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蜃気楼の迷宮

ダンジョンを攻略したキリヤは何の因果かダンジョンマスターに認定されてしまう。早速魔物を生成するが、いきなり光り出し…


「な、なんや!いきなり光ったで?まぶしっ!」


「なんだろ~?」


光が収まると、二回り大きくなったナイトメアが立っていた。しかし姿は似れども差異がある。その特徴は、そう。


「マ、マザーやな。」


「大き~い。」


マザーと普通のナイトメアはちょっと違う。大きさや触角の形、甲殻の質感に顔の雰囲気等々。しかしこのマザー。まだ若い個体だからか、群れを率いていたマザーよりも幾分か小さい。これから成長していくのだろう。


≪ナイトメアは他の個体が本ダンジョン内に存在しない場合、自然に進化しナイトメア・マザーとなります。単体で卵を産み、群れを増やしていきます≫


再びマザーがお辞儀する。今度は気品の感じる優雅なお辞儀だ。少なくともそう見えた。説明を聞いたキリヤが、目を輝かせて促す。


「へ~。ねえ、卵産んでみてよ~。」


「///」


言う相手を間違えたら爆弾発言必至なキリヤの言葉に、マザーは顔を逸らして体をもぞもぞと揺らしている。貴重(誰得)なゴキブリの恥じらい姿である。


「どうしたんだろ~?」


「恥ずかしいんちゃうか?」


もじもじするマザーを鑑賞していると、半透明な板がキリヤの視界にすっと割り込んだ。ダンジョンを構成できるコントロールパネルである。


≪それでは産卵部屋を作りましょう。一つ戻って、階層追加に触れてください≫


「わ~。こんな風になってるんだ~。」


誘導通り操作すると、板にアリの巣のようなものが映し出される。これがこのダンジョンの全体図なのだろう。ナイトメアの習性が存分に現れているようだ。


≪ではボス部屋の上部に作ってみましょう≫


地図中の三銃士が居た部屋が赤く光って、その上を指すように矢印が。ボス部屋の上を新部屋として指定した。広さはナイトメアが百匹は入れるくらい。作成を押した途端、ごごごごと何かが動く音がした。天井に裂け目が生まれ、地図上にも新たな部屋を表す図が出た。


「お~、部屋ができた~。」


≪では、その部屋を産卵に適した部屋にするために罠・施設設置に触れてください。そして部屋を指定し、適温調整、生育強化、適当な罠をDPを消費して実施してください≫


ぽちぽち~と言いながら手早く設定するキリヤに、キリヤって器用よなー…と呟くノヴァ。そうしている間にも、適温調整に生育強化。無いとは思うが侵入対策に、闇討ち(足元から弱攻撃を与える。地味に痛い)と落とし穴:小(足が脛辺りまで沈む穴を生成。運が悪いと骨が折れる。)を仕掛けた。


「一緒に行こ~。ん~?乗せてくれるの~?」


こくこくと頷くマザー。ぴょんとマザーに飛び乗り、座る。マザーは気を遣うように一定の速度で新部屋までの道のりを歩く。


「まさかマザーに乗るなんてなあ…キリヤすごいで。」


「わ~い!たのし~!」


キャッキャしてる間に新部屋に到着する。見た目は完全に行き止まりの部屋。何の変哲もないように思えるが、地味にいやらしい罠が仕掛けられている。


「罠あるようには見えへんな。」


「ここが君の部屋だよ~」


「(わ~い)」


嬉しそうに部屋を駆け回るマザー。ノヴァが卵産むためにも出ようなと言い、キリヤは退出する。ダンジョン内の様子で覗けるものの、そもそもキリヤは覚えていなかった。覚えていたとしても、ノヴァが止めることだろう。


≪施設の設置もしてみましょう。現在は鉄鉱山が三か所設置されています≫


「う~ん…いいのないなあ~…」


「じゃあ保留でええんちゃう?鉄の安定供給は強いし。」


保留を頭に思い浮かべると、声が響く。


≪お疲れさまでした。これでチュートリアルは終了です。当分はダンジョンレベルを上げることを目標としてください。レベルを上げることで新たな施設や魔物、DP等が増えます。期待しています。マスター≫


