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ミラージュ・ダンジョンを攻略したセバスとギリアラ(気絶中)とダンジョンマスターのキリヤは、屋敷に戻って睡眠を摂った。昼前までぐっすりと眠り、昼食を食べに起きて食堂へ向かうと、ハナサが土下座をしてきた。


「あー迷った迷った。ここ広すぎるわ…ってどういうことこれっ!?」


遅れて食堂に入ってきたギリアラは、土下座をしているハナサに仰天する。


「本当に…!何とお詫びすれば良いか!ごめんなさい!ごめんなさい…!」


頭を思いっきり床に叩きつけ、使用人達がおろおろしているうちにもまた打ち付ける。頭を上げてもすぐに下がるので見えにくいが、額はかなり赤くなっている。ギリアラはひとまず止めようとするが…


「あの、そろそろそれはやめた方が…」


「父上はやってはならないことをしました!魔族に魂を売り、禁忌の魔道具に魅せられ、ダンジョンを出現させてスタンピードまで起こしました!これはそう…恥!一族の恥!」


恥!と連呼し、床に一発ことさら強力な頭突きしたハナサは、ピタッと動きを止めてしまう。セバスがひっくり返して仰向けにする。ハナサは目を回して気絶していた。


「…気絶なさってしまったようなのでここからは私が。此度の騒動は私の元主君が起こした悪行です。地位も他者からの目を欺く為に手に入れたもの。彼は娘をも利用し、持つ物全てを使ってキリヤ様とその仲間を危険に晒しました。それを、深く詫び申します。」


セバスが頭を下げる瞬間、キリヤ達以外の全ての人間が頭を下げる。下手をすれば土下座をしそうな勢いで。


「「「「「申し訳…ございませんでした」」」」」


完璧に揃った声が食堂に響き渡る。使用人一人一人が責任感を感じているのだ。自分は関係がない…そんな無責任なことを考える者は一人としていなかった。そこからは質の高い教育が伺える。気まずい沈黙が場を支配する―ことはなかった。


「うん~。いいよ~。」


「ちょ、即答かいな!もうちょい間とかあるやろ!」


ギリアラが目を見張りキリヤを見つめ、ノヴァがキリヤを窘めるように言う。


(でも~、虫たちを倒したからノヴァも進化できたじゃ~ん。)


「そうやけどもな…?空気ってもんが…」


「ふふふ。そうですか。有難い限りです…」


キリヤとノヴァが小声で話してると、にっこりしながらセバスが頭を上げる。幾分か和らいだ空気の中、顔を上げた使用人たちはどこかホっとした顔をしている。


「ささ、食事に移りましょう。料理が冷めてしまいます。」


「そうね。でもハナサちゃ…「そのままでいいですよ。」んは?」


「椅子に座らせておきました。」


「早いですね…」


主賓が気絶したままの食事が始まり、カチャカチャと食器の動く音だけがする。食事をしているのはキリヤとギリアラだけだ。ノヴァが羨ましそうに食事の風景を見ている。


「羨ましいなあ。ワイも食いたい!」


「無理じゃない。口無いんだし。」


「痛いところを…」


悔しそうなノヴァの声を聞きながら蒸したポテトを食べているキリヤが使用人を見渡して訪ねた。


「食べないの~?」


「いえいえとんでもない…私たち使用人は君主やお客様と食事を共にするなど、恐れ多くて出来ませぬ。故、私たちは後に別所にてまかないを食べるのです。」


「へ~。」


話しを聞き終えたキリヤがポテトを齧る。たった今思い出したようにセバスが口を開く。


「そういえば、お詫びの品の件ですが…」


「え、良いですよ別に…!」


スープを吐き出しかけながら断るギリアラ。しかし、もう何かしらを贈るのは確定しているようだ。セバスが続ける。


「いえ、そういうわけにはいきませぬ。本来なら現金で支払いをしたいところですが、未だ後処理が残ってますので…この屋敷にあるものの中から一つずつ差し上げようとの結論になりました。なにか、欲しいものがあれば何なりと。」


