悪夢五星騎士
ミラージュ・ダンジョンに足を踏み入れたギリアラとセバスは恐ろしいほど順調に攻略していく。その様子をダンジョン内の様子を使ってキリヤとノヴァが見ていた。
「早くね?もう半分踏破されてもうてるけど…」
「すごいね~。」
傍目にはそう見えていても、攻略する側は結構苦戦していた。
「やらしいところに罠あるわね…」
「低級の魔物しかいませんが、奇襲が的確で厄介で進みにくいですな。罠は何とか回避できますが…隠蔽度の高い罠があればもっと危険になるでしょう。」
キリヤが設置したトラップの位置、魔物の配置などが途轍もなくいやらしかったのだ。魔物に気を取られていると、うっかり罠を踏んでしまう位置だったり、魔物が罠に誘導する動きをするなどなど。この先ダンジョンが成長して強力な罠や魔物が出てきたら…そう思うと二人はゾッとしたのだった。
「あ、ボス部屋ね…一体何がボスなのかしら?」
「オオコウモリやスライムというわけでは無いでしょう。とりわけ、今回の騒動ですから必然と…」
「いや、あの蟲じゃないことを祈りましょ。」
なんとなく感じ取って入るのか、ギリアラの顔が青い。一方コアルームにいるキリヤは、ノヴァと今後のダンジョン構成について話していた。
「う~ん、さっきのところ~、もうちょっと…」
「あ、キリヤ、いったん中断。あの二人ボス部屋に着いたみたいやで。」
「早いね~。」
一時間も経たぬうちに到達されてしまった。その要因は、分かれ道に出てもセバスが正解の道を迷いなく選んで進むからである。扉を前にするギリアラたちを前に、ノヴァが尋ねる。
「あそこのボスはなんや?」
「しらな~い。あの子に任せたから~。」
あの子とはマザーの事だ。ちなみにナイトメアはゴキブリの見た目をしているが、生態や習性はアリに近く、キリヤ・ダンジョンの構造がアリの巣のようになっているのもこれが原因。普通のナイトメアとガーディアンはメスで、ナイトがオスとなっている。
「お、扉開いたな…あれは、ナイトメア・ナイトか?なんで五匹だけ…」
「わ~、綺麗な陣形~。」
ピシッとした佇まいのナイトメア・ナイトが二人を迎える。ギリアラはそれを見て気絶する。ナイトメアの陣形は星の形をしていて、前から順に、突破役、盾役、攻撃役となっているようだ。
「キシー!」
突破役のナイトメアがいきなりセバスに襲い掛かる。遊撃も兼ねているそうだ。
「む、なかなかやりおる…生まれたばかりとは思えませぬぞ。」
他のナイトが動かないので、セバスは気を配りながら何をしでかすかわからない突破役をあしらっていく。
「キシャ―!」
盾役がいきなり動き出したことで、セバスの意識がそちらへ向く。それと同時に天井の一部が剥がれ、中から三匹のノーマルナイトメアが奇襲をかます。
「ぬ!?」
ほぼ反射のような感じで奇襲のナイトメアを切り裂く。
「バケモンやないか!なんで反応できるんやあいつ…つーかあのマザーがこれ考えたんか?」
「がんばれ~!」
盾役の二人がセバスの攻撃後を狙うように攻撃を狙う。それを躱しながら、素早く目を壁や天井に走らせる。
「10…いえ、11ですか。」
「え、あんだけで見抜けんのか…」
奇襲用のナイトメアが完全にバレたようだ。察知能力が高すぎる…
「キシャー!キシ!」
後ろに控えていた攻撃役も動き出し、盾役と攻撃役の相手をすることになったセバス。偶に突破役が横から攻撃を与えてくる中、セバスは苦戦しているように…
見えなかった。
「ふむ。連携は良いですが、それで倒されるのは精々Bランク冒険者二人といったところでしょう。」
「十分やない?Cランクパーティ余裕で倒せるってことやろ?」
「わ~、止めないとあの子たち死んじゃうよ~!」
キリヤがコアルームを飛び出したと同時に、セバスが殲滅しようと動き出す。
「ストップストップ~!それ以上はだめ~!」
「む、キリヤ殿?どこから?」
「それより~、そこまでにしてよ~…ボスが弱くなったら大変だよ~。」
「それも、そうですな。」
納得したセバスと一緒に、ダンジョンを出る。ギリアラを背負って。その道すがら、セバスが面白い話をキリヤに聞かせた。
「そういえばキリヤ殿。五星騎士というのを知ってますかな?」
「知らな~い。」
「そうですか。では少し。五星騎士とは、かつて存在した五国の中から一人ずつ選ばれた強い騎士たちの事です。かなり古いお伽噺ですが、有名ですぞ?」
「一人一人が尖っていながらも完璧な連携をしたことから五星騎士と呼ばれていたそうです。あのナイトたちを見ていると五星騎士が思い浮かびましたよ。」
「へ~。」
その五星騎士は様々な武勲を立て、その名を冠した国や子孫が今でも存在するとも言われているとか。その話を頷きながら聞いていたノヴァは、しみじみとつぶやく。
「言うなら悪夢五星騎士やな。」
「そうですな。」
「…ん?」
ノヴァの口元が訝しげに歪む。やっぱり問い詰めてやろうと口を開くも、外の暗闇とわずかに差し込む光に、キリヤが反応した。
「外だ~。」
「もう遅い時間。積もる話は後にして、屋敷で眠りましょうぞ。」
もうすでに真夜中と言っていいほどの時間帯で、ハナサの待つ貴族街へ三人が歩き出す。なお一人はまだ担がれている。
「ふへ~…疲れちゃったよ~…」
「一日濃すぎるやろ…もうしばらくはこんなんないとええな…」
テンペスの屋敷の客室の大きなソファ。その上でごろりと転がるキリヤ。キリヤの体格なら、ソファでもベッドのよう。ノヴァも瞳を閉じて寝ている…風にしている。雰囲気が大事だとか。
「おやしゅみ~…」
「はい。おやすみなさい。やっぱ寝んの早いなあ…まあ最近は寝るの大好きも矯正されてきたし、頑張ってるんやろうな。」
しみじみと呟くノヴァ。だが、本来の性格が捻じ曲げられているというのは非常に危険な状態なのだが、ノヴァはそれに気付いていない。ステータスの確認を怠ったのも、原因の一つだろう。種は既に発芽し始めている。そして朝は来る。
「うあ~…おはよ~…」
「おはよ。相変わらず遅いなあ…起きんの。」
キリヤは昼前に起きた。キリヤにしては遅いのか早いのか…
「ごはん~…」
「キリヤ殿。食事の用意が出来てますよ。といっても昼食ですが。昨日の疲れが取れぬようであれば、もう一度睡眠を摂った方が…」
「ううん~、起きるよ~。」
いつの間にか来ていた笑顔のセバスがご飯を知らせに来た。大きく伸びをして、ぴょこんとベッドから降りる。食事の場で剣を持つというのも…とキリヤが思っていると、相変わらずニコニコしているセバスが良いですよと言ったので、ノヴァも連れていくこと。
「うっわ~、貴族の飯すごいな。冒険者が食うやつとは別格やわ…」
「あ、キリヤ様…この度は馬鹿な父上がご迷惑をおかけしてすみませんでした!」
食堂と思しき部屋に入ると、長テーブルの奥の席に座っていたハナサが入口までやってきて数人の使用人やギリアラが見てる前で土下座し始めた。これには一同びっくり仰天。騒がしくなる中、謝罪の言葉を連ねていくのであった…




