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呪いの剣に鞘を仕立てよう

宿屋の店長ギリアラは、自分の魅力みりょく微塵みじんも感じていないキリヤへの疑問が絶えなかった。


「私を見ても何も感じない…もしかして何か重大で私の気づいてないミスをしてた…?いやいや!あの時は服装やスマイルも完璧だった…う~んわからない!」


ギリアラは数十分悩みに悩んだ。そして、ある策を思いついた。


「そうだ!あの子は見た感じ遠くの方の村からこっちに来てた。なら旅を続けるはず!そこに私が子供だけじゃ危ないからとか言って仲間にしてもらえば…」


彼女は我ながら恐ろしいと思いながらひっそりと笑い、自らの寝室へ入っていった。


そして翌朝―キリヤは呪いの剣に叩き起こされた。


「いった~い!な~に~?」


「な~に~?やないわ!はよ起きんかい!このまんまやと10時まで寝そうやったから起こしてやったんやぞ!」


「ていうか~、なんで動けてるの~?」


剣はよくぞ聞いてくれたとばかりに、

「あのでっかいトラップラント相当魔力ためこんでてな~!吸血のレベルが一気に5になってん!そしたらちょっとやけど動けるようになったんや!」


饒舌じょうぜつに語って剣は誇らしげに胸を張った。胸無いけど。代わりに剣身を反らしているがミシミシと音を立てている。


「あんまりそらすと~、君折れちゃうよ~?」


「たわけ!こんくらいで折れるほどワイは軟弱ちゃうわ!」

とか言ってる剣をバックに入れ、部屋を出る。宿から出ようとしたらギリアラに呼び止められる。


「なんかあなた宛てに手紙が届いてるわよ。何かも一緒に入っているみたい。」


ニヤニヤしながら話しかけてくるが、当の本人はニヤけているのに気づいていないし、向けられている方もその笑顔の裏にある意味を感じ取れていない。


内容は巨大トラップラントが人を誘い込むエサにしていた宝箱の中身の事だった。適当に

読んで梱包された何かを開いてみると…


「これは…指輪やな。かなり高い魔力をたくわえてるで。これ手に入れられたんはラッキーやな!」


「うわぁ!なかなかいい指輪ね!この鑑定持ちのギリアラが保証するから絶対よ。」


どうやらギリアラは鑑定持ちのようだ。スキルレベルは低いようだが、仲間になればかなり強力といえるだろう。


「んまあそんなことよりもキリヤ、あんたに頼みたいことがあんねん。ちょっと鍛冶屋に行ってもろてええか?」


「うん!いいよ~じゃあギリアラさんありがとう~」


ギリアラにお礼を言って宿屋を後にする。ギリアラには剣の言葉は聞こえないので不思議がっている様子だが、後々の計画を考える彼女は気にならなかった。


「で~、なんで鍛冶屋に行くの~?剣は君がいるじゃ~ん」


鍛冶屋に行く道すがら、キリヤは呪いの剣に問いかける。通りにはおいしそうな屋台がある。朝ごはん代わりに買っていく。


「鍛冶屋に行って鞘を作ってもらうねん。ワイからしたら服みたいなもんや。これからずっと裸ってわけにもいかんやろ?ワイの負のオーラも隠せるやろし。あと、いつまでもカバンに入れとったらいつか裂けるで。勿体無いやろそんなん。」


「な~るほど~。そういう事ね~」


話しているうちに、この町一番の鍛冶屋と噂されている(呪いの剣調べ)場所に着いた。ドアを開け、中に入ると、筋骨隆々の髭もじゃ大男が大きな声で、

「いらっしゃいませー!!!」


と言って奥の部屋から出てきた。朝食中に来てしまったようで、肉の欠片などがもじゃもじゃの髭に数個付いている。


「いや~来てみたらお坊ちゃんだったとはな~!で、お客さん!今日はどういったご用件で?」


「この剣の鞘を作ってもらいたくて来たんだ~」


「おおー!そうか!だったらこの机に剣を置いてくれぃ!」


言われた通り、呪いの剣をカウンターのような机に置く。案の定剣を見て顔をしかめる。だが、


「こりゃあ困ったなぁ…剣の形がS字になってらぁ。これはちょいと時間がかかるでな。完成するのは夕方になるだろうよ。それでもいいかい?」

と言った。呪われていることには一切触れず、形の事のみに難色を示した。


「うん。いいよ~。じゃあ夕方にまた来るね~。後、うっかり触らないようにね~」


「そうかい。ならちょっと値は張るが俺にまかしとけ!なんたって俺はこの町一番の鍛冶屋だからな!あと、これ持ってけ。」


そうして投げられたのは標準より少し長い銅の剣だった。しかも鞘までついている。


「その様子じゃあ、他に剣ねえだろ?暇つぶしに作ったもんだから質は良くねえけど無いよりはマシだ。持ってけ!」


「ありがと~う。大事に使うね~」


バッグに銅の剣を入れて、何をしようかな~と思いながら鍛冶屋を出た。普通に装着すると地面に擦ってしまうので、バッグに入れる。


「…あの剣がいないと寂しいな~。そうだ、依頼でも受けに行こ~っと。」


呪いの剣がいないこと寂しく思いながら、バシロ依頼受付所に足を運ぶ。


「う~ん…どれがいい依頼かわかんないな~。とりあえずこのEランクのホーンラット討伐にし~よおっと。昨日見たやつだけど~」


昨日のホーンラット10匹討伐が残っていたので、その依頼を受けてさっそくホーンラットが目撃された森に行くが、

「迷っちゃった~。ま~大丈夫か~」


迷ってしまったというのに相変わらず能天気である。木陰のせいで薄暗いのは普通怖いだろうに。しばらく周囲を歩いていると、ガサガサと茂み動き始めた。キリヤは茂みの奥を覗いてみた。