「う~ん。悩ましいな。ワイは剣やからあんまし欲しいもんないし…」


「私だって平民だから変に高いもの貰ったら心臓が止まるわよ…」


「このお肉美味しぃ~!」


欲しいものが無いと言うノヴァ、悩むギリアラ。関係なしにこんがり肉を食べるキリヤ。とりあえず食事を終え、使用人が皿を下げる間に半魔退治の報酬を考える。


「そうねぇ…私は、この鎖に付ける武器かしら?でもナイフは教えてもらったし…」


「それならば、戦闘用のナイフなどは如何でしょう。両方につければ扱いこそ難しくなりますが、火力は大幅に上がりますぞ。直ちに庫より出しなされ!」


「はっ!」


即座に使用人が反応し、皿を手に食堂を去る。十中八九ナイフを探しに行っただろう。


「わ、ワイもちょーっとだけ欲しいもんがあってな?」


「欲しい物は無いんじゃなかったのかしら?」


「う…兎に角やな!キリヤ、その…武器の図鑑とかあるか聞いてみてくれへんか?」


「いいよ~。あの~、武器の図鑑とかあったりする~?」


「ええ、ええ!確か元主君の蔵書にピッタリなものが。まあ、その武器があるのに何故求めるのかは聊か不思議ですが…冒険者に詮索はいけない行為だとお聞きしております。直ちに書庫より持ち出され!」


使用人の一人がまた部屋を出る。それを見届けたセバスがキリヤに振り返る。


「キリヤ殿にはもう一つお送りしましょう。ゴイム家の膿を取り除いてくださったささやかなお礼ですぞ。」


「あら、よかったじゃない!」


(絶対図鑑はワイのもんやってわかった上で言っとるな…)


「じゃ~あ、なにか面白い魔法の本があったらいいな~。」


「ほう?魔法に造詣がおありで?それならばまた書庫から探させましょう。」


メイドさんが書庫の方へ走る。今図鑑を探してる使用人に伝言をしにいってるのだろう。


「ふむ。言わなくても動ける…あの娘は少し面倒を見る時間を増やしますかな…」


「教育熱心ですね。」


「いえいえ…ただ孫のような感覚がしてついつい面倒見てしまうだけです。孫やらがいれば、丁度この年齢層でしょうから。」


微かな笑みを浮かべながら言う。この年齢にもなって終ぞ人生のパートナーが見つからなかった寂寥。それを僅かに感じさせる振る舞いだった。


「二、三本見繕ってきました。」


「おや、これらですか。」


数分待つと最初に出て行った使用人が布に包んだ細長い物を三つ持ってきた。布は純白で相当高級なものとわかる。わざわざそんなもので持ち出すとは、それほど中の物が高価だと示している。布を解き、中から研ぎ澄まされたナイフが現れる。


「こちらが、真空刃のナイフですな。魔力を流せば真空の刃が刃を包み、切れ味が断然上がりますぞ。また、その真空刃を飛ばすことも可能らしいですぞ。」


「へぇ…でも鎖に付けて振り回したら事故起こりそうね。」


「そうですな…次に、紅血の牙…ですな。なぜこれを持ってきたのですかな?」


「攻撃した際の傷口の治りを遅くするので…」


「まあ、そんな感じですぞ。効果は薄いなれど、積もれば凶悪な王手となるというわけですな。」


見ているだけで、背筋がゾクッとする紅の刃をなぞるセバス。持ち手はトゲトゲしてて握ると痛そうだが、鎖で繋ぐ分には問題ないだろう。


「最後に、双頭竜の延髄ですな。実際は延髄ではなく首の骨らしいですが…このナイフは一回の斬撃をした後にその傷にもう一回斬撃が行われるナイフですぞ。早い話が、一度で二度切れるナイフです。さあ、お選びください。」


骨を切り出し、研いで刃物にしたような風貌のナイフを持ち上げる。双頭竜は巨大で、このナイフを10本集めれば割合的に首の骨一節と同じになる。見た目は骨の一部をナイフ形に切り出しているだけに見えるが、切れ味は他のナイフより少々上程度だとセバスが説明する。幾分か大ぶりで、密度も膨大なために重さもあるのが難点だ。とも。さて、どのナイフも一長一短。どれを選ぶのか?

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