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サーバントの最期

苦戦の中、ノヴァの強化により木枯らしの騎士に見事勝利したキリヤ。しかしマクラーゲンの旧知の友であるサーバントは目も開けられない位に衰弱しきっていた…


「マッくん…」


「喋ったで!?」


口を開いたものの、声は弱々しく、声にならなかった息がヒューヒュー通り抜けている。マクラーゲンは頭を振り、優しく声をかける。


「おい、無理するな…お前は寝てもいいんだ…」


「らしく…ないね。君はやかましいくらいが丁度よかったじゃないか。」


恐らく残りの力を全てふり絞った会話。その貴重な時間を使ってマクラーゲンの腕の中で思い出話をしていた。後悔の無いように…


「ふう…疲れたや。死ぬ前にマッくんの声と顔が見れてよかったよ。じゃ、少しだけ寝るかな…」


そうしてマクラーゲンの古き親友サーバントはその親友に抱かれて息を引き取った。


「…俺は王都に行く。あいつと出会ったのもあそこだ。王都で埋葬してやるのが俺にできる手向けだ…」


そう言ってサーバントを持ち上げようとした時、


「チッ。あのおっさんは使えねぇし、折角使えるまで復元した鎧は砕かれるし素体は失うし…踏んだり蹴ったりだ!」


マクラーゲンの影が水面のように波打ち、そこから灰色の角が潜望鏡のように伸び、次に濃灰の髪が現れた。バシャリと飛び出した剣士服を纏った男は、灰眼に怒りを携えている。    


「あ~、真っ黒だ~。」


真黒マグロだッ!お前を潰そうと色々計画してたのに、おかげで全部パーだ!」


歯を噛み締め、頭をくしゃくしゃに掻き乱す。マクラ―ゲンはわなわなと遺骸を握りしめる。そして感情を吐き出すように叫んだ。


「サーバントは…!サーバントはお前に利用されて死んだのかっ!?」


ノヴァを構えるキリヤは、もう一人の被害者の名を言う。


「お父さんを失ったハナサちゃんは~?」


「知るか!あー!クソッ!折角の作戦が台無しだッ!もうてめぇらの顔なんざ見たくもねぇ気分だッ!」


ガリガリ頭を掻いて吐き捨てると、鎧の残骸やらを伸ばした影に沈めて消え去った。


「ひどいよ~。人の気持ち考えないなんて~。」


「サーバント…お前はつくづく不憫な男だ…」


マクラ―ゲンは涙を流さまいとしているが、目の端には光るものが。キリヤは真黒の消えた場所をぼんやりと見ていた。


「…僕って、人を不幸にすることしか、できないのかな~。」


「へ?」


キリヤの顔はノヴァからは見えなかった。何気ないような言い方だった。でもノヴァにはその言葉の重みをひしひしと感じる。獣人、魔族、そして魔族との契約者…皆誰しもが誰かの肉親であった。


「…」


ノヴァは何も言えなかった。気の効いた言葉が、出てこなかったのだ。否定すればいいのか、肯定すればいいのか。悩んでいるとキリヤは普段通りの笑顔と顔をノヴァに向けた。


「ダンジョン攻略しないと~。また出てきたらたいへんだもんね~。」


「あ、そ、そうやな。」


「またね~、マクラ―ゲンさ~ん。」


「ああ。」


上の空なマクラ―ゲンを置いて、正面の巣穴…まさしく地面に造られた穴に近づく。ノヴァは赤い目を右に左にと動かす。


「大きいね~。」


入口は小さいが、部屋は他のダンジョン、つまりキリヤの故郷の最低難易度ダンジョンやホホジロダンジョンと同じくらいの広さがあるようだ。ノヴァはそれが好ましいことではないと知りながらも、無理やりに声を上げた。


「じゃー早速ダンジョン攻略すんで!」


「お~!」


キリヤはそう息巻いた。しかし進めど進めど特に何もない。ただ土が固まったような壁の洞窟が続くだけ。多少分岐路が多いだけで簡単すぎる。


「もしかしてあのマザーがダンジョンマスターやったんか?」


「なにそれ~?」


「ダンジョンにおるラスボスみたいな魔物や。普段ルームからは出ーへんはずやで。やけど魔物の性質には勝てへんかったんやろうな。ルームはダンジョンコアがある部屋の事や。真の最深部とも言われとる。」


