プチ旅
翌朝、キリヤとノヴァ、ギリアラは、冒険者登録とパーティ登録のために冒険者ギルドに来ていた。パーティメンバーにしておくと何かと便利だからだ。
「ではギリアラさんの登録が完了いたしましたので、あなた達は正式にパーティが組めるようになりました。それではパーティの名前をご記入してください。」
名前を考えなくてはいけないが、生憎キリヤには思いつかないので、ノヴァとギリアラに考えてもらう。
「ワイの呪いからとって呪剣旅団とかどうや?てか今ええ名前でたわー。ワイ生きてきたなかで一番ええ名前出たわー。」
「う~ん…私は、まったり自由観光団とかがいいかしらね。いろんなところ見て回りたいし、世界一周とかしてみたいじゃない?」
一見相談しているように見えるが、ギリアラには剣が話せる事はまだ伝えていないので全く会話していない。というよりメンバーが二人しかいないのに団をつけるのはなぜなのか。
(どっちもいいんだけど~、両方が納得するように何とかしないとね~…)
決定権はリーダーであるキリヤが持っているが、やはり双方が納得する名前でないといけないだろう。そこでキリヤは…
「じゃあ~、自由呪剣旅行団とかどうかなあ?」
「まあ…キリヤが決めることやし、ええと思うで?」
「なかなか良い名前ね。ちょっと変な名前だけど。」
パーティの名前が決まったので登録し、町を出る。人目のつかない&人が少ないところでギリアラに剣の説明をする。
「えっ!その剣呪われてるの?」
口を手で押さえて驚く。理性的な判断の下せる存在は計画の邪魔となる可能性がある故に。ノヴァは驚いた行動が少し気に入らないようだった。不機嫌そうに体を震わしている。
「名前は僕がノヴァって名付けたんだ~。まだ声が聞こえないけど~、しばらく一緒にいたらギリアラさんにも聞こえてくるんじゃないかなあ~?」
「おいキリヤ、あいつにステータスを開示させるようにしろ。どうせ把握しとかなあかんし、怪しいスキルあるかもやから。」
どうやらノヴァはギリアラのステータスが気になるようだ。キリヤがギリアラにステータスを見せてほしいと言うと、快く見せてくれた。
[ギリアラ] 人間
LEVEL27
能力数値
体力 68 力15 素早さ29 防御13 魔力20 賢さ30
属性耐性
火3 水0 風0 土0 雷0 毒2 麻痺0 やけど4 裂傷0 気絶0 呪 0
スキル
鑑定-【LEVEL4】物や人のステータスを見れる。レベルが上がるともっと詳しく鑑定できる。
生活術-ある程度の生活術を使えるようになる。野営のやり方や簡単な料理などが完璧になる。
鎖術-【LEVEL1】鎖系の武器を扱うのが得意になる。レベルを上げると技を習得できる。
会心強化-【LEVEL1】会心が出やすくなるが、スキルのレベルが上がりにくい。
「はあ、なかなかええスキル持っとんねんな…」
「私、魔物倒したことないからスキルが低いのよね…鑑定は使いまくってるから高いけど。」
レアスキルが2つもあるので十分なのだが、ギリアラは緑の髪をいじりながら悲しそうにしている。ちなみにレアスキルは鑑定と会心強化で、どちらも強力なスキルである。
「大丈夫だよ~。これから上げていけばいいんだから~。それよりお金どうしよう~…」
キリヤは今銅貨数枚しか持っていない。次の町に行っても、割りのいい依頼があるとは限らない。
「ああ、それなら大丈夫よ。宿の土地を売って金貨1枚と銀貨53枚くらいは持っているわよ。私がだいぶ売却額を上げたのよ?感謝してほしいわね。(私への評価アップのために頑張ったのよ♪)」
ギリアラは用意周到だった。どこから買ってきたのやら、大きいカバンを背負って旅に備えていた。とにかく、ここからは平原を歩くことにする。せっかくなのでバシロ平原の一番高い丘を目指して歩くことにした。
「バシロ平原では有名な場所の豊丘ね。魔物が多いけど高い丘から見下ろす景色はすごいそうよ。名前は誰かが呼んだのが定着した感じかしら?」
「へ~、気になってきたな~。」