声はそう締めくくって消えてしまった。


「レベル上げるにはどうするんやろな?」


「ヘルプしてみよ~。どうやってダンジョンレベル上げるの~?」


≪侵入者がダンジョン内に侵入したり、侵入者が魔法を使ったり、侵入者が死亡したり、ダンジョン内の魔物のレベルが上昇するなどすると経験値が溜まり、一定に達するとレベルが上がります。レベルなど細かい数値などはダンジョンポイントの残量で確認できます。ヒトで言うステータスのようなものです≫


ダンジョンは生物の『ような』存在ではなく、生物なのだろうか。キリヤから解説を聞いたノヴァが、提案をする。


「それやったら一回執事の爺さんとギリアラにダンジョン入ってもらったらどうや?」


「いいね~。それじゃあ魔物を適当に~。」


オオコウモリやスライム、たまにナイトメアを配置する。ゴブリンや触手?は設置するとDPが底を尽きるため中止する。それにギリアラとぶつけると大変なことになりそうである。


「う~。20DPしか残ってないよ~…」


「まああの二人入ってきたら多少回復するんちゃう?」


≪ダンジョンの入口まで転移しますか?≫


「できるんや…」


ダンジョンは恐ろしいまでに融通の聞く存在なようだ。ぱっと光景が変わり、夜空がキリヤを見下ろしている。ダンジョンを弄っている内に、夜となってしまったようだ。すでに冒険者も騎士も引き上げていったらしく、清閑な草原が広がっていた。


「じゃあキリヤが戻るまでもう少し…」


「ふむ。そうですな。魔物が這い出しては危険ですし。」


「あ、二人とも~、ここに来てたんだ~。」


ギリアラは首が飛びそうな勢いで振り返って声の主を確かめようとし、セバスに至っては高速で移動してキリヤの首に刃を添えていた。


「…キリヤ?」


「わかりませぬぞ。擬態かもしれませぬ。」


ギリアラは鎖に手をかけつつ、セバスは本気の殺意を向けて警戒する。キリヤは呑気に首をかしげているが、ノヴァは必死に囁く。


「ワイや。ノヴァや。こいつは別に魔物が化けてるわけちゃうって言ってくれギリアラ…!」


いくら擬態が上手い魔物でも、呪いの剣はそうそう模倣できないだろう。ノヴァの声を聞いたギリアラは鎖から手を放し、セバスを制止する。


「…セバスさん。そのキリヤは本物です。彼の剣を見ればわかりますよ。」


「む。そのようですな。失礼しました、キリヤ殿、ノヴァ殿。」


剣をおさめ、頭を下げるセバス。


「うんうん…ん?」


ノヴァのニターっと笑ったような口角が下がった。


「それ、ワイの…」

「で、キリヤ殿。このダンジョンはどうでしたかな?」

「ちょ、聞いて…」

「う~ん、どう言えばいいんだろ~?」

「キリヤまで!」


何故かいじけてしまったノヴァをギリアラがなだめる。キリヤはダンジョンで起こったことをセバスに話し、ダンジョンマスターになった旨も伝える。


「なんと…長く生きてきましたが、話したのは初めてです…!ところで、ダンジョンの名前は決めたのですか?」


「そんなのあるの~?」


「はい。著名なダンジョンでは入った瞬間頭に思い浮かぶのです。名前ではありますが、そのダンジョンの傾向を表すものですから大事な要素です。」


ほへ~と納得し、キリヤがダンジョン内に一歩踏み出す。ギリアラやセバスからすれば、空中で見えない何かに触れている不思議な様相だった。


「名前設定したよ~。ついでに攻略してみてよ~。」


「それほど難易度高ないし、直ぐ踏破できるはずやで。」


「ナイトメア…いるのかしら…」


「面白そうですなあ。」


セバスは嬉々として、ギリアラは渋い顔をしながらダンジョンに飛び込む。二人の頭の中に≪ミラージュ・ダンジョン≫という文字が浮かぶ。どこか笑いがこみあげてきて、ギリアラとセバスは顔を見合わせてくすくすと笑った。あの子らしい。そう思って。

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