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守護者の乙女  作者: 胡暖
第一章

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13.アンナリーナとの取引

 連れてきたメイドから、ふわふわのタオルを渡され、それで肩の水を拭いながらエヴァは尋ねる。


「それで、僕に何の御用?」


 メイドはにっこり笑う。


「本当に申し訳ございませんでした。我が主の命にてこっそりご案内させていただきました」

「主…?」

「わたくしよ」


 部屋の入り口に今回のお茶会の主催、アンナリーナ王女が立っていた。


「王女様?」


 エヴァはポカンと、アンナリーナを見つめる。こてんと首を傾げ、なんで?とつぶやく。


「なんで?…ですって?」


 アンナリーナは、扇をパシッと閉じて、パンパンと手に打ち付けながらゆっくりと近づいてくる。


「それはこちらのセリフですわ!?」


 エヴァの前まで来ると、ぱっと扇を広げ口元を隠しながらぐっとエヴァに顔を近づける。


「………あなた、なんで男の子の格好をしていらっしゃるの?」

「なんでわかったの?」


 エヴァは思わず普通に返してしまい、敬語が取れてしまったことに、やべっと口をふさぐ。

 くわっと目を見開いてアンナリーナは言う。


「逆になんで気づかれないと思いますの?あなた別に髪を短くして、男の子の服を着る以外に何も隠そうとしていないじゃなくて?どうして公爵家の人間は気づきませんの?目が節穴なのかしら!?」


 その剣幕にエヴァは思わず笑う。ここまで来たら取り繕うのも、と感じ、普段通りに喋る許可をもらう。


「髪を切ったら、みんな面白いように勘違いしてくれたんだ。この二か月ちょっとかな、ばれたのは今日が初めてだよ。今日は陛下にご挨拶したけど気づかれなかったよ」

「…節穴は、公爵家だけではないのね」

「王女様が鋭いんだよ」

「そんなはずなくてよ。このままだとばれるのも時間の問題ですわ」


 びしっと閉じた扇でエヴァを指す。


「そうかなぁ」


 エヴァはこてんと首をかしげる。


「ばれたらどうしますの?」

「……どうしようかなぁ、公爵家にはいられないよねぇ」


 アンナリーナは、閉じた扇でぱしぱし手のひらを叩きながら大きくため息を吐く。


「あなたねぇ、そんなのんきでどうしますの?わかってますこと?公爵家だけではなく、王を謀る大罪を犯していますのよ?加えて、野生の魔獣を使役するあなたは現状、とーーーっても危険人物として目をつけられてますのよ?」

「えぇ?」


 エヴァは目を見開く。そんな大ごととは露ほども考えていなかった。


「このままもしばれたら、良くて魔道具で意志を奪われ、良いように扱われる奴隷。悪ければ…処刑ですわよ?」

「えぇぇ……どうしよう?」


 しょぼんとして、上目遣いでアンナリーナを見上げる。


「全く…わたくしが今日気づいてよかったわ。わたくしがあなたが女だとばれないように手助けをします」


 ぱぁっとエヴァの目が輝く。

 そこでアンナリーナは一つコホンと咳払いをする。


「…タダとは言いませんわ。わたくしがあなたを手助けする代わりに、あなたはわたくしの言うことを何でも聞きなさい」

「わかった。よろしくね、王女様」


 エヴァはにっこり笑う。アンナリーナははぁ、とため息を吐いて本当にわかっているのかしらね、とつぶやいた。そして気を取り直すように姿勢を正し、ずっと後ろに控えていたメイドに目配せする。

 すっと、メイドが前に出る。


「ベルタよ。もともとわたくしの乳母で今は侍女としてついてくれているの。何かあれば彼女を頼りなさい。…そう言えばあなた、服どうしているの?」

「ラーシュ…兄上のお下がりを着ているよ」


 アンナリーナは、はぁ、とため息を吐く。


「それはどう考えても、仕立て屋を呼ぶ前の一時的な処置でしょう?二か月そこそこで見つけられてよかった。ベルタ、エディの寸法を測って仕立て屋に。本日の非礼の詫びとしてしばらく困らないだけの衣装を送って頂戴…公爵家にも何人か手のものを入れておく必要があるかしらね」

「畏まりました」

「そういえば、あなた、エディというのは本当の名前?」


 エヴァはフルフルと首を振る。


「本当の名前はエヴァ」

「一応そこは考えていたのね…エヴァ。あなたの偽りに手を貸す以上、わたくし達は共犯よ。裏切ることは許さないわ。いいわね?」

「うん」

「わたくしのことはアンナと呼びなさい」

「わかった。アンナ、よろしくね」


 満足そうに笑ったアンナリーナは、はっとした表情をする。


「誰にもばれない、連絡の手段が必要ね…」


 そこで、エヴァは指笛でラタを呼ぶ。少し離れた場所にいても、指笛なら聞こえる。

 ちょこちょこと窓から入ってきた魔獣に、アンナリーナは、顔を引きつらせ、ベルタはアンナリーナを守るように彼女の前に出る。

 小栗鼠の魔獣はチチチッと鳴きながらエヴァの肩に上る。


『小僧がたいそうお怒りだったぞ、エヴァ』

「えぇぇ、それ本当?…」


 ラタに、弱ったなぁと返しながら、アンナリーナに紹介する。


「ラタだよ。この子に毎晩手紙を持たせるから、何か用があったらこの子に渡して。もし触るのが怖ければ、窓辺に手紙を置いておいてくれたら回収するから」

「…あなた、本当に魔獣を操るのね」


 扇で口元を隠しながらアンナリーナはぽつりと話す。


「操ってるわけじゃないんだけどねぇ」


 苦笑しながら返すエヴァを食い入るように見る。


「…分かったわ。定期連絡にはこの子を使いましょう。こちらから緊急の用事がある時は、ベルタを行かすわ………ねぇ、エヴァちょっと触ってもいいかしら」

「お嬢様!?」


 エヴァはにっこり笑ってラタを手のひらに載せる。その手のひらをそっとアンナリーナに差し出した。恐る恐る、ラタに触るアンナリーナ。


「…温かくて、可愛いわ」

「よかったね、ラタ」


 ラタを触り満足したらしいアンナリーナはお茶会へと戻り、エヴァはベルタに採寸された。

 その後、気になっていたらしいベルタにもラタを触らせ、部屋を後にする。



「……どこへ行っていたんだ?」


 中央庭園の生垣の外には仁王立ちのラーシュが待っていた。


「ご、ごめん。お水かけちゃったお詫びにって、王女様が…」

「全く…何かあったら、魔獣で連絡するんじゃなかったのか」

「ご、ごめんね。次からは気を付けるから」


 ふくれっ面のラーシュをなだめながら、アンディシュと合流し、エヴァは王城を後にした。


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