「あ、いた~。ホーンラットが1、3、5…あれ~?9体しかいないな~。まあいいか。」


茂みから飛び出して銅の剣を鞘から抜き、ホーンラットめがけて突き刺そうとする。魔物なのでそこそこの大きさだがネズミはネズミ。素早く動いて躱し、角を突き立てて飛びかかってくる。


キリヤは驚いてやたらめったら剣を振り回して追い払おうとする。一段と強く振った時に飛びかかってきたネズミの胴体に当たり、ネズミが真っ二つになった。


普通の銅の剣は攻撃力が素晴らしく低いものの、この銅の剣はただ狩るには十分な性能を誇っているようだ。流石町一番の鍛冶屋といったところか。


「あ、案外いける~。よ~し!かかってこ~い!」


飛びかかってくるホーンラットを次々に切り裂き、8匹目を倒したとき、最後のホーンラットが一目散に逃げ去っていった。


「あ~!待ってよ~」


素早く逃げていくが、何とか食らいついて追跡する。ホーンラットは崖にある穴に入っていった。9匹のホーンラットの巣として使っているのだろう。中くらいの犬ならば入れそうだがキリヤは人間。諦めて帰ろうとするが、穴から出てきた魔物は到底見過ごせるものではなかった。


「ホーンラットの…巨大種か~…これは討伐しないとね~。追加報酬貰えそうだし~」


ホーンラットの巨大種。それは犬ほどの大きさを持ったホーンラットで、生半可な防具をやすやすと貫く鋭い角を持つホーンラットのリーダーである。


あまりホーンラットは群れない種族だが、たまに群れている事があり、その中で最も強い雄がこのように巨大化し、性格も凶暴で大軍を連れて村や町などを襲うこともある。しばしば言い伝えとして親から子供に聞かされる。


「まだまだ数がいないうちに討伐出来て良かったかもね~。」

とキリヤは戦闘態勢に入る。巨大なホーンラットの突進だけは受けたくないものだ。


「チャア!!!」


先陣を切ったのは9匹目のホーンラット。だが簡単に斬られて真っ二つになった。目の前で仲間を斬られて大層ご立腹なホーンラット巨大種は、怒りに身を任せて突進をしてきた。


「お~っと。危ない危ない~」


キリヤはひらりと避け、避けた時に斬りつける隙があることが何度も回避してわかった。


「チュウウウ!!」


今度は突進をせずに二足で立ち上がり、爪でひっかこうとしてきたが、剣のリーチには敵わずにあっさり弾かれ、がら空きの腹に銅の剣を突き刺された。傷は深いが突進を繰り出してきた。


「これで~トドメだ~!」


突進を回避してすれ違いざまに一閃。ホーンラット巨大種は絶命し、横ざまに倒れた。もしキリヤが年相応にステータスがあって、スキルもあれば若い巨大種の討伐も早く終わっただろう…


「ふ~。討伐した証拠集めてさっさとか~えろっと。」


倒したホーンラットの角を全て回収し、バッグに入れて森を出た。一回迷子になったが、近くに優しい冒険者が通りかかって、帰り道を教えてもらったので無事に帰ってこれた。


「まあ!ホーンラットの巨大種がいたんですか⁉大変でしたねえ…これは銅貨10枚、いや、20枚渡すべきですよ!後で上に報告しないと…」

ホーンラットの角と巨大種の角を見せると、そう言いながら受付嬢が銅貨を20枚渡してくれた。


「ではご利用ありがとうございました~」


定型文のような台詞を聞きつつキリヤは外に出る。一度証拠を見せたら後は自分の好きなようにしてよい。ギルドで売るもよし、捨てるもよしだ。巨大プラットラントは研究用に回したので自由にはできていない。


「あ~あ。もう夕方か~。森で時間かかったからね~…とにかく鍛冶屋で剣を迎えにいこ~。」


早速鍛冶屋に言って剣を取りに行く。再び、どこか錆び臭く炎の匂いがする鍛冶屋にやってきた。


「おう!坊ちゃん!鞘、出来てるぞ!お代は銀貨1枚と銅貨70枚ってとこかな。」


「あ!お金足りないよ~…ごめんなさい…」


せっかく作ってもらったのに申し訳ない…と思っていたら、鍛冶屋のおやっさんがバッグからはみ出ている大きな角に気づく。


「お~!そりゃぁホーンラット巨大種の角じゃねえか!他の角も合わせて銅貨50枚で買ってやろう!」


「ほんとに~?やった~!」


ホーンラット巨大種の角は加工無しでナイフなどに使えるほど硬くて鋭いので色々重宝されている。ホーンラットは大量にいるのでホーンラット巨大種もそこそこいる。なのであまり高値では売れない。


「ところで、だ。この剣の名前はなんていうんだ?鞘に剣の名前を彫るのが俺流なんだが…」


「そういえば~この剣なんていうんだろう~?」


剣を手に取り、剣と会話をする。鞘をしたままでも大丈夫なようだ。鞣された革に金属の無骨な装飾。中々に長持ちしそうな鞘が完成したものだ。


「ワイの名前かー…そういや知らんなあ。キリヤが決めてくれへんか?」


「え~…僕が~?じゃ~あ…」

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