退屈な探索をしながらキリヤにダンジョンの知識を教える。その途中何もないように見える行き止まり部屋に着く。引き返そうとしたキリヤに声を掛ける。


「なんかここ怪しいで。ちょっと壁斬ってみてや。もうちょい右。あ、行き過ぎや…そこ!そこを突いてみてや!」


ノヴァの指示した所を突くと、壁が崩落して鈍く輝く石が転がり落ちる。


「ただの石~?」


「いや、ちゃう。これ鉄や。ガーディアンはこれ付けとったわけか。」


ノヴァが刃を下にしてキリヤの手から離れ、ぬめった触手を出して持ち上げて見せる。キリヤはコンコンと小突く。質は中々に良い。


「かた~い。これ持っておくの~?」


「そうや。鍛冶屋に頼めば作ってもらえるかもしれんな。弾丸。」


「新しい剣は~?」


「な、ワイがおるってのに浮気するん!?ヒドイ!」


「じょ、冗談だよ~…」


ノヴァがうつむきながら涙を流す。いじけているようにも見える。


「こっちこそ冗談や。安心し。ワイはずっとキリヤの手の中がええわ。」


ただでさえニタリと笑っているような形の口の形がさらに裂ける。目も細めて、かなり凶悪な笑みになる。


「凄い歯だね~。」


「え、生えてんの?歯ぁ。」


「すっごいトゲトゲ~ってしてるよ~。」


キリヤがノヴァの口…?の歯を指で叩く。唇がある筈もなく、剥き出しだ。


「ホンマや!メシ食えるかな!?な!?」


目を大きく見開き、口を開けて嬉しそうに言う。口が追加されたおかげで感情がさらに分かりやすくなった。口が開くたびに剣身がブレるので戦闘での不安はあるが。


「さ、次々~。」


「おー!」


キリヤを案じながらも、探索を続ける。他にも鉄の採れる部屋を見つけ、外では既に夜であろう時間になって、大きな扉を見つけた。今までアリの巣穴のような様相だっただけに、人工物に違和感がある。


「これがボス部屋やな。ボスが待っとるやで。」


扉を開けて中に入ると、開けていた扉が急に閉じる。キリヤはびっくりして振り返る。そして前を向くと…


「三匹のナイト…ゴキブリ三銃士とその兵士ってところやな。」


三銃士と多数の雑兵のナイトメアに歓迎された。蟲はカサカサと嫌な音を立ててキリヤを睨みつけている。


「ここは人がいないから~、タタリイチシキ…!だめか~。なんでだろ~?」


「それな、言い忘れてたんやけど進化したときにスキルも変わってんねん。タタリイチシキじゃなくてタタリニシキになっとるで。」


キリヤがサーバント戦でタタリイチシキを使えなかった理由。それはスキルの進化により、名前が変わり発動できなかったからだった。


「なるほど~。じゃあ、『タタリニシキ』」


普段の底抜けの明るい声から一転、おどろおどろしい声が口から放たれる。イチシキの時より増して、呪詛が込められた低音となっている。


「グ…ギギギ…?」


「「「グギャア…ァ!」」」


炎さえ凍り付かせてしまいそうな寒風が迸る。その冷たさに一瞬蟲達は震え、次に苦しみだす。まるで自分に憑りついた何かを祓うようにもがく。そして三銃士を除くナイトメアが泡を吹いてひっくり返る。無事な三銃士も立つだけで精一杯の様子。


「えぐいなあ…」


「すご~い!」


動けなくなった蟲達を尻目に、部屋の中心で呻いている三銃士へ近づく。キリヤが歩くと、キリヤの近くのナイトメアは絶命する。三銃士も例外ではなく…


「あ~あ。固まっとるから一網打尽やな…」


三銃士の最後の一匹を易々両断すると、緩い地鳴りがし、壁の一部に裂け目が生まれる。ナイトメアと入れ替わるように現れたてかる甲殻を拾い上げて、向かい合う。


「なんだろ~。」


甲殻とかペースト状の何かを集め終えたキリヤは道へと近づいていった。果たして奥には何があるのやら。

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