不死鳥騎士
魔力を使いすぎたキリヤは墜落し、ナイトメアに喰われはじめる。生きたまま喰われるのは、小さな子供には耐え難い苦痛だ。だが当の本人はそれでも目を覚まさぬ程昏倒してしまっている。
「キリヤ…!やばいやばいやばい…なんとかせな。でもどうしよ…あわわっ!」
『全く…仕方のない小僧だ』
不思議な響きの声と共にキリヤに群がるナイトメアが吹き飛ぶ。高速でキリヤが上昇したのだ。しかしキリヤはボロボロだ。所々喰われて骨が見えたり内臓が出てるところもある。炎の翼も右翼が半ばで消えている。そんなキリヤが急上昇など不可能だ。
『たく、調子に乗るからだ。しばし我がその体を使おう。む…許可が無いと出来ない、か。おい、聞こえるか小僧』
キリヤを滞空させているのはキリヤが嵌めている指輪だ。契約の指輪が眩い光を放っている。先の声がまた話しかけるが、今のキリヤは右手を上げたボロ人形。到底話せる状態ではない。
『流石に話せぬか…ほれ。』
「な、なにをするんや?ってあああ!キリヤがああ!」
急にキリヤが火炎に包まれ、燃えだした。それにノヴァが絶叫する。しかしキリヤの身が焦げることもなく、むしろ失われた部位が再生してきている。
「う…あ…だ、れ?」
『我に体を渡せ。なーに、すぐ返す。』
キリヤが焦点の合わない目で虚空を見る。声もかすれている。
「だれ…でもいい、や。た…す…け」
『ふん。言われなくても。今はゆっくり休め。』
眠気に耐えられなくなったようにキリヤが再び意識を失う。それと同時にキリヤに纏わりついた炎が形を変え始める。その形はまるで鎧のようだ
『人の身など動かすのは初めてだが…まあ問題ないだろう。我は不死鳥―いや、』
ノヴァをチラッと一瞥した。
『今はこの剣と人間の体で不死鳥騎士とでも言うべきか?』
「ちょ、キリヤは?気配が消えてしもたで?え?ワイは無視?」
形を変えた炎が完全に鎧の姿となる。折れた翼は不死鳥の翼と同じくらいの大きさにまで再生し、キリヤの黒髪黒目は赤くなる。不死鳥騎士は体の調子を確かめるように手足を動かした。印象をがらりと変えた赤い目は油断なく戦場を見渡す。
『ふむ。こちらが劣勢か…ならば、悪しき者には死を!勇気ある者には力を!我は不死鳥。火の神よ、力を現せ!聖者の焔!』
通常使われる詠唱とは異なる呪文を発する。不死鳥は魔物であることから、魔物特有に発展した呪文なのかもしれない。それはともかく、不死鳥騎士は空に拳を突き出す。すると、拳から放たれた炎が空へ消える。
「この威力は…はかり知れませぬな。」
「しかし呪文からして支援と攻撃を兼ねた魔法ですかな?」
「いずれにせよ高度な魔術ですな。」
三人に分身したセバスがそれぞれ話す。いつ見ても気味が悪い。しかし今や戦場の目線は打ち出された炎に向けられている。ナイトメアでさえ侵略をせず見上げている。
「キリヤ…どうしちゃったの?」
ギリアラだけがキリヤに目を向ける。キリヤの魔力は消え、鑑定も職業以外がはじかれる。職業は不死鳥騎士。まんまなのである。
『さあ、荒れ狂え!』
不死鳥騎士が指を鳴らすと、火の雨が降り注ぎ、戦場が阿鼻叫喚の地獄絵図に様変わりした。メガゴキブリの悲鳴はもちろんのこと、騎士や冒険者も悲鳴を上げている。そもそも火が降ってきたら燃えると思うのは当たり前だ。騎士や冒険者が効果に気づくまではまだ遠そうだ。
『さあ、暴れさせてもらうぞ。火を纏わせ!飛行を早めよ!我は不死鳥。火の神よ。力を渡せ!フレアドライブ!』
