーナの返事を持ってあっという間に帰ってきた。小さな紙に是と書かれていたので、ラーシュを伴って王城に向かう。
ベルタが迎えに来てくれていた。今日はどうやら、庭園でお茶をするらしい。エヴァとラーシュは、ベルタについて庭園に向かう。アンナリーナを呼んでくるので、先にお茶をしているように言われ、席に紅茶が用意された。
その時、向こうからこちらに向かってくる人影が見えた。
「よう、エディ。今日も王女と会うのかい?」
気安げに声をかけてきたのは、騎士団長のランバルドだ。横には副団長のウルリクもいる。
何故予定を知られているのかとエヴァは首をかしげる。
「……どうして?」
「どうしてって……ここ最近、このくらいの時間に毎日王女と会っているだろ?お前の噂で持ちきりだぞ?ついに王女の心を射止めるやつが現れたって!」
ランバルドは、ニコニコしながらそう言い、怒ったような顔をしたラーシュがエヴァに詰め寄った。
「ほら見ろ!互いに相手のいない男女が、毎日、毎日会っていれば噂がたつに決まってるだろ、この考え無し!」
アンナリーナはエヴァのことを餌だと言った。だから、こんな風に噂が広がるのは、アンナリーナの望むところなのだろうとエヴァは思った。たいした反応を見せないエヴァに苛立ったラーシュがさらに言い募ろうとすると、ウルリクが間に入った。
「まぁまぁ、微笑ましいことじゃないか。ところで、君は、オールストレーム家の三男のラーシュで間違えないかな?私は、第一騎士団副団長のウルリク・ボードストレームだ」
「……ラーシュ・オールストレームです」
「実は今、騎士団はたいそう人不足でね。来年騎士団に入団する予定の君に、少しでも早く戦力になってもらうため、今からでも騎士団で稽古をつけたらどうかと、ルーカスに言づけたんだが聞いているか?」
ウルリクに言葉を掛けられたラーシュは酸っぱいものを飲んだように、少し顔をしかめる。言葉を選ぶようにしながら、答えを返した。
「いや…俺とルーカス兄上は…あまり仲がよくないので」
ウルリクは少し目を見張り、顎をさわりながら、「…兄弟仲は想定外だったな」と低めの声で呟いた。
そして、気を取り直したように、どうかな?と続ける。
「……とてもありがたいお話しですが……少し考えさせてください」
ラーシュの答えに、ランバルドとウルリクが意外な言葉を聞いたかのように目を見張った。
「……何か不安でも?」
ランバルドが静かに問いかけると、ラーシュは首を降る。
「……父上に許可を取ってからでないと」
それもそうか、と二人は納得したように頷く。
「エディも一緒にどうだい?」
ランバルドはニコッと笑ってエヴァの方を見る。
そして、ハッとしたようにウルリクとその場に膝をつき頭を下げた。
「まぁ、良いじゃない、エディ。わたくし、殿方は強い方が好きよ」
突如割り込んできた声に、エヴァとラーシュも驚き振り返る。
「……アンナ」
「王女殿下におかれましてはご機嫌麗しく」
「あぁ、堅苦しい挨拶は結構よ。ここは私的な場ですからね」
アンナリーナはさっさと手を振って、ランバルドとウルリクを立ち上がらせる。二人は苦笑しながら指示に従う。
「先ほどのお話しですけれど、わたくしは賛成ですわ。ねぇ、ランバルド。わたくしもたまに見学に行かせてくださいね」
おほほ、と笑うアンナリーナにランバルドは、もちろんと請け負う。どことなく外堀を埋められている感覚に、ラーシュは焦っていたが、エヴァは別のことが気になっていた。
急に現れたアンナリーナは、いつものように隙の無い立ち姿だが、少し息が切れているように感じられた。いつも微笑んでいるその口許が、いつもより一際深く笑んでいた。
◆
「なぁ、オールストレーム公爵。どうやら、我が娘アンナリーナと、そなたの新しい息子が、先の茶会で随分と仲良くなったようだ」
玉座のマクシミリアンは楽しそうに口許だけで笑う。
その正面で、片膝をついたアンディシュも頷く。
「そのようですね」
「私も娘は可愛い。できれば好いた者と娶わせたい。どう思う?」
――――この狸が。心にもないことを。
アンディシュは心の中で毒づきながらも、こちらにも好都合かと考える。エディは所詮孤児。失った所で痛くも痒くもない。それよりは、少しでも王城内部に伝ができる利点の方が大きい。
「我が公爵家としてはこの上ない名誉と存じます」
アンディシュは、深く叩頭する。