数分歩くと、山賊的な感じで体表が緑のゴブリンが道を塞いでいた。
「うわ~、めんどくさいな~。魔法使お~っと」
キリヤは火を手に出して、ゴブリンの後ろの方に投げた。気を取られている隙にさっさと通った。もうすぐで丘につきそうだ。だがゴブリンや芋虫のような魔物が多く、なかなか進めない。
「キリが無いわね…私も武器があればいいんだけど…ん?」
足元に、ボロボロの鎖がある。これを使えばキリヤと共に一気に蹴散らせるかもしれない。とはいえ、この鎖では長く持たないだろう。
「結構軽いわね。しかもなぜか手になじむわね…スキルの力ってすごいのね。」
そう言いながら鎖をしならせて敵を叩いてみる。邪魔な魔物がノックアウトされた。でも鎖はあと一回しか使えなさそうだ…
「キリヤ、急ぐわよ!」
仕方なく、もしくはどさくさに紛れてキリヤの手を引いて一気に丘の上まで走る。魔物たちに追い込まれる形で頂上に着く。ギリアラはしれっとキリヤの背中側にいる。
「なんとか広範囲を一掃するにはどうすればいいかな~?周りが壊れないようにね~?」
「せやな…じゃあちょい強めに回転した後に振るとか。そんくらいなら、ここは高いからそんなに被害はないはずや。」
キリヤはしっかり回転するイメージを持って、剣を持ち直す。
「ギリアラさ~ん、伏せて~!」
ぐるっと一回転して回転の勢いを剣にのせて振った。いい感じの衝撃波が魔物たちの首やら体やらを引きちぎりながら飛んでいき、3メートルほどの場所で消えた。
「ふう~つかれた~。」
「結構グロイわね…気持ち悪い。」
そこまで強く振っていないが、未熟な子供にはまだキツイだろう。生き残りのゴブリンが一匹、疲労しているキリヤに襲い掛かる!
「あ、倒し漏れ。」
ギリアラの鎖技によって首を絞められたゴブリンが緑の皮膚を赤くしてもがいているが、すぐに動かなくなった。キリヤが倒した魔物は剣に吸収された。
「とりあえず拾えるもの拾って景色を楽しもうや。」
「そ~だね~。」
「あ!ノヴァと話してる!いいなあ…私も話せるようになりたい…」
丘からの景色は平原を見下ろせて、たまにぽつんと人が魔物と戦っているのが見える。バシロ町も見えて、町には米粒のような人々がせわしなく動いていた。
「いいね~。落ち着くよ~。ありがと~ギリアラさ~ん。」
「っ!いやぁ…そんなこと…」
お礼を言われて少し照れてしまうギリアラ。本当は私が魅了するはずなのになあ…とか考えているうちに昼になったのでそろそろ町へ戻って色々準備することにした。
「う~ん、あんまりいい額にはならんか~。」
魔物の素材と言っても低級のものばかりなので高くは売れなかった。が、昼食代は確保できた。喫茶店に入って果実水とパンを頼むキリヤ。ギリアラはパンとコーヒーを注文し、次の予定の話をする。
「次はもう少し大きい町に旅をしたほうがいいと思うわ。ここじゃ無理もあるだろうし。ホホジロ地方とかどうかしら?」
「ホホジロ地方~?」
「ああ、ホホジロ地方はな、山に囲まれる形になっとっんねん。そこに町があって、しかもダンジョンがあるんや。山ん中にある洞窟入る感じのダンジョンらしいで。町がどれくらい大きなってるかわからんけどな。」
「町は山に囲まれてるからダンジョンはほぼ手つかずで外の物資もほとんど入ってこない。でも町では完全な自給自足体制が築かれて、自然を活かした料理とかがあるそうよ。」
出てきたコーヒーをすすりながら答えるギリアラ。ノヴァは相変わらず物知りだ。
「じゃあ次はそこかな~、手つかずのダンジョンは気になるし~。」
次の目的地も決まり、昼食も終えたキリヤ達は露店で安売りの鎖を買い(ギリアラが選んだ)、簡易式のテントや三日分の食料を買って準備を進めていた。それがすべて終わったころには夕方になった。
「そういえば、最近勇者っていうのが任命されたらしいわよ。」
「え~、ほんと?本当なら近いうちに魔王を倒してくれるかもねえ。」
準備の途中、夫人同士のそんな会話を聞いたノヴァだが、その時は勇者なんてのがこちらに絡んでくるとは、思いもしなかった。