不死鳥騎士が炎に包まれ、信じられない速度で突進し、ナイトメアどもを破壊する。剣は使ってない。ただ飛行してるだけだ。逃げ惑うゴキブリを破壊していく。
「お、おい!俺たちはこの火に当たっても熱くないぞ!」
「本当だ。むしろ回復してる気がする!」
「最近の若い者はこれしきの事も気付かぬか。悲しいですな。」
「鍛え方が鈍っておるのでしょうな。」
魔術を見ただけで効果を分析できるセバスがおかしいのだが。まあ幼少期を過酷な環境で生き抜くには必要事項なのだろう。
「あ、ちょ。ワイに火つけんなよ?」
『おお、すまぬな剣よ。剣を使わなくては騎士ではないよな。』
「話聞かんかい!キリヤがどんだけ聞き分けいいかよぉわかったわ…」
錐もみ飛行して空中にとどまる。左手に炎を浮かべ、ノヴァに近づける…
『エンチャント!燃盛剣!』
「ファッ⁉何すん―あつぁ!あつつつつつ!熱い!死ぬ!燃えとるって!」
ノヴァに人権…剣権はないのだ。否応なしに炎がノヴァと一体化する。
『それそれそれそれ!』
ノヴァを振る度火の飛刃が飛んでいく。火が敵を巻き込み殲滅していく。
「す、すげええ!少年め!やるな!俺も負けてらんねぇ!」
マクラ―ゲンが歓声を上げると、冒険者もそれに賛同していく。
「我ら騎士団も負けてられぬ!行くのだ!我らの忠誠心を見せろ!」
騎士たちがアジカの鼓舞に応えるように一糸乱れぬ連携をする。
『よい流れだ…押し切るぞ‼』
「もう…やめてぇ。ワイ、死ぬ…」
「このペースなら…そろそろマザーが出るころ合いでしょうな。」
「奴らは最終兵器として生みの親を出陣させますからな…」
「噂をすれば出てきたようですぞ。巣の位置もばっちり確認しましたぞ。」
ナイトメア・マザー。大量のナイトメアを産み出し、自分はナイトメア・ガーディアンに守られている通常個体の三倍の大きさを持つナイトメアだ。ナイトメアはほぼメスで、産み出すのは普通のナイトメアだが、マザーは違う。
「マザーが出てきたぞ!ナイトメア・ナイトに気を払え!」
マザーはナイトメア・ナイトとガーディアンを優先的に産むのだ。ナイトは全体的にステータスが高い。ガーディアンは防御のステが高く、硬い物を身に纏う性質もある。ナイトは通常個体と見た目が全く同じなので、一匹一匹に油断が出来なくなる。
『硬そうな甲殻…遠距離で盾蟲を破壊しても母には届かぬな。』
群れと戦う上ではナイトに気を付けないといけないが、マザーを攻撃するときにはガーディアンに気を付けなくてはならない。硬い盾で防がれたところを袋叩きにされれば目も当てられない。マザーもそれなりに戦闘力はあるが、やはり数は驚異だ。
「奴がボスだな!俺に任せやがれぇ!ガーディアンもろとも粉砕してやる!」
横薙ぎに鬼剣オーガ―を振るうが、”たった一体の”ガーディアンに防がれる。そのガーディアンは体の半分に剣をめり込ませながらもまだ生きていた。
「なっ、俺の攻撃が防がれた…?ぬ、この感触は…鉄!?」
マクラ―ゲンが剣に付いたゴミを払うかのように振ると、ガーディアンはようやく斬れた。しかしその感触に歯噛みすることとなった。
過去に鉄を纏うガーディアンはいたが、それはごく少数例。だがこのガーディアン達は纏う鉄の量も質も上だ。しかも同じような蟲が数百はいる。
「おいおい…こいつらの巣がダンジョンの可能性が出てきたぞ…!」
ダンジョンが巣ならば、豊富な鉄にエサ、さらに増殖用のスペースもある。この悪夢は終わらない。今いるナイトメアを殲滅し、ダンジョンをどうにかしない限り永遠に。




