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守護者の乙女  作者: 胡暖
第一章

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8.お出かけ準備

「…お前、昨日は何してたんだ」


 午後にラーシュの部屋に行くと、開口一番、ラーシュにそう聞かれた。


「あぁ、昨日はね、ルーカスと騎士団で騎獣と遊んできたんだ」

「…何してたんだ?」


 エヴァはきちんと答えたのに、ラーシュは怪訝そうな顔をする。


「ごめんね、昨日は急なことだったから。今度から留守にするときは、事前に伝えるか、ラタに伝言を頼むね」

「…別に、お前の心配なんかしてない」

「心配してくれたの?」


 不思議そうにエヴァが聞くと、くわっと目を見開いたラーシュに否定される。


「お前が、変なことしてないかと思っただけだ」


 ぷい、とそっぽ向かれたので、エヴァはくすくすと笑う。

 ふと、昨日のことを思い出して言う。


「ラーシュは、こんなにいい人なのにね。昨日、ルーカスになぜラーシュに冷たくするのか聞いたんだけど、教えてくれなかった…」


 ラーシュは大きくため息を吐く。ふと冷めた目で、エヴァを見据えて言う。


「もう今更だ。余計なこと、しなくていい」

「でも…」

「いいんだ。家族だからって、仲良くしなきゃいけないなんてことないだろう。あいつが俺のことを許せないように、俺だってあいつと仲良くしたいなんて考えてない」

「…そっか」


 エヴァには家族がいなかったから、親子の繋がりにひどく憧れがある。ラーシュには家族と呼べる人がいるのに、その関係の希薄さをどうしても残念に感じてしまうのだ。それでも、これは自分のエゴだなと思いなおす。

 一度にっこり笑って、話を打ち切り、別の話題を探す。


 これまでのエヴァは、朝起きたら、神に祈り、朝食をとり、部屋に引きこもり、たまに刺繍をし、昼食をとり、司祭様の説教を受け、夕食をとりそして寝る。毎日毎日同じことの繰り返しだった。たまに、エヴァの世話をしてくれている街の女たちが家に帰った夜に部屋を抜け出し、フェンの背に乗り散歩をする。代わり映えのしない生活に、ゆっくりと朽ちていく気がしたものだ。最近は毎日新しいことを教えてもらい、行動の制限を受けることもない。せっかくなので、今までできなかったことを全部してやろう!エヴァはそう考えていた。


 ――――まずはなんだろう。お菓子をたくさん食べること?

 これは今のご飯で十分か。


 これまでは、バザーの際に振る舞われる質素なクッキーを年に数度食べるだけだった。今は毎食デザートが付いてきて、何なら午後のティータイムまである。


 ――――他には…あ、明るい内に街を見てまわりたい


 他には何があっただろうと考えて、そもそも世の中のことを知らなすぎたことに気づき項垂れた。


 ――――まぁ、いいよね。これから知ったことを、片端から挑戦していけば!


 取り敢えず、街に行こう。そう決めて、ラーシュに言う。


「ねぇ、ラーシュ、街に出てみたい!」


 エヴァにとっては一生懸命考えたことなのに、ラーシュからはすごく嫌そうな顔で見られた。


「…突然何だ」

「ラーシュ、楽しいことをしようよ!僕まだ、王都を見て回っていない。一緒に行こう。きっと楽しいよ」

「…俺は楽しくないと思う」


 ラーシュは憮然としていたが断らなかった。エヴァはそう判断して話を続ける。


「ねぇ、いつ行く?今から行く?」


 ラーシュは大きくため息を吐く。


「今から何の準備もなく行けるわけないだろ。お前、ユーハン兄上の許可を取ってこい。兄上がいいって言ったら連れて行ってやる」

「わかった!」


 エヴァは目を輝かせて頷く。明日の午前中の勉強会で、聞いてみよう。そう心に決める。


「…大体お前、王都のどこに行きたいんだ?」

「…どこ?」

「………王都は広い。行く場所決めとかないと、1日で回り切れるものでもないぞ」

「んー?どこがおすすめ?」

「…知るか」


 生粋の王都育ちのラーシュには王都に特別物珍しさなどない。

 物見遊山に街に出たこともないので、何も思いつかない。


「行きたい場所も決めておけよ」

「はぁい」




 夜、自室でルンルンと貴族名鑑をめくっていると、入浴の準備ができたと呼びに来たアルフに「なんだか楽しそうですね」と声をかけられた。


「うん。ラーシュに王都に連れて行ってもらおうと思って!」

「…ラーシュ様にですか?」

「うん!ねぇアルフ、王都のお出かけにお勧めの場所あるかな?」

「…そうですねぇ。今なら降臨祭の時期ですね。今は準備期間ですが、間もなくお祭り本番がありますよ」

「コウリンサイ?」

「えぇ、昔々、虹の橋を渡ってきた神族の子孫が、現王であるという由来から、毎年王族が虹の橋の参拝から戻ってくる頃に開催されるお祭りです」

「へぇ!面白そう!」


 そこからアルフは、降臨祭の説明をしてくれた。


「降臨祭では、皆仮装をします。もともとは神を模したものだったそうですが、だんだんと仮装の定義が広がって行ったようで今では色々な格好をした人がいますね。ただ、女性は皆頭にピサラと言う水色の小さな花弁の花で作った花冠をのせ、男性はピサラの花束を持っています。人間の女性を見初めた神にあやかり、男性はピサラの花束を意中の女性に渡し、女性がその想いを受けとる場合は、花束から1本のピサラを取り男性の胸元に飾ると言うイベントがあるんですね。そのため、胸元にピサラが飾られている男性は、相手がいると言う意味になりますよ」

「教えてくれてありがとう、アルフ」

「いいえ、楽しんできてくださいね」


 にっこりと笑って、アルフは退出していった。

 エヴァはその日、寝付くまでワクワクしていた。




「ユーハン、僕、降臨祭に行きたい」

「却下だ」


 翌朝、ユーハンの部屋に行くと同時にそう言うと、間髪入れずに拒否の答えが返ってきた。


「ど、どうして?」

「…逆に、降臨祭に行ってどうするんだ?」

「僕、お祭り見たことないからお祭り見てみたいんだけど…」

「不特定多数の人間が集まるところは警護が難しい。しかも、降臨祭は、そもそも平民のための祭りだ」

「…平民のためのお祭りだと行ったらいけないの?」


 エヴァの問いに、ユーハンは片眉をあげる。考えたこともなかったという顔だ。


「…いけないことはないが…行きたいのか?」


 こくりと頷く。

 ユーハンはふむ、と顎を撫でる。


「一人で行くのか?」

「ラーシュも一緒」

「…ラーシュも?」


 エヴァはもう一度こくりと頷く。

 ユーハンは何かを考えると、


「……わかった。今回は特別だ。連れて行ってやる」

「ユーハンが?」

「あぁ」


 エヴァは目を輝かせる。


「ありがとう!」



 そして午後。エヴァからユーハンが引率してくれる、と報告を受けたラーシュは頭を抱えた。

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