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守護者の乙女  作者: 胡暖
第一章

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9.王族

 降臨祭は1週間続くらしい。

 保護者ユーハンの仕事の都合で、エヴァ達は祭りの3日目に行くことになっていた。


「せっかく降臨祭という王族の由来の祭りに行くんだ。これを機会に王族についての知識を入れておくのは悪くないだろう」


 そう言うユーハンにより、今日の授業は、王族の成り立ちになった。


「我が国の王族はもともと、虹の橋を渡った神族の国の青年と、人間の女性が結ばれたことから始まった。そこからは、神族の血を引く子供が、代々王となり、国を治めている。王族は毎年初夏に、虹の橋を渡り、神族に参拝しているが、これはご機嫌伺いと、年頃の王女がいる場合は、神族の青年とのお見合いを兼ねている」

「…お見合い?」

「あぁ。我が国の王は基本的に、神族の血を引いていないといけない。昔からの習わしでな。だから、在位中の王の息女を神族に嫁がせ、その王女が産んだ長男を、我が国に送り返――――授けていただく。その子どもが、次の王となる。こうして続いてきた」

「じゃぁ、王様は本当に神様の血を引いているんだね」

「あぁ」


 ユーハンは頷いて、一度口をつぐむ。

 厳しい表情で、エヴァに告げた。


「…ここから先は、貴族社会では暗黙の了解となっていることだが、誰かに聞かれれば不敬罪で首が飛ぶ。絶対に外で口にするな」


 エヴァが頷いたのを見て、ユーハンは言葉を紡ぐ。


「現王陛下、マクシミリアン様は、前王の息子だ」

「…?あれ。次の王様はお孫さんになるんじゃないの?」


 ユーハンは頷く。


「そうだ。現王は、神族の血を引かぬ王。…口さがないものは簒奪の王と呼ぶ」


 エヴァは目を見張った。


「もともと、次の王が成人なさる前に、前王が斃れた場合に限り、王の子息は、次代の王が大きくなるまでの中継ぎ役として、その位を戴くことはあった。しかし、現王は、前王崩御による即位後、神族に嫁がれたキルスティ王女の子供を待つことなく、自身の子息を皇太子として宣言。それだけではなく、自身の娘を神族に嫁がせることなく、有力貴族に降嫁させる腹積もりのようだ」

「…?それはいけないことなの?」

「正統な王の器ではない人間が玉座に座るだけでなく、その血族を次期王に据えるとは…。受け入れられない貴族が殆どだ。そもそも、王の息子たちは次代の王が決まると臣籍降下して、王族ではなくなる。王族でなくなるとどうなると思う?」

「…どうなるの?」

「貴族になる。結婚する相手の家に養子に入り、その家を継ぐ。そのため基本的には女児ばかりで男児のいない家に婿入りする。もしくは、母方の生家に養子として入る。生家に嫡男がいる場合、当主代理の身分が与えられ、本人が生きている間は、その家で過ごすことができるようになっている。結婚も自由だ…つまり、われわれ高位の貴族の殆どは王族の血が入っている」

「…そっか。自分も同じ立場だから王になりたいって人が出て来るってこと?」

「そうだ。マクシミリアン陛下はまだしも、その子息のヘンリック様程度の血筋であれば、他にもいる。王として戴くことに疑問を持っている高位貴族も多い」

「…そうなんだぁ」


 エヴァはほう、と息を吐く。


「でも、じゃぁなんで高位貴族の人達は陛下を止めないの?」

「…我々、高位貴族の筆頭である九大公は、三屋号ずつの公爵家、侯爵家、辺境伯家からなると言うのは前に話したな。陛下は成人後すぐ、この三公爵家----ベルマン、オールストレーム、カッセルから一人ずつ夫人を娶った。…いつから計画していたのかは知らないが、結果、この三夫人が人質となり、身動きがとれない状態となっている。政治が荒れるでもない限り、しばらくはこのまま膠着状態になるだろうな」


 なんだかとても難しい話に、エヴァはそっかぁ、と返すだけにとどめた。


「あれ?今度あるお茶会を主催する王女様って…」

「…話したか?」

「んーん、ラーシュに聞いたの」

「あぁ。…そうだな、本来であれば、神族に嫁ぐはずの王女だ」


 エヴァはこてんと首をかしげる。高位貴族は王位継承を本来の形に戻したいはずだ。神族に嫁ぐはずの王女を娶るなど本意ではないだろう。


「そのお茶会になぜ貴族は参加するの?」

「陛下に叛意ありと取られないようにだな」

「……それって、お見合い成立するの?」

「してないから、何度も開催されるんだ…」


 エヴァはあちゃーという顔をする。

 自分は物心がついたころには婚約者がいた。それはそういうものか、と思っていたから何とも思っていなかったが、王女はどう考えているのだろうか…。

 そもそも、王女は、神族に嫁ぐべきと育てられたのか、それとも、逆に貴族に嫁ぐべきと育てられてきたのだろうか。何にせよ、高位貴族の多くが、王女は神族に嫁ぐべきと、考えている状況で主催するお茶会について、どう感じているのだろう。

 エヴァは王女に聞いてみたいことがたくさんあるなぁと考えながら、次のお茶会で機会があったら聞いてみようと思った。



 その日の授業の後、部屋を出る前に、ふとエヴァはユーハンにラーシュのことを聞いてみたくなった。ラーシュと出かけると言った時に、引率を申し出てくれたのだ。ユーハンはラーシュのことをどう思っているのだろう。


「そういえば、ユーハンもラーシュのこと嫌いなの?」


 ユーハンは片眉を上げる。


「も?…何故私があれを嫌う?」

「ルーカスは嫌いみたいだから…」

「……あぁ」


 ユーハンはため息とも相槌ともつかない声を出す。


「ラーシュの出自については?」

「ラーシュが教えてくれた」

「…そうか。私はルーカスもラーシュも等しく弟だと考えている。……強いて言えば、父上の配慮の無さは少し癇に障ったが…」


 ユーハンは眉根を寄せてつぶやいた。


「配慮のなさ…?」

「いきなりラーシュを連れてきて、家の中を引っ掻き回した割に放置しすぎだ…」


 エヴァは、初めて会った時のアンディシュのことを思い出した。

 無駄を一切省いた物言いといい、確かに、ラーシュという存在に、家人がどう思うかなど気にしなさそうな人だったなぁと思う。


「ルーカスはなんでラーシュが嫌いなのかな?」

「あれは、母上が好きだからな。それに、ラーシュが来た時、まだ幼かったこともあって、自分の立場を取られたようで気に入らなかったのだろう。それを引きずっているんだろうな」


 仕方のないことだと、呟く。


「そっかぁ…」


 エヴァは、そう返しながらも、ユーハンはラーシュをきちんと家族と認めてくれていることが分かり、温かい気持ちになる。ラーシュはこのことを知っているだろうか